【化学】ウランはどのような特徴を持つのか?

ウランの特性
ウランはアクチノイドに属し、原子番号92。元素記号はU、天然に存在する元素の中で最も重い物質である。原子番号は92であるが、ウランは原子半径も大きいためその比重(密度)は、原子番号77番付近のオスミウムやイリジウムや白金などよりも小さい。その比重は室温で、ウランが1cm3当り19g程度であるのに対し、オスミウムとイリジウムが22.5g程度、白金が21.5g程度である。ウランの単体は、銀白色の金属である。常温常圧での安定構造は斜方晶構造(α型)であるが、668 °Cで正方晶構造(β型)へ、775 °Cで立方晶構造(γ型)へ相転移する。融点1132 ℃、沸点3745 ℃。ウラン単体は、反応性が高く、粉末を空気中に放置すると、空気中の酸素によって発火する。またウラン単体を水に投入すると、ウランは水から酸素を奪って、水素ガスが発生する。ウラン化合物の原子価は+2価から+6価をとり得る。このうち、一般に+6価が最も安定である。これに対し、+2価と+5価は特に不安定であり、特殊な条件でないと存在できない。+4価は硝酸水溶液および酸化物等では安定な価数であり、水溶液にしたときには緑色になる。+3価の水溶液は赤紫色となるが安定せずに、水を還元して水素を発生させながら+4価に変化するため、色も緑色に変化する。+6価は水溶液中でも安定であり、ウラニルイオン (UO22+) となって、水溶液は黄色を呈する。水溶液に限らず、+6価のウランは一般に黄色を呈するため、イエローケーキと呼ばれる。 なお、ウランのハロゲン化物は+3価から+6価までをとり得るが、これらは揮発性であることが知られており、その蒸気圧は、+3価が一番小さく、+4価、+5価、+6価と大きくなる傾向にある[1]

ウランの使用用途

 ウランは核燃料としても知られ、核兵器に使用できることでも知られている。これはウランに核分裂を起こさせることで、エネルギーを取り出している。核兵器製造にはウラン235同位体比90%以上の高濃縮ウラン、軽水炉運転にはウラン235同位体比3~5%の低濃縮ウランが必要である。現在行われている濃縮ウラン製造では、揮発しやすい六フッ化ウラン(UF6)を製造し、気体拡散法または遠心分離法によって濃縮ウランを得る。ただし、これらの用途に使用できるのは、現在の地球上に一番多く存在するウラン238ではなく、次に存在量が多いウラン235である。このウラン235は、唯一天然に産出する核分裂核種として知られ、原子力の分野では重要視されている。このため、しばしばウラン235を濃縮するという作業が行われている。なお、この作業の結果に生ずる、ほぼウラン238だけになった放射性廃棄物を、劣化ウランと呼ぶ。ウラン238が1回のα崩壊と2回のβ崩壊をすることで、このウラン234になるため、ウラン238が存在する限り、ウラン234も無くならない。ウラン234が崩壊しても新たに補充されるためである。なお、このようにウランの同位体は半減期がまちまちなので、地球上のウランの同位体の存在比は、少しずつ変化している。

ウランの同位体

 ウランには中性子数が異なる234、235、238と多数の同位体がある。現在の地球に天然に存在しているのは、ウラン全同位体の約99.274%を占めているウラン238、約0.7204%を占めているウラン235、約0.0054%を占めているウラン234の3種の同位体である。このうちウラン238とウラン235は、半減期が長い(寿命が長い)ために現在の地球に存在している(なお、ウラン238の割合が多いのは、ウラン238の半減期が一番長いことが関係している)。これに対してウラン234の半減期は、たったの約24万5500年程度でしかないにもかかわらず、現在の地球に存在している。ウラン234が現在の地球に存在していられる理由は、ウラン238が鉛206に変化する過程(ウラン系列)に、このウラン234が属しているからである。

ウラン235とその核分裂反応について

 ウラン235は陽子92個と中性子143個から構成され、アルファ線を放出して、トリウム231(231Th、1.06日)となる。ガンマ線が放出され、トリウム231の崩壊でプロトアクチニウム231(231Pa、3.24万年)が生じ、崩壊が続いて最後は鉛-207(207Pb)となる。天然ウランに0.720%含まれ、天然に存在する唯一の核分裂性放射能である[1]
 下記の図1のようにウラン235に中性子を打ち込むと中性子が1つ増えた状態となる。この状態は自身を維持するのには不安定すぎるので、くっ付いた瞬間に2つに分裂する。原子核が割れ、それぞれが他の原子となる。この反応を核分裂と言う。核分裂とは、不安定な状態の原子核(例えば、陽子もしくは中性子が多い不安定核)に、外部からの何かのきっかけを受けて原子核が分裂する現象である。

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図1.ウラン235の核分裂模式図

 核分裂の際にいくつか(平均2.5個)の中性子も一緒に放出する。そして、同時に熱が発生する。その際、原子核にある陽子と中性子を分け合う形で分裂するため、分裂後の個々の原子核にある陽子の数は分裂前と異なり、核分裂をすると全く別の原子となる。代表的な核分裂反応としては下記のようなものがある。なお核分裂反応は確率的に起こるため、他の核種を生成することもあり、下記の反応はあくまで一例にすぎない。


 235 U + n → 95 Y + 139 I + 2 n {\displaystyle {}^{235}{\rm {U}}+{\rm {n}}\rightarrow {}^{95}{\rm {Y}}+{}^{139}{\rm {I}}+2{\rm {n}}} この反応ではイットリウム95 とヨウ素139 が生成されるが、上式で元素記号の左肩に示した質量数は原子核の中に存在する陽子と中性子の和であり、右辺と左辺の核子数は等しいことがわかる。すなわち、核分裂反応では反応の前後において質量数は保存される[3]

核分裂生成物について

 核分裂の過程で原子核が分裂してできた核種を核分裂生成物という。通常は二等分になることはなく、一方が重く質量数140程度、一方は軽い95程度の核になる。これは、分裂するときに魔法数(まほうすう)に近い安定な原子核になろうとするためである。魔法数とは、原子核が特に安定となる陽子と中性子の個数のことをいう。陽子数または中性子数が魔法数である核種を魔法核と呼ぶ。核構造のシェルモデルでは、殻(シェル)が「閉じている」状態(閉殻)は安定性が高く、崩壊や核分裂が起きにくくなる。計算上特定の値が該当し、魔法数となる。陽子と中性子はよく似ているので同じ値となる。

 現在、広く承認されている魔法数は 2, 8, 20, 28, 50, 82, 126 の7つで、原子番号がこれらにあたる元素は、周辺の元素に比べて多くの安定同位体を持っている。中性子数がこれに該当する同中性子体についても同様で、例えば核種の一覧を見ると、縦の20と横の20には安定同位体が並んでいる。核分裂生成物がどの核種になるかはある確率で決まる。この確率を収率という。核分裂する核種によって異なる収率分布をもっているので、核分裂生成物を分析すれば核反応を起こした親核種が判る。例えば、ウラン235が核分裂を起こした場合その核分裂生成物は80種類程度生じ、質量数は72から160と広範囲に分布している。これらは質量数90と140付近のピークを中心として鞍型の分布をなしている。核分裂生成物は様々な核種の混合物であるが、総じて陽子数と中性子数との均衡を欠いており放射能を持つ。これらの放射性同位体は、陽子と中性子の均衡が保てるところまで放射壊変(主にベータ崩壊)を繰り返す。核分裂生成物の中には中性子を良く吸収してしまう物質が含まれる。このような物質は、原子炉に蓄積して核分裂連鎖反応を阻害してしまうため、毒に例えて中性子毒あるいは単に毒物質と呼ばれる。原子炉を停止したり出力を変えたりした場合、放射性の毒物質の存在量は時間とともに変化するため、原子炉の挙動を不安定にしてしまう要因となる。
 これらの崩壊速度は様々で、数秒から数ヶ月でほぼ崩壊しつくす短寿命の核種、100年単位の中寿命の核種、そして半減期すら20万年を超える長寿命の核種がある。放射性物質は基本的には寿命(ここでは半減期とほぼ同義語と捉えて良い)が短いほど少量でも放射能が強いものの短期間ですぐに減衰するが、逆に長寿命であれば放射能は少量ならば弱い(大量にあれば当然強い)が、時間が経ってもなかなか減らないという性質を持っている。比放射能も参照する。
 短・中寿命核種は盛んに放射線を放って崩壊するため少量でも放射能が大きく、例えば1945年に原子爆弾で攻撃された広島市と長崎市では、被爆者だけでなく家族や知人の行方を捜すため爆心地周辺に後日立ち入った人々が重篤な放射線障害を受けている。一方、長寿命核種は放射能が小さいが、原子炉の使用済み核燃料のように大量に存在すると、人間社会の尺度では半永久的に放射線を放ち続けるやっかいな廃棄物となり、半減期の数倍から数十倍(つまり100万年単位)の期間、厳重に遮蔽して保管し続けなければならない[1]

参考文献

[1] ウィキペディア「天然ウラン」 https://ja.wikipedia.org/wiki/

[2] 原子力資料情報室 http://www.cnic.jp/knowledge/2605

[3] 山本義隆 『新・物理入門 増補改訂版』 駿台文庫、2004 p.319 ISBN 978-4-7961-1618-3 C7342

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