ドキュメンタリー『ジェンダー革命』は性別と向き合う入門としての映像作品であると言える。本作はナショナルジオグラフィック制作の2017年のドキュメンタリーである。そのタイトルどおり「ジェンダー」をテーマとし、つまり、「性別」についてを題材にした専門的ドキュメンタリーである。作製はナショナルジオグラフィック、科学的な分析も映し出されるサイエンティフィックなスタイルとなっている。子どもがある日突然トランスジェンダーであることをカミングアウトした両親のエピソードや、インターセックスの赤ん坊を前にした両親のエピソードもあり、その動揺とそれとどう向き合ってきたかが赤裸々に語られている。男の子か女の子かと以前はその区別は単純だった。男の子は青を着て車で遊び、女の子はピンク色の服を着て人形で遊ぶ。男の子は外で運動、女の子は家にいる。でも今は違い、性別の概念は揺れている。それをある人は「ポリティカル・コレクトネスを意識しすぎている」と冷笑的に吐き捨てる。しかし、そんな発言をする人も含めて、「性別」というものを本当に理解しているのか。実は性別は思っている以上に複雑であると言える。
この作品ではまず10年以上ジェンダーを研究をしている活動家のサム・キラーマンが説明してくれる。「ジェンダーブレッド”パーソン”」という概念を語りだし、「性同一性(gender identity)」「性表現(gender expression)」「生物学的な性(biological sex)」の3つの視点があることを解説している。この3つで成り立つジェンダーは、セクシュアリティ(性的指向;異性愛・同性愛・両性愛・無性愛など)とは無関係である。性別は生殖器での判断であると言う世間でまかりとおる認識を改めるところが最初のステップである。ジェンダーの決め手は外性器ではない。その議論で忘れてはならないのが「インターセックス」の存在だと本作では冒頭に述べられている。作中では、インターセックス当事者であるブライアン・ダグラスが実体験を語っている。一般的に母親のお腹の中に宿った胎児は最初は女性器を持っており、それがホルモンの影響で男性器に変化するかしないかという分かれ道となる。ブライアンは出生時は男の子で、ペニスや睾丸のようなものが発達したが、同時に子宮や卵巣も備わっていた。これは子宮の中でテストステロンを過剰に浴びた結果であり、「CAH(先天性副腎過形成症)」と診断される。
それから、フォードの家族の事例が映し出される。この家のエリーは男の子として出生時は記録されていたが、いつまでも女の子のドレスばかりを着たがり、ついに4歳の誕生日パーティーのときに告げてくるのである。自分は「girl」だと。今はまだいいけど、思春期になったらと親は不安でいっぱいである。他にもさまざまな親の姿が映される。出生時に外性器の手術をしたこと、しなかったことを子に責められたらどうしようと悩む親。親は同性愛者なのかと疑い、パニックになり、一時的なものではないかと本格的なホルモン療法を施す。しかし、性同一性に悩む10代は精神的な苦痛を抱えていることも多く、自殺率も高い。作中でも、自分の子から自殺念慮を持っていたことを吐露され、そこで初めて事態の深刻さに気付いた親の姿が印象的である。「性別は適合するものではなく肯定するもの」という言葉のとおり、外性器や手術にこだわらない若い人も現れている。きっとこれからもジェンダー革命は続くのである。その先にどんな性別の在り方があるのかは私にもわからない。私もどんどん古い人間になっているが、なるべく若い人の新しい価値観に耳を傾ける必要がある。
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