- はじめに
金融商品には株式、債券、預貯金・ローン、外国為替などがある。金融商品には次のようなリスクがある。価格変動リスク、信用リスク、金利変動リスク、為替リスク、カントリーリスクなどがある。これら金融商品のリスクを低下、またはリスクを覚悟して高い収益性を追及する手法として考案されたのがデリバティブである。デリバティブはそれぞれの元となっている金融商品と強い関係があるため、デリバティブ(derivative)という言葉は、日本語では一般に金融派生商品と訳される。金融商品のリスクに対応できる体制を取り備えるリスクヘッジ商品として生まれている。金融リスクを管理する観点からデリバティブ取引について下記のように述べる。
- デリバティブ取引とは
リスク管理や収益追及を考えたデリバティブ取引にはその元となる金融商品について、「先物取引」と呼ぶ将来売買を行なうことを事前に約束する取引、「オプション取引」と呼ぶ将来売買する権利をあらかじめ売買する取引などがあり、さらにこれらを組み合わせた多種多様な取引がある。世界の金融取引において、デリバティブの歴史は意外と古く17世紀のオランダのチューリップ市場などが「オプション取引」の原型であり、18世紀の大阪堂島の米市場などが「先物取引」の原型であると言われている。また、「スワップ取引」を中心とする近代デリバティブについては、1981年の世界銀行とIBMとで行われた通貨スワップから大きく発展した[1]。対象となる商品によって、債券の価格と関係がある「債券デリバティブ」、金利の水準と関係がある「金利デリバティブ」など、オーソドックスな「金融デリバティブ」、不動産を対象とする「不動産デリバティブ」がある。また最近では、CO2排出量を対象とする「排出権デリバティブ」、気温や降雨量に関連付けた「天候デリバティブ」のような新しいデリバティブも開発されている。
- デリバティブのメリット・デメリット
デリバティブのメリットとして1997年米国エンロン社にて開発された天候デリバティブを挙げる。例えば、夏に冷夏のため気温が上がらずに見込まれていた販売数のビールが売れない。そのようなときに天候デリバティブにより冷夏であれば補償金が支払われ、逆に猛暑であれば購入オプション料を払うようなリスク変動を抑える仕組みがある。また、冬暖かいと暖房器具の売れ行きが悪くなる企業の場合や降雪量が多い場合、除雪・融雪関連の商品・サービスなどが活発になる事例などが天候デリバティブ対象として考えられる。このように様々なデリバティブの対象があり、デリバティブの種類として先物取引やオプション取引などに代表されるデリバティブ取引は、多様に考案・形成され、リスクヘッジや効率的資産運用等の手段として幅広く活用されている[2]。
また、デメリットとしては2007年からの世界的な金融危機とそれに伴うリーマン・ショックがあった。これは店頭デリバティブ取引の危険性を顕在化させた。2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻などにより、金融機関同士で取引される店頭デリバティブ取引におけるリスクが顕在化した。そこでは店頭デリバティブの不透明性が大きな問題となった。店頭デリバティブは相対取引であることから当局もその全体像が把握できず、世界中で信用不安が加速した。特にやり玉として挙がったのがクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で、大量のCDSを保有していたAIGが経営危機に陥ると、AIG破綻による信用不安の一層の激化を防ぐために、アメリカ合衆国の中央銀行制度である連邦準備制度FRBはAIGの救済を行った。このようにして監視されない店頭デリバティブ取引の拡大がもたらすシステミック・リスクの増大効果が世界で広く認識されるようになった。
2つめの例としてベアリングス銀行事件がある。1762年に初代準男爵サー・フランシス・ベアリング(1740-1810)によってロンドン・シティにおいて最古のマーチャント・バンクとして創設された。ベアリングス銀行は大英帝国拡張の時流に乗って貿易商人たちの手形の引受で業績を伸ばしていき、1793年にはロンドン最有力の引受業者に成長した。しかし、1995年シンガポール支店に勤務していたニック・リーソン(1967-)のデリバティブ取引の失敗で致命的打撃をこうむり、ベアリングス銀行は同年2月26日に破産。233年の歴史に幕を閉じた。 当時リーソンは、シンガポール国際金融取引所SIMEXおよび大阪証券取引所に上場される日経225先物取引を行っていたが、同年1月17日に阪神・淡路大震災が起き、日経株価指数が急落し損失が拡大した。損失を秘密口座に隠蔽すると同時に、先物オプションを買い支えるための更なる膨大なポジションを取った。最終的な損失は、ベアリングス銀行の自己資本(750億円)を遥かに超過する約8.6億ポンド(約1,380億円)に達した。
- 債権
債権には国債や地方債、社債または事業債といったものが代表的だが、満期まで保有すれば発行体が破綻等していなければ元本が満額戻ってくるため、安全性は比較的高い場合が多い。この発行体リスクの大小によって利回りの高低が左右される。発行体リスクが大きいものは安全性が低いが、収益性が高い。また逆に発行体リスクが小さく、安全性が高いが、収益性が低いという関係性となる。また、金利変動リスクがあり、途中売却時、市場の金利が高ければ債券価格が下落しており、元本割れとなる可能性がある。株式のように証券取引所を通して不特定多数の市場参加者による売買がされているわけではなく、相対取引となる場合が多いため、相対的に流動性(換金性)はやや低めと言える。さらに預金と同様にインフレリスクを抱える。
- 外貨
国内金融では考える必要はないが、国際金融となる場合外国為替取引を伴う。例えば、日本企業とアメリカの企業が国境を超え取引する場合、それぞれの企業は自国の通貨と他国の通貨を交換する必要がある。このような通貨の交換が外国為替取引である。国際金融では中央銀行がないため、国内金融のように監視し、必要に応じてコントロールする中央銀行がない。取引の際に資本が枯渇しても、世界全体をコントロールするような中央銀行がないので、それぞれの国や地域で対応しなければならない。
外国為替証拠金取引(FX)におけるリスクヘッジ商品として限月を設定した取引。FXは「”将来”円高になるだろうから円買い」などの思惑・予測から売買されることが多いこともあって、先物取引であるとの誤解がしばしば見られるが、外国為替証拠金取引そのものは「直物為替先渡し取引」に相当する先渡し契約(forward)であり先物取引ではない。また、外貨取引に関して、1998年4月に、外国為替及び外国貿易法(新改正外為法)が施行された。海外の子会社を含めたグループ企業同士の「ネッティング取引」また、コストを外国為替取引やデリバティブ取引では企業間などで取引を行う場合、取引のたびに決済を行うのではなく、ある一定の期日に債券と債務をまとめて相殺し、差額分だけを決済することができる。取引のたびに決済を行うと為替手数料などが発生するが、ネッティングを行うことでコストを削減できる。 2者間での相殺をバイラテラル・ネッティング、3者以上に渡る相殺をマルチラテラル・ネッティングという[3]。
- 証券
証券は一般的に、株券、社債券、国債券、手形、小切手、船荷証券などの有価証券をいう。証券取引や証券市場でいう証券は、証券取引法によって、有価証券のうち株券、社債券、国債券など一定のものに限定されている。証券は有価証券のほかに、借用証書、契約書などの証拠証券(証書、証文)、さらに携帯品預り証、下足札、キャッシュカードなどの免責証券も含まれる。このほか、金券も広義の証券に含めることがある。なお、プラスチック製のカードに電磁的方法で権利内容が記録されたものは法律上、証票とよばれることもあるが、有価証券、免責証券など証券の一種であることが多い[4]。
- まとめ
本レポートでは金融リスク管理の観点から見たデリバティブ取引について述べた。デリバティブの元となる金融商品を守るために金融商品のリスクを低下させる、または元となる金融商品より高い収益性を追及する手法として考案されたのがデリバティブである。デリバティブに関する債権、外貨、証券のその用語説明、デリバティブのメリット・デメリットについて過去の事例として2007年のリーマン・ショック、1995年のベアリングス銀行事件を挙げた。メリットとして、近年のCO2排出権、気温や降雨量に関連付けた天候までもがデリバティブとして存在している。これの天候デリバティブは、様々な要因から生じる保険のような役割であると感じた。デリバティブの歴史は意外と古くから存在し17世紀のオランダのチューリップ市場、18世紀の大阪堂島の米市場が先物取引の原型であると知った。今後、様々なデリバティブ取引が開発されることを期待し、本レポートを締める。
参考文献
[1] 金融情報サイト https://www.ifinance.ne.jp/glossary/derivatives/
[2] 知るポルト 金融広報中央委員会 https://www.shiruporuto.jp/public/data/encyclopedia/deriv/deriv101.html
[3] コトバンクhttps://kotobank.jp/word/ネッティング-178926
[4] 株式会社平凡社 世界大百科事典 第2版について
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