労働者の選好は何で決まる?

はじめに

マーシャルの派生需要の法則の4つの条件を挙げる。

  1. 他の生産要素(資本設備など)との代替困難
  2. 生産物需要が非弾力的
  3. 総費用の中で労働費用(人件費)割合が小さい
  4. 労働代替する他生産要素供給が非弾力的

上記の4つの性質をもつ仕事ほど雇用は非弾力的であると言える。より簡単には同率の賃金変動に対して、雇用が安定的と考えられる。需要量は価格や所得に反応するが、価格や所得の変化に対して大きく反応を示すのが「弾力的」、あまり反応を示さないのが「非弾力的」となる。他の生産要素(資本設備など)との代替が困難。生産物の需要が非弾力的である。総費用の中で人件費の割合が小さい。労働を代替する他の生産要素の供給が非弾力的である。すなわち、高度な教育訓練を要し、単純ではない熟練度を要する作業であり、生み出される物やサービスの需要が非弾力的なものであることが生産物の需要が非弾力的である。

労働者の選好はリスクと賃金の2つで決まるため、危険でも賃金が高ければ埋め合わせられるという性質をもつ。生産要素(労働と資本)の代替の難易が影響し、自動車工場の溶接工をロボットで置き換える場合は容易であり、旅客機のパイロットをロボットで置き換えるのは困難である。代替の難易は生産技術に依存し、産業・職種により多様ある仕事を機械(資本設備)で置き換える。そうすると、その仕事は失われる。(資本と代替する労働)一方、その機械を作る人、操作する人などの雇用はむしろ創出される。(資本と補完する労働)機械と代替的な労働もあれば、補完的な労働もある。Villanueva(2007)は、ドイツの転職者を含むパネルデータで、職場環境と賃金の関係を分析した。仕事量が悪化した転職では対数賃金が0.130増加、つまり賃金は13.0%増加したことになる。一部に理論と不整合な点もあるが、大部分で職場環境が悪化するほど、統計的に有意に賃金は上がることを示している。

 上に挙げた派生需要を踏まえ、関心のある職種として医師とパン工場での単純作業者の2つを選択し、その労働需要の賃金弾力性を検証する。まず、医師は患者の状態を自ら診察し、判断し、投薬や手術などの判断を行わなければいけないため、他の生産要素との代替が困難であると言える。医療ロボットやAIによる診断などの補助的な要素が報告されているが、最終的な判断は医師である。また、平成30年度の国民医療費は43兆3,949 億円、前年度の43兆710億円に比べ3,239 億円、0.8%の増加となっている[1]。病院にかかる患者の医療費は年々増え続けているため生産物(患者)の需要は非弾力的である。医師は免許が必要で免許を持たない人はその職に就くことができないため、労働を代替する他の生産要素の供給が非弾力的と言える。また、2019年度の医師の平均年収は1169万円とされ[2]、賃金を挙げないと人材を集められない。以上から医師は賃金弾力性が高いと考えられる。

 一方、パン工場での単純作業者について述べる。単純作業であればあるほど設備による自動化が可能で、他の生産要素との代替が容易である。また、競合他社が多い商品であるほど、市場が移り変わり、生産物の需要の変動が大きく非弾力的であると考えられる。単価の総費用の中で労働費用(人件費)の割合が小さい。労働を行うことができる年代、経験年数も制限が少ないと考えられ、状況にもよるがその人材募集も最低賃金での募集も見受けられるため、労働を代替する他の生産要素の供給があまり非弾力的ではないと考えられる。そのため、賃金弾力性はあまり高くはないと考えられる。

参考文献

[1]厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/18/dl/data.pdf (2022.02.06閲覧)

[2]賃金構造基本統計調査 (2019年) 

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