メディアが世論に与える影響は?

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 テレビが一般家庭に普及した1960年代以降には、マスメディアは人びとに強い効果を与えるという強力効果論(Powerful Effects Theory)が現れた。この強力効果論は現在でも効果論研究の主流であるとされている1。強力効果説とも。マスメディアの影響は大きく、受け手に対して、直接的、即効的な影響を及ぼすという考え方の総称。「弾丸理論」、「皮下注射論」などとも呼ばれている。20世紀になって、大衆化した新聞・雑誌・ラジオなどの、暴力的なメディアや、性的なメディアが、受け手を暴力的にしたり性的にしたりするという「強力効果説」の発想が、大衆的な通念として流通してきた[2]。しかし過去の実証的研究で裏付けが取れたことはない。

 1973年にElisabeth Noelle-Neumannの沈黙の螺旋理論は世論と人びとの意見表明についての理論である。見かけ上の多数派意見とは異なる意見を持つ者は、周囲の人びとから孤立することを恐れて発言することを避ける。実際には「少数派意見」を持つ者が多く、「多数派意見」を持つ者が少なかったとしても、少数が声を大きくして「多数派意見」を述べる。見かけ上は「多数派意見」が多いように見え、「少数派意見」を持つものは沈黙しているために人数が少ないように見える。結果、「少数派意見」を持つ者はサイレント・マジョリティとなる。サイレント・マジョリティの意見である「少数派意見」が表立って明らかにされないために、これと異なる意見である「多数派意見」の世論はますます増大し、サイレント・マジョリティはますます孤立を恐れ、沈黙を続けていく。サイレント・マジョリティの沈黙がさらに続くと、また「多数派意見」の世論が増大し、サイレント・マジョリティは真の少数派へとなっていくというモデルである。この世論とはマスメディアによって公開された意見(public made by opinions)を指す。人々が「多数派意見」を世論であると認識する指標は、マスメディアが報じているか否かで決定されるものである。以上が沈黙の螺旋理論の概要である。

 中央の螺旋のように「少数派意見」を持つ者が沈黙することと、「多数派意見」を持つ者が意見表明すること、それぞれが増大していくのには2つの背景がある。1つはマスメディアが「多数派意見」を長期間にわたり取り上げること、つまりマスメディアによる「多数派意見」の持続的提示であり、もう1つは周囲の人びとに「少数派意見」支持と表明する者が減少することである。これら2つの背景により、世論は「多数派意見」であると次第に人びとに認知されていくようになる。つまり、世論と反対の意見を持つ人たちは沈黙してしまうので、世論と同じ意見を持つ人と、反対の意見を持つ人が実際には同じ数だけ存在あるいは、たとえ反対の意見を持つ人がより多くいたとしても、見かけ上は世論と同じ意見を持つ人たちのほうが反対の意見を持つ人たちよりも多く存在するように見えてしまうのである。

 主にテレビの影響力に注目し、「テレビ視聴の反復性や非選択性により、テレビは社会において何が現実であるかという共有された現実感覚を『培養』していく」(培養効果)と考え、現実認識への影響を明らかにするための分析。ガーブナーにより提唱され、実証的研究がすすめられた。例えば、テレビでは現実社会に比して多くの暴力シーンが描かれているが、視聴者の現実認識について分析してみると、テレビの視聴時間が長い人は「暴力に巻き込まれる頻度」について、より高く見積もる傾向があると指摘されている3

 立憲民主党は2021年10月の第49回衆議院選挙で改選前の109議席を96議席へと13議席減らした「敗北」をうけて、枝野幸男代表が辞意を表明、福山幹事長も辞意を表している。他方、対照的に改選前276議席を261議席へと15議席を減らした自民党はまるで「勝利」したかのごとき扱いである。開票速報、そして翌、翌々日の大新聞、テレビ局の報じ方に、疑問を感じる方は少なくなかったのではないだろうか。衆議院選挙後、またしてもマスメディアによって、「自公勝利、維新躍進、立憲民主党大敗、野党共闘失敗」といったマス・イメージが形成されたようであるが、それはこの総選挙の実態を本当にきちんと表しているといえるのだろうか4。確かに野党ではなく、与党が議席を伸ばしたわけでもなく、減らしたにもかかわらずこの結果でメディアが報じているのは違和感があると言える。この世論とはマスメディアによって公開された意見により、人びとが「多数派意見」を世論であると認識している例であると言える。

参考文献
1.
効果論研究史における限定効果論と強力効果論の関係の在り方
 ―パーソナル・コミュニケーションの扱われ方の違いに着目して― 中林
 https://digital-narcis.org/information_society/vol12/vol_12_04_pp_33-nakabayashi.pdf

2.Noelle-Neumann, Elisabeth, 1973, Return to the Concept of Powerful Mass Media, Studies of Broadcasting, No.9, pp.67-112. 情報社会試論 Vol. 12 (2011) 38

3.中村功「テレビが視聴者の現実認識に与える影響 : ワイドショー等,番組タイプ別の培養分析」『松山大学論集』第10巻第3号、松山大学学術研究会、1998年8月、 133-162(p.144)

.マスコミの情報操作にだまされるな!「与党危機」の事前予想との落差がつくった自民党勝利ムード!第49回衆議院選挙・自民は15議席減でも「勝利」なのか!?マスメディアは選挙中・選挙後何を報じていたのか!? 2021.11.5

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