トヨタ生産方式(ジャスト・イン・タイム方式)
はじめに
東アジア(日本、中国、韓国の3カ国)の産業競争力の高さは良く知られている。戦後から安い人件費、労働力、低い物価、豊富な資源を理由に外資が投入、インフラが整備され、長きに渡る経済成長が示されている。従来型の製造業では造船、鉄鋼、自動車など、またIT関連分野では半導体、LCD(液晶表示)パネル、コンピュータ、携帯電話など東アジアが競争優位を誇る産業は数多く存在する。日本ではトヨタ、日産、ホンダなどの自動車・バイクで見られる輸出製品の高付加価値化が進んだことが主な理由であり、高い輸出額割合を持つ。また、韓国では現代(ヒョンデ)、起亜(キア)があり、中国では第2位の広州トヨタ、第一汽車、広州汽車がある。
図表1は日本の輸出額の上位10品目の変遷を年代ごとに集計したものである。50、60年は綿織物、鋼板、船舶といった重厚長大産業や繊維産業が輸出の主力を占めた。70年に入ると輸出を牽引する新たな製品が登場する。日本では自動車が76年に輸出額トップに躍り出て以降、単品としては最大の輸出産業として今日まで続いている。自動車は、60年代には国内のモータリゼーション化が急速に進展して専ら国内市場をターゲットとしていたが、70年代に入り国内需要が鈍化するにつれて輸出の重要性が高まり、70年代後半には輸出台数が国内販売台数を上回り成長を輸出に依存するようになる1)。また、2020年7月1日、新NAFTA (USMCA : United States–Mexico–Canada Agreement)が発効された。特に域内生産の割合を高める新基準であり金額ベースで62.5%の「原産地比率」を75%に引き上げる必要がある2)。そのような情勢を踏まえ、日本の産業の主軸となっている自動車産業について取り上げる。
図表1 日本の輸出上位10品目
東アジアでの自動車生産台数を下記『図表2 自動車生産台数推移』に示した。これによると、2000年には日本国内の自動車生産は1,014万台と東アジアにおいて圧倒的な規模を誇っていた。2013年には日本国内の自動車生産は微減の963万台となっている。中国は2000年から10.69倍の2,212万台と急激に伸びている。タイも大きく数を伸ばしており、日本よりも大きく拡大している国が多い。
図表2 自動車生産台数推移(単位:台、%)、日本を100として比較
世界での生産台数の生産国基準では2005年ではアメリカが1,195万台(シェア17.7%)で第1位、日本が2位で1080万台(シェア16.0%)、ドイツが576万台(シェア6.3%)となっており、中国、台湾が続いていた。しかし、先に挙げた東アジアの自動車生産台数でも述べたが、2016年では中国が急激に生産台数を伸ばしている。中国が2,819万台と世界シェア29.4%と世界第1位となっている。アメリカが第2位で1220万台(シェア12.8%)、第3位が日本で920万台(シェア9.6%)となっている。これを見ると中国は大きく台数を伸ばしているが、アメリカ・日本での生産台数が変わっていない。
メーカー基準では2005年の第1位は日本のメーカーで2,121万台(31.8%)、第2位はアメリカのメーカー1,587万台(23.8%)、第3位はドイツのメーカー1,152万台(17.3%)となっている。2016年となると日本のメーカーは2,803万台(29.7%)、ドイツ・アメリカ・中国の3国のメーカーが約1,500万台(約15%)と横並びとなっている。ここで、日本は2005年から2016年の国内生産が減っているのにもかかわらず日本メーカー基準では世界台1位となっており、生産拠点がコストや関税、輸送の観点から中国など東アジアやアメリカなど海外へシフトしていることが考えられる。また、2016年に中国が生産台数、メーカー基準でも大きく伸ばしているが、中国国内の需要が高まっているためであると考えられる。
自動車産業のビジネスモデルとしては有名なトヨタのかんばん方式とも呼ばれるジャスト・イン・タイム方式を挙げた。かんばん方式のメリットとしては組み立て工場で必要な部品を必要な時間に、必要な数だけ手に入るようにすることにある。これにより、部品を作りすぎず、徹底した無駄な製品在庫・運搬・保管、手待ち動作を排除することができる。また、ジャスト・イン・タイム方式のデメリットとしては大量生産に向いていないため、コストダウンが図りにくい。必要なものを必要なときに生産するため、中小企業では生産量や規模の生産性を活かしにくく、コストダウンするためには部品は購入数量を増やし効率化を図る傾向にある。購入数量が増えにくいため、価格を下げることが困難である。それから、納期のかかる部品は予備の部品が用意されていないため、不測の事態が発生した場合後ろの工程がストップする可能性が出る懸念も考えられる。
③自動車産業についての今後の展望
※主要な生産国やメーカーは、どこに移転するか/移転しないか
※技術や市場の変化は、産業にどのような変化をもたらすか
自動車産業において日本のメーカーは今後日本国内の自動車需要が現在500万台程度を上限とし大きく増えない4)ことを考えると、輸送コストがかかり、関税が国家間の協定で大きく変わる自動車という製品の性質から成長が期待できる中国を中心とした東アジアの販売へシフトしていくことが考えられる。中国やタイといった東アジアの国々は市場の成長が見込まれるため、内需を確保するべく生産拠点の移転は必要がないと考えられる。ヨーロッパ、北アメリカの需要も大きい成長は期待できないため、販売台数1位のメーカーフォルクスワーゲンなども引き続き中国の需要に頼らざるを得ない。また、北アメリカの販売目的においてはUSMCAが発行されたため、関税による価格増を考えると販売域内での付加価値比率を高めなければいけないため、生産拠点がさらに北アメリカにシフトしていくことが予想される。
今後、自動車産業では日本は先日『2050年に温暖化ガス排出量ゼロとする』といった排気ガス規制により電気自動車や燃料電池といった次世代の技術にシフトする可能性が高い。また、自動運転といった技術が進んでいくと予想される。そう考えた場合、新技術に対する特許をどの国のメーカーが多く保有するか、法規制が寛容な国の状況により生産拠点が大きく変わる可能性がある。
【参考文献】
1)日本国際問題研究所 日本の産業構造変化と東アジア貿易の発展 日本の輸出上位10品目大木著
http://www2.jiia.or.jp/pdf/asia_centre/h14_economy/03_oki.pdf
2)日本貿易振興機構 USMCAの概要と自動車分野の原産地規則 中畑著
https://www.jetro.go.jp/ext_images/biz/seminar/orb-200701/doc1.pdf
3)東アジアの自動車産業と日本メーカーの課題 山上著
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sisj/2015/30/2015_1/_pdf
4)AUTO Motive Jobs【2018年版】世界自動車メーカー販売台数ランキング
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