はじめに
令和2年(西暦2020年)における合計特殊出生率の全国平均は1.34である。県別にみると最も高いのは沖縄県の1.86、最も低い東京1.13に次いで低いのが北海道で1.21、全国平均1.34となるのは栃木県である。そして、日本全国の2045年までの推計を含めた人口の推移を見ると平成27年(西暦2015年)の1億2700万人をピークに減少しており、令和27年(西暦2045年)では1億600万人まで減少すると見られている。合計特殊出生率を日本の中でも県別に見てみる。なぜ、このように差が出てくるのか。また、人口減少が地方経済にどのような影響を及ぼすのか。以下、3県、北海道・栃木県・沖縄県について取り上げた。人口変動の要因や経済成長との関係を検討して、将来の成長に関する政策課題の説明や必要な政策の提言について考察する。
合計特殊出生率について
令和2年(2020)における合計特殊出生率の全国平均は1.34である。ここで言う「期間」合計特殊出生率は1年間の出生状況に着目したもので、その年における15~49歳の女性の出生率を合計したものである[1]。県別にみると最も高いのは沖縄県で1.86、最も低い東京1.13に次ぐ北海道は1.21、全国平均1.34と一致している栃木県である。県別に見ると合計特殊出生率に差が出ている[2]。
過去の人口と2045年までの将来推計人口予測推移について
平成22年(西暦2010年)から令和27年(西暦2045年)までの日本の人口推移を下記『表 全国総人口および県別総人口』には、選択した3つの県および全人口と東京都の人口を示した。始めに全国の人口推移を見てみると平成27年(西暦2015年)の1億2700万人をピークに減少しており、令和27年(西暦2045年)では1億600万人まで減少すると見られている[4]。この全国の人口減のように今回取り上げた3県の内、北海道・栃木県の2県では人口が減少している。
表 全国総人口および県別総人口[3][4]
※平成22年度は参考文献[2]、それ以降は[3]を参照。点線の令和7年以降は予測値
北海道の人口は2021年6月1日公表の令和2年(西暦2020年)国勢調査速報によると2015年の調査よりも2.8%減となっている。これは自然減に加え、道外への転出が進んだ結果と言える。また、札幌市では1.2%増の197万5065人であるが、その他の地方の函館市25万1271人と1万4708人減(5.5%減)、小樽市の1万502人減(8.4%減)、旭川市の1万92人減(3.0%減)となっている。進学や就職のため都市部の札幌市への一極集中型が進んでいる[5]。
栃木県の人口については令和2年(西暦2020年)で193万人、前回平成27年(西暦2015年)では197.4万人と4.4万人が減少している。出生児数の減少に比べ死亡者が上回ることに加え、首都圏1都3県への転出が増えたことによる。予測では令和7年(西暦2025年)には187.3万人と減少し、令和27年(西暦2045年)で156.1万人まで減少すると見られている。自然減と首都圏への転出が進むことが予想されている。下記に総務省統計局の『国勢調査 都道府県・市区町村別特性図 昼夜間人口比率』を示した[6]。この都道府県別の昼夜人口比を見ても東京に人が集中し、首都圏の栃木県を含めた東京以外の首都圏の千葉県、埼玉県、神奈川県、茨城県は減少が起こっている。これは労働のために人が転出されていることが言え、東京に近い場所へ転居・転出が進むと言える。
図 国勢調査 都道府県・市区町村別特性図 昼夜間人口比率[12]より
一方、東京都と沖縄県はほぼ横ばいである。東京都は平成 27(2015)年国勢調査による人口を基準に、2060 年までの東京の人口を推計すると今後もしばらく増加を続け、2025 年の1,398 万人をピークに減少に転じるものと見込まれている。このような背景として区部を中心とした社会増と、それに伴う出生率の上昇による出生数の減少緩和がしばらく続くと見込まれる。一方で高齢化が進行する中、いわゆる団塊の世代が全て75 歳以上の後期高齢者となる 2025 年以降に自然減の影響が相対的に強まることが想定される。その結果、2025 年が東京の人口の転換点になると見込まれる[7]。
沖縄県は2021年7月1日現在の国勢調査確報に基づく推計人口に公表した国勢調査結果によると145.9万人である。2015年の調査人口143.4万人と比較すると25,648人で1.8%増えている。これは都道府県の中で最も高い。この人口増加の要因としては沖縄県の高い合計特殊出生率が挙げられる。「平成25年~29年人口動態保健所・市町村別統計」(厚生労働省)によると、沖縄県の2013年~2017年における赤ちゃんの出生数は、年平均で16,672人。人口千人当たりでは11.7人(全国平均7.9人)となり、47都道府県中1番目である。同期間の1人の女性が生涯に産む平均子供数を推計した合計特殊出生率では1.93で1番目である。2020年でも合計特殊出生率は1.86人で全国1位となっている。この要因として他の都道府県と比較し、親族や近所付き合いが多いこと、男系の子孫を重んじ、男児が生まれるまで出産を制限せず子の人数が増える傾向にあることが挙げられる。
また、沖縄県は長寿の県としても知られている。2017年12月13日に厚生労働省が公表した「平成27年都道府県別生命表 都道府県別にみた平均寿命の推移」によれば、2015年の沖縄県の0歳児の平均余命としての平均寿命は、全国平均より高い。男性が全国平均よりも0.50歳短い80.27歳、女性は全国平均より0.43歳長い87.44歳となっている[8]。
表 沖縄県の人口の推移
[9]厚生労働省「平成27年都道府県別生命表 都道府県別にみた平均寿命の推移」2017年参照
人口減少と地方創生
これまでの3県北海道・栃木・沖縄県の人口について結果を以下にまとめる。北海道の人口は2021年国勢調査速報によると2015年の調査よりも2.8%減となっている。要因として札幌市では1.2%増の197万5065人であるが、進学や就職のため都市部の札幌市への一極集中型が進んだ結果と考えられる。栃木県の例については令和2年で人口193万人、前回平成27年(西暦2015年)では197.4万人と4.4万人が減少している。沖縄県の人口は2021年の国勢調査結果によると145.9万人である。2015年は143.4万人と25,648人割合で1.8%増えている。要因として合計特殊出生率が1.86人と都道府県別で1位となっており、他の都道府県と比較し、特殊な例だと言えるが男児出産まで制限がなく、子の人数が増える傾向にあるという。
一方、都市部では東京の例のように合計特殊出生率は1.13であり、埼玉・千葉・神奈川の首都圏は1.2台である。大阪は1.3で京都・兵庫・奈良も低い。都市部へ集中すると子供を育てる環境が悪くなる傾向があり、合計特殊出生率は下がる傾向にある。これまで述べたように地方で十分な生活ができる状況にないことも原因であると言える。人口減少が起こると労働を主に行う生産年齢人口が減り、総生産・所得も減少が起こる。下記に内閣府の子供子育て本部による日本の人口構造を示した[9]。これによると現在3.47人に1人が65歳以上の高齢者で2045年では人口減少が進み、2.7人に1人が高齢者となる。
内閣府 子供子育て本部
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taikou_4th/k_1/pdf/ref1.pdf[9]
これらを防ぐためには、①出生児数の減少を防ぎ、子育てのために必要な所得を上げ、②働いている間に安心して子供を預けられるような保育園・幼稚園や学童など子育てがしやすい、働きやすい環境を整え、③首都圏への転出防止のため県内での雇用を創出することなどが必要であると考えられる。
政府は人口減・少子化対策のために2021年10月より幼稚園、保育所、認定こども園等を利用する3歳から5歳までの子供たちおよび住民税非課税世帯の0歳から2歳児クラスまでの子供たちの利用料を無償化とすることを決定している[10]。
また、政府は県別の経済指標を示し、県経済の実態を明らかにするために県民経済計算を報告している。県内、あるいは県民の経済の循環と構造を生産、分配、支出等各方面にわたり、計量把握することにより県の行財政・経済政策に資することを目的としている。それによると北海道は274.2万円、栃木県は347.9万円、全国1位の東京都は541.4万円である[11]。沖縄県は県民経済計算により234.9万円である[12]。収入が少なくなるほど子を育てる家庭を築く機会が少ないため、子を育てる余裕はなくなり、仕事があり、収入が期待できる県内都市部や他県への転出超過が進むと予想される。地方でも安定して人が住み続け、子育てができる環境づくりが人口減・少子化対策に必要と考えられる。最近の新型コロナウィルスの影響でも景気不安が見られ、人が集まる飲食店やライブ・コンサートを筆頭に地域社会への影響も広がる可能性がある。そこで、近年、政府は地域活性化の例として令和3年6月、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の内閣府地方創生推進事務局より新型コロナウィルス感染症による意識・行動変容とひと・しごとの流れの創出や各地域の特色を踏まえた自主的・主体的な取組の促進について提言もされている[13]。今後、様々な提案・提言が現れ、より地方を活性化させ、都市部に頼らない地方での生活を創出し、結果的に近隣住民が支え子供を育てやすい地域環境を生むことが重要と考えられる。
【参考文献】
[1] 厚生労働省 期間合計特殊出生率とコーホート合計特殊出生率
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/sankou01.html (2021.08.06)
[2] 厚生労働省 直近の合計特殊出生率「人口動態統計月報年計(概数)」令和2(2020)年
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/ index.html (2021.08.06)
[3] 人口動態統計月報年計(概数)の概況 平成22年
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei10/index.html (2021.08.06)
[4] 社会保障・人口問題研究所 「地域別将来推計人口」平成30(2018)年推計
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/t-page.asp (2021.08.06)
[5] 日本経済新聞社 北海道の人口2.2%減の538万人 札幌の一極集中進む
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC015NH0R00C21A6000000/ (2021.08.06)
[6] 総務省統計局 国勢調査 都道府県・市区町村別特性図 昼夜間人口比率
https://www.stat.go.jp/data/chiri/map/c_koku/tyuhiri/index.html (2021.08.06)
[7] 東京都政策企画局 2060 年までの東京の⼈⼝推計
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/actionplan-for-2020/plan/pdf/honbun4_1.pdf (2021.08.06)
[8] 厚生労働省「平成27年都道府県別生命表 都道府県別にみた平均寿命の推移」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/tdfk15/dl/tdfk15-03.pdf (2021.08.06)
[9] 内閣府 子供子育て本部
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taikou_4th/k_1/pdf/ref1.pdf (2021.08.06)
[10] 内閣府 幼児教育・保育の無償化について
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/musyouka/index.html (2021.08.06)
[11] 内閣府 経済社会総合研究所県民経済計算
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/sonota/kenmin/contents/mokuteki.html (2021.08.06)
[12] 沖縄県 県民経済計算
https://www.pref.okinawa.jp/toukeika/accounts/accounts_index.html (2021.08.06)
[13] まち・ひと・しごと創生基本方針2021について
令和3年6月 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 内閣府地方創生推進事務局
https://www.chisou.go.jp/sousei/info/pdf/r03-6-18-kihonhousin2021gaiyou.pdf (2021.08.06)
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