ホールドアップ問題(Hold-up Problem)とは利害関係のある両者間で1度不完全な状態で物事が進んでしまうと後に元に戻すのが難しく、しかも相手の交渉力を増し、相手の思うような状態が続いて起こってしまう事象である。主に利害関係がある両者間において最初の取引時に不確実・不十分である契約を結んでいた場合に発生することが多い。不確実・不十分である契約とは会社間においてはモノやサービスの価格・品質・納期とこれらの今後の価格変動についての契約と期間(契約を結んだ期間は固定か材料・人件費高騰によってある割合で変動可能であるのか)、また品質問題が起こった時のリスクをどれぐらいの割合でどちらが受けるのか、納入する場所、輸入であれば引き渡し条件などが存在する。あらゆる場面でホールドアップの状態が発生する可能性がある。相手を説得する選択肢がない状態を作ると、相手に従わざるを得ない状態となってしまう。
ホールドアップ問題の例として日本の電球メーカーと中国の材料メーカーの状況を挙げる。両者の関係は10年以上バイヤーとサプライヤーの関係が続いており、日本の電球メーカーA社は中国の材料メーカーB社に特注で部品を注文している。しかし、電球メーカーA社は中国の材料メーカーB社より近年毎年10%程度の部品価格の値上げを要求されている。今すぐに中国の材料メーカーB社に取って変わる会社はない。部品の材料にはタングステンやモリブデンといったレアアースを使用しており、このレアアースの材料の純度や加工の精度、備わっている処理設備なども考えると、世界でも供給できる会社は数えるほどしかない。しかも、世の中の流れとして既存の電球は長寿命・高効率でエコなLED照明に移り変わっており、他の材料メーカーの会社数はそれに伴い減ってきている状況。他社の部品を採用するために、これから見合った企業を選定・監査し、同等の部品を採用するために長い期間が必要である。
中国の材料メーカーB社の部品は品質、納期と非常に満足しているため、今は値上げを受け入れざるをえない状況となっている。部品内製化を行うには新たな設備投資が必要、人件費などの固定費が高く、中国の材料メーカーの値上げ分を考慮しても部品コストは合わない状況である。この対策として、日本の電球メーカーA社は早急に中国の材料メーカーB社と同程度の品質、価格、納期を有する別会社を早急に見つけ、B社ともう一つ加えた2社以上のサプライヤーを持つことで値上がりのリスクを回避することができると考える。複数のサプライヤーを持つことで競争が生まれ、部品価格の上昇を防ぎ、問題が起き部品供給がストップした場合のリスクも回避可能であると考える。これによりホールドアップの状態が解消される。
また、契約によってもリスク回避が可能。中国の材料メーカーB社との契約期間を長く設定し、契約期間中の部品供給価格を据え置くような契約とし、また供給がストップした場合の違約金を設定することで、部品供給が止まったときの生産停止による損失を穴埋めすることができると考える。もう1つの解決手段としては、中国の材料メーカーB社とM&Aを行うことができれば値上げを要求されなくなる。M&Aによって1つの会社となるので社内部署間で部品の売り渡しの金額変動があっても、会社全体では何ら変わらなくなる。これによってもホールドアップの状態が解消されると考えられる。
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