囚人のジレンマとは?

 囚人のジレンマ(The prisoner’s dilemma game)とはお互いが情報を出し惜しみ、また提供された情報が奪取され、利用されてしまうリスクがある状態を言う。各々が自分の利益のことだけを考えて行動すると、お互いの協力率が低下し、各個人それぞれが得る利益も減ってしまう。これは1950年、米国初のシンクタンクと言えるランド社の二人の科学者フロッドとドレッシャーが発見し、ランド社の諮問役であるアルバート・ターカーが完成させた1)。囚人のジレンマはゲーム理論の代表格であり、これまで多くの研究が報告されている。有名な例としては、1977年のPruitt and Kimmelの目標期待理論がある。繰り返し同じ相手と囚人のジレンマの関係にあることが相互協力状態の達成に対して重要性を持っている。よく知られているように、囚人のジレンマの状態においては協力を選ぶよりも非協力を選ぶことが優越しているという。囚人のジレンマを表す分かりやすい例として軍拡競争が良く取り挙げられている。これは相手が軍備を拡大すると、自国が負けないように軍備を拡張しなければならなくなる。また、相手が軍備を拡張しない場合でも、相手に対する優位を保つためには、もちろん軍備を拡張した方が有利となる。どちらにしても両国の不安が募り、お互いに軍備を拡張する必要がある状態となってしまう状況となってしまう。

 ただし、このような非協力選択の優越性は、同じ囚人のジレンマの状況が繰り返し継続する場合には必ず当てはまるとは限らない。お互いが優越選択である非協力行動をとり続ければ、軍事費が経済を圧迫するという双方にとって望ましくない事態が発生してしまう。この事態を回避するためには、相互非協力(軍拡)を相互協力(軍縮)に転換する必要がある。したがって、長い間囚人のジレンマの状況に置かれた者の多くは相互協力の必要性を認識し、その達成を目指した行動を取るようになると言う2)

 これらを表す過去の例として、第2次世界大戦後の米ソ冷戦がある。アメリカとソ連の両国は原子爆弾の開発競争を繰り広げていたが、原子爆弾よりも破壊力が大きい水素爆弾の製造に乗り出している。しかし、水素爆弾の製造は非常にコストが高く、国家財政にダメージを与え貧困をもたらすだけで、国民の不安だけが増してしまう。このように両国の利益はあまりなく、製造を保留しさえすれば互いに利益となる状況であるが、軍事的優位への誘惑や水素爆弾を保有できずに弱者になるという恐怖のため冷戦状態に突入した。このジレンマの核心は、誰も明らかに優位を占めることができない競争が続いていた。

 これらの解決方法として軍縮が行われた。1987年12月に成立した中距離核戦力(INF)全廃条約は続いていた冷戦に大きな転換を与えた。アメリカのレーガン大統領と当時ソ連のゴルバチョフ書記長がワシントンで調印したINF全廃条約は歴史上初めての核兵器の削減条約であり、これは核兵器の一つの分野を全廃するという軍縮史上特筆すべきものであった。冷戦により増加していた軍事費は両国ともに抑えられ、その後軍縮は進められていった。また、軍縮を促進させるために、取引相手が書いた同情を誘う手記を読ませ、その際に手記に書かれていることについて相手がどう感じているかを想像して読むように指示された条件で、1回限りの囚人のジレンマゲームでも、協力率が高かったという結果も報告されている。これらの研究では、支援を要する他者への情動的な喚起が向社会的行動を引き起こすと説明されている3)

 この報告から軍縮解決策として、1987年12月に成立した中距離核戦力(INF)全廃条約から現在まで行われた核軍縮の成功例とその経済効果について世界全体でさらに理解を広めることが重要であると考える。また、第2次世界大戦中にアメリカが日本の広島・長崎に落とした原子爆弾での被爆者の声や、当時の被害状況の写真など唯一の被爆国である日本から原子爆弾が落とされた場合にどうなってしまうのか、という具体的な例を核保有国中心とした世界各国に訴え続けることが重要である。これが軍拡や核保有に関する囚人のジレンマの解決方法の最も効果的な1つであると考える。

参考文献

[1]Pruitt and Kimmel主観的変換/目標期待理論 1977

[2]masm.jp

[3]Batson & Moran1999

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