原子力発電の危険性と地球温暖化現象のジレンマ

はじめに

社会学とは今起こりえる人間社会を科学的方法にて普遍的法則の解明を目指ざす学問であると考える。その名はフランスのオーギュ・コントにより生み出された。19世紀当時自然科学が物質的世界の物理法則を説明するように、形成する人間の社会も同じように説明ができるはずだと言う考えの元に成り立っている[1]。社会学にこれまで関わってきている多くの人々の考えを理解し、それを踏まえて現代社会における事態的な事象を挙げ、社会学の理解を深める。本論ではアンソニー・ギデンズ第5版の中からp949 問4にある考察を深めるための問い『温室効果を考えあわせたとき、原子力への移行は、とるに値する賢明なリスクだろうか』を考察した。

未曽有の大災害東日本大震災

我が国日本では2011年3月、未曽有の大災害東日本大震災が起こった。岩手県沖から茨城県沖までの本州太平洋側広域に発生、マグニチュードMw9.0、最大震度7の巨大地震や津波による重大な災害をもたらした。死者と行方不明者の合計は2万5,949人。多くの尊い命とともに家屋や産業に大きな傷跡を残した東日本大震災の被害規模は、16兆~25兆円にのぼると日本政府は試算している。地震と津波によって福島第一原子力発電所が外部電源、自家発電ともに消失、停電し、核燃料に冷却水を供給できなくなり、その結果、原子力発電に使用されていた核燃料が炉心溶融(メルトダウン)を起こした。それによって、大量に発生した水素が爆発して建屋は大破し、放射性物質が空気中に放出された。特に福島第一原子力発電所が位置する福島県双葉町、大熊町、浪江町など周辺町民は8年たった今でも避難を強いられている。2019年(平成31年)3月11日現在、避難者は全国47都道府県1001の市区町村に渡り、いまだ約5万1千人存在する[2]。結果として原子力は日本と言う1つの国家に大きなダメージを与えた。

エコロジーとテクノロジーの共存

そのようなことが起こったのになぜ原子力は必要なのか。原子力の危険性は過去のソビエトのチェルノブイリ原発のような事故で目にしていたはずであるのに事故は起こってしまった。今後起こり得る天災・人災のリスクを防げるのか?原子力以外の他の方法に代替できないのか?など疑問が生まれる。人の生活、科学技術の発展にはエネルギーは必要不可欠であるが、化石燃料による火力発電では温室効果ガスを発生させ、世界各地に異常気象をもたらす。これから述べるが、温室効果ガス抑制を考えるエコロジーと科学技術・近代化を支えるテクノロジーの共存は必須である。今後の温暖化現象を抑えるための原子力の必要性、移行した場合のメリット・デメリット、原子力のリスク回避策について事例をいくつか挙げた。

温暖化現象が人類に与えるリスク

温暖化現象は地球に様々な影響をもたらす。よく言われているのが北極・南極の氷が解け、海面上昇が起こりツバルを始めとする島国が海の中に沈んでしまう事象。また、熱波などの異常気象を頻発させ、それにより干ばつや山火事が起こり、砂漠の拡大につながる。これは世界の作物収穫量を減少させ、食糧安全保障に悪影響を及ぼす恐れもある。温暖化により太陽から降り注ぐ赤外線が地球の地表に当たり温められるが、通常その一部は地球の外に排出される。しかし、温室効果ガスが増えると赤外放射が滞り、地球の温度が下がりづらくなってしまう。温室効果があるガスとしては二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなどがある。例えば、二酸化炭素は発電の際に石油、原油といった化石燃料の燃焼とセメント生産及び森林伐採などの土地利用の変化により増加が起こっている。図に大気中における二酸化炭素の世界平均濃度を示した。

図 大気中における二酸化炭素の世界平均濃度

気象庁HPよりhttps://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/tour/tour_a2.html

 図を見ると世界平均の二酸化炭素濃度は年々増加しているのが分かる。1985年の二酸化炭素濃度は345ppmであるが、2019年11月では410ppmに迫っている。世界の人口は2015年で72億人、2050年では97億人に迫るという[3]。そうなると必然的に人口増に対応した食料の確保が必要となる。FAO国連食糧農業機関によると2050年には、この97億人の人口の食料を賄うには現在の食料生産量を170%にしなければいけないという[4]。温暖化の影響で2020年までにアフリカの一部の地域の灌漑などで水の制御ができない降雨依存型農業での農作物収穫量が50%程度減少するという予測もある[5]。そうなると食糧難による飢餓が発生する。また、世界的な食糧難に陥れば巡って我が国においても食糧コストが増加する懸念がある。国連が2019年8月8日に発表した「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の気候変動が土地利用にもたらす影響に関する報告書では地球の平均気温が、今後2℃以上の幅で上昇すれば肥沃だった土地は砂漠となり、永久凍土地域に構築されたインフラも破壊されて、干ばつや洪水などによって食料の栽培と生産を脅かすと警告している。その上で、2050年までに世界の穀物価格は最大23%(中央値は7.6%)上がる可能性を指摘している[6]。温暖化現象が起こると食料生産量が減少、価格も上昇し、世界的な食糧難の懸念がある。温暖化現象は地球に様々な影響をもたらすと予測されている。

原子力発電のメリット・デメリット

原子力発電は日本では2011年の事故以来リ一時非稼働となったが、温室効果ガスを発生が少ないクリーンなエネルギーだと言われている。日本は世界の主要国と比べエネルギー自給率が低く9.7%となっている。その発電に必要なエネルギー資源(石油、石炭、天然ガス、ウランなど)のほとんどを海外からの輸入に頼っている。人が生活するためにエネルギーが必要であるが、現在主な発電方法の火力発電で使用されている石油・石炭は2018年時点での世界の埋蔵量を考えると今後50年ほどで枯渇すると言われている。そのため、代替エネルギーの取得が不可欠となる。安全でクリーンな代替エネルギーを考えると水力・地熱・風力・太陽光発電があるが、合わせても全発電力量のわずか1割ほどに留まっている。水力・地熱発電は新規開発の場所や発電に適しているかどうかの調査に長期間を有し、風力・太陽光発電は気候や自然環境に左右されやすいデメリットがある[7]。そのため、現時点ではエネルギー自給率とクリーンな代替エネルギー双方を考えると原子力発電は選択肢から外せない状況であると言える。下記に日本の電源構成別の発電電力量の推移を示した。

原子力発電所稼働への影響

グラフを見ると2011年の東日本大震災により原子力発電は減少し、2014年に一次ゼロとなっているが、2017年には再稼働している。再稼働には重大事故の防止策としてのチェック機能が働いている。例として、九州電力は特定重大事故等対処施設(特重施設)の完成が設置期限に間に合わないため、川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)を停止すると正式発表。原子力規制委員会は電力会社に対し、「原発本体の工事計画の認可から5年」の完成期限の延長を認めないことを決めている[8]。特重施設は原発に航空機を衝突させるなどのテロ行為が発生した場合に、遠隔操作で原子炉の冷却を続けられる設備である。これにより今後は条件をクリアしなければ運用できない原子力発電の稼働が厳しい状況となっている。また、福島第一原子力発電所では、特に施設全体のリスク低減に必要な措置が求められる。発電所全体に対し実施計画を中心とした一体的な規制を実施する。通常の原子力施設と同等の保安水準を網羅的には求めないとの方針が示されている[9]

今後に残された課題

温暖化現象は海面上昇が起こりツバルを始めとする島国が海の中に沈み、干ばつや山火事が起こり、砂漠の拡大が世界の作物収穫量を減少させ、これから訪れる人口増に対応できず食糧安全保障に悪影響を及ぼす。温暖化を防ぐには温室効果ガスの発生を押さえなければならない。そこで、2015年フランス・パリで開催されたCOP21において採択された「パリ協定」がある。パリ協定は、歴史上初めて先進国・開発途上国の区別なく気候変動対策の行動をとることを義務づけた歴史的な合意協定である。そこで、日本は2030年度に2013年度比26.0%減の水準(約10億4,200万t-CO2)を守ると表明している[10]。日本だけではなく、これを各国が守ることでパリ協定の目標である世界の平均気温上昇を2.0度未満に(好ましくは1.5度以下)抑えることを達成することができる。その達成には様々な取り組みが必要であると考えられるが、効果的なのが化石燃料使用量を減らすことである。安全でクリーンな代替エネルギーである水力・地熱・風力・太陽光発電をできるだけ活用し、その割合を可能な限り上げることが必要である。また、地震や津波の自然災害に負けない、そしてテロ対策の特定重大事故等対処施設を備え、十分に安全であると判断された場合にのみ原子力発電を活用する。後に安全でクリーンなエネルギーで満たされ、温暖化が抑えられる世界を目指すための議論が進むことを望む。

Sociology is considered to be a discipline that aims to elucidate the universal laws of human society that are occurring today using scientific methods. The name was coined by Auguste Comte of France. It is based on the idea that, just as natural science explained the physical laws of the physical world in the 19th century, it should be possible to explain the human society that forms it in the same way [1]. Students will understand the ideas of many people who have been involved in sociology, and based on that understanding, will identify current events in modern society and deepen their understanding of sociology.

In March 2011, Japan experienced an unprecedented disaster, the Great East Japan Earthquake. The earthquake occurred in a wide area on the Pacific coast of Honshu, from the coast of Iwate Prefecture to the coast of Ibaraki Prefecture, and caused serious disasters due to a gigantic earthquake with a magnitude of Mw 9.0 and a maximum seismic intensity of 7, as well as a tsunami. The total number of dead and missing is 25,949. The Japanese government estimates that the damage caused by the Great East Japan Earthquake, which killed many precious lives and left a huge scar on homes and industries, is between 16 trillion and 25 trillion yen. Due to the earthquake and tsunami, the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant lost both external power and in-house power generation, resulting in a power outage and the inability to supply cooling water to the nuclear fuel.As a result, the nuclear fuel used for nuclear power generation suffered a core meltdown. I woke you up.

参考文献

[1] アンソニー・ギデンズ 社会学 第5版 而立書房 2015年 1. p.31 p.979

[2] 農林水産省 東日本大震災 地震と津波の影響 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1105/spe1_01.html

[3] ナショナルジオグラフィック2100年の世界人口は112億人、国連予測 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/080600214/

[4] 国際連合広報センター https://www.unic.or.jp/news_press/info/33789/

[5] 農林水産省 地球温暖化による食糧生産への影響 https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h19_h/trend/1/t1_1_2_01.html

[6] 東洋経済 日本人は温暖化に伴う食料危機をわかってないhttps://toyokeizai.net/articles/-/298862

[7] 東北電力HP https://www.tohoku-epco.co.jp/electr/genshi/safety/qa/q1.html

[8] 福井新聞ONLINE 2019年4月24日 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/842004

[9] 新たな検査制度(原子力規制検査)の実施に向けた法令類の整備等についてhttps://www2.nsr.go.jp/data/000279077.pdf

[10] 外務省HP パリ協定 https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol150/index.html

参考文献中の[2]~[10]は2020年5月6~8日にWeb上にて検索した閲覧結果を示した。

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