企業にとってより良い資本構成を考える

はじめに

 最適資本構成を決定する理論的な要因は、「資金調達方法」及び「資金調達の組み合わせの比率」である。また、最適資本構成において、企業が最大化することを想定しているのは「企業価値」である。完全競争の状態では取引費用、税金を無視できる。しかしながら、実際の市場においては税金や倒産などの不完全性が存在する。企業は負債利子による節税効果を求めて負債を増やそうとするモチベーションと負債比率の上昇に伴って倒産リスクが高まる危険性を考慮しつつ、企業価値を最大化する資本構成を目指すこととなる。

資金調達方法

 企業の資金調達方法は「内部資金」と「外部資金」に分類することができる。外部資金の調達方法として銀行借入れ、社債発行、新株発行等があり、企業はこの調達方法の中からもっともコストが抑えられるように資金調達が選択される。

企業が内部資金を使って資金を調達した場合

自らが保有している自己資金を使用した場合、その企業は資本購入のための資金をほかで資産運用することで得られたであろう利子収入を失う。また、資本市場が完全競争で取引費用や税制の問題を取り除ける場合、内部資金と銀行借入れの資金調達コストも同様になる。したがって完全競争な資本市場の元では、有形固定資産や無形固定資産を外部の資金で購入しようと、自らの資金で購入しようと違いはないと言える。

企業が外部資金を使って資金を調達する場合

外部資金の内、銀行借入れと社債は負債であり、いずれも償還時には原本と利息を支払うこととなる。特に資本市場が完全競争であれば取引費用が無視され、社債と銀行借入れの資金調達コストは同様になる。新株発行の場合、株の購入者が企業の得た利益の一部を配当として受け取ると同時に株主として会社の経営に関わることができるという点で、銀行借入れや社債とは異なる性質があると言える。ただし、完全競争的な資本市場の場合、企業の調達可能額すなわち企業価値という観点から見ると新株発行による資金調達コストは負債による資金調達方法と同様となる。

資金調達の組み合わせの比率

 企業が効率的に資金調達を行い、最適な資本構成となりうるのだろうか。この問に関して、モディリアーニとミラーの二人が言及している。彼らは「理想的な資本市場では、負債と株式の資本構成によって企業価値は変化しない」という「モディリアーニ=ミラーの定理(MM定理)」を明らかにした。自由な市場経済における一物一価の法則を資本市場に当てはめると、どのような証券であっても同じ価格がつけられるはずである。このことから完全競争的な資本市場であればMM定理は成立すると言える。

しかし、実際の資本市場では様々な問題点があり不完全である。不完全市場の場合は節税効果の分、資金調達が負債であるほど企業価値が高くなる。しかし、負債が大きくなるほど債務不履行の可能性が高まり、倒産による権利の喪失や取引停止による売上減などの倒産コストが発生する。その負債の増加は節税効果の面では好ましいが、倒産コストの面では好ましくないというトレードオフの関係が発生する。この関係を図にすると、最適な負債は限界節税効果と限界倒産コストが等しくなる点Aに決まり、この点が企業価値を最大にできる最適資本構成であると言える。(図1)

MM定理に法人税と倒産コストを加味した上記の考え方をトレードオフ理論と呼ぶ。この理論では安全性の高い資産を多く持ち、高収益で課税所得の大きい企業は倒産する確率が低いことから負債利用度を高めることが合理的である。一方、安全性の低い資産を持ち、収益性の低い企業は倒産する確率が上がるため、負債の利用を抑えて株式発行による資金調達が合理的であるとされる。また、最適資本構成の考え方の一つにエコノミックキャピタルがある。自社が急激な景気減退などで訪れる損失額及び株主に負担をかけない割合でこれを下回れば企業価値低下を始める。これが最適資本構成点であるとも考えられる。

エコノミックキャピタル(円) = 現預金×0 + 売上債権×0.15+その他流動資産×0.4 +有形固定資産×0.6 +その他固定資産×1

また、それは資産の比率だけではなく、財務の健全性は資産のリスクに見合う以上の自己資本額を持っているかどうかで示される[1]。

ペッキングオーダー理論

 ペッキングオーダー理論とは、資金調達コストの大きさを表したものである。

内部資金<銀行借入<社債<新株発行

上記の階層構造順に資本調達コストが低いと考えられている。実際の資本市場では不完全性から調達コストに差が出る。内部資金が最も調達コストが低いと考えられているのは、貸し手と借り手が同一の経済主体であり、制約なしに調達することができるからである。一方、外部資金の場合、借り手の企業情報が不透明で貸し手は事前に借り手の情報を収集する必要があるほか、貸し出し後にもモニターする必要があり様々なコストが発生する。このように外部資金はより高い資金調達方法となる。

おわりに

現在においても完璧な最適資本構成の理論的な導出方法はない。企業の資本構成はそれぞれの企業の特色によって見合ったものが必ずある。トレードオフ理論やペッキングオーダー理論を念頭に置くことにより、企業にとってより良い資本構成は導けるのではないだろうか。資本構成を考えていない企業は資金調達方法を見直し、現在よりも良い資本構成へとターゲッティングしていく必要があると感じた。

【参考文献】

[1] 企業価値向上経営セミナー「企業価値向上経営の実践に向けて」講義録2016.9.12

https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/award/nlsgeu000002dzl5-att/20160912_lecture_report.pdf

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