住まい手への構造、構法・工法の知識は経済性、安全性、住み心地の良い生活を提供し、生活者の快適性を追求しようとするのが構造安全の目標である。構造種別を選択する場合、住環境を見極め、使用した材料やどのような構造、構法・工法にするべきかを判断することとなる。また、建築基準法、都市計画法、消防法などの社会的環境規制にも従う必要がある。また、構造の決定は住まい勝手に影響を与えることが多くあり、構造の検討時に何を重要視して選ぶか、その条件に優先順位を付け、それにふさわしい構造を選ぶ必要がある。これから住まいの建築や購入を検討中のAさん(30歳)も家族構成や地域環境、高齢化に伴う将来のライフプラン、各種情報や知識を習得する必要がある。
2000年には建築主や購入者の保護を推進するための住宅品質確保促進法が制定され、ユーザーも自己責任の下に住宅の質に直接かかわる時代になってきている。この法律は新築住宅の『瑕疵保障保証制度の充実』・『住宅性能表示制度の新設』・『紛争処理機関の新設』の3つが大きな柱となっている。『瑕疵保障保証制度の充実』とは新築住宅における住宅の構造部、雨漏りによる不具合は、竣工引き渡し後10年間に渡って無償の修理が義務付けられている。次に『住宅性能表示制度の新設』とは新築住宅における9分類21項目の住宅性能を共通の基準により、各項目で等級分けして表示する制度である。ユーザーは値段や間取り以外にも、住宅の持つ大切な機能を容易に把握でき、各社比較も可能であるがこれはあくまでも任意の性能表示である。
Aさんは30歳で家族がいるか、若しくはこれから家族を持つことになるだろう。家族を持つと外観、間取りは重要であるが何より安全にかかわる構造はより重要となる。構造設計は「住まう人の命及び財産の確保」を指名の第一としている。「建築基準法」の条文に従えば、建物の強度面での安全は保障されることになる。それなのになぜ欠陥住宅が生まれるのであろうか。主体構造となる柱や梁、壁・床など荷重・外力に対して主に抵抗しているものの断面や大きさや量が多くなれば、材料費が大きくなり、建築単価が高くなる。反対に建築単価を下げようとすると柱や梁などを細くすると、荷重・外力に対して主に抵抗しているものが弱くなり、強度あるいは建物の寿命に支障を生じることもあるためである。制度の下で管理された状態を維持され、ユーザーも知識を身に付け適切な判断を下す必要がある。
また、ユーザーが住宅の構造安全性をどのようにとらえているか調査した結果を示す。「住宅にどの程度の安全レベルを期待するか」という質問を行った結果がある。結果では「震度6の地震で被害を受けることは許容できない」という質問に東京-九州間で地域環境差が生じ、東京8割に対して、大きな地震の経験がない九州では震度5-6の間となっている。また、「住宅が地震に対して安全だと思う人」について年代ごとにプロットすると阪神淡路大震災以前は60%以上が安全としていたが、震災後では20%と急激に下がり、また時間の経過とともに徐々に安全だと思う人の割合が増加している。絶対値で考えると耐震性の人による判断は注意が必要である。
一見同じように見える住まいも、実際の作り方は様々であるため、注意が必要である。それぞれの条件に最適な構造を選ぶには、構造・工法の特徴や持ち味を知る必要がある。住まいの計画として具体像を明らかにした時点で、その住まいを実現できる構造はどれに当たるのかといった検討が不可欠である。近年の技術革新は住宅建築一般に渡っており、よほどの安全面や耐久性の差は少なくなってきたと言える。構造が住まい勝手にどのように影響するかという全体設計に関わるソフト面からの検討が重要である。例を挙げると平面設計の上では鉄筋コンクリート造りや鉄骨造りは木造と比べて、その強度から一般的に大きな空間を作ることが可能であるが、柱が大きく壁が厚くなる。一方、木造や軽量鉄骨造りは施工が容易でフレキシブルな空間が作りやすい。木造では、構造的な特質から開口部の位置や大きさに制限があり、増改築の際に開口部を変更する際に制限を受ける場合もある。
住宅安全レベルは阪神・淡路大震災や欠陥住宅事情をきっかけとして、ユーザー自ら確かな目で各種性能レベルを選択し、確認することが求められる時代になってきた。つまり、今後建築主やユーザーが目標とする性能レベルを決定し、建築技術者がそれを実現、別の機関で確認する図式となる。例えば、自分の住宅の耐震性レベルなどを決定する際には、設計者や技術者から耐震メニューなどが提示され、建築主やユーザーが確認するといった決定権を持つようになる。確認した上で購入したことで自己責任となってしまうことに注意が必要である。今後は消費者の責任範疇も理解した上で住宅の購入時や使用時には性能比較および選択の判断などができるような住まいに関する知識が必要となる。
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