タグ: 経済

  • 囚人のジレンマとは?

    囚人のジレンマとは?

     囚人のジレンマ(The prisoner’s dilemma game)とはお互いが情報を出し惜しみ、また提供された情報が奪取され、利用されてしまうリスクがある状態を言う。各々が自分の利益のことだけを考えて行動すると、お互いの協力率が低下し、各個人それぞれが得る利益も減ってしまう。これは1950年、米国初のシンクタンクと言えるランド社の二人の科学者フロッドとドレッシャーが発見し、ランド社の諮問役であるアルバート・ターカーが完成させた1)。囚人のジレンマはゲーム理論の代表格であり、これまで多くの研究が報告されている。有名な例としては、1977年のPruitt and Kimmelの目標期待理論がある。繰り返し同じ相手と囚人のジレンマの関係にあることが相互協力状態の達成に対して重要性を持っている。よく知られているように、囚人のジレンマの状態においては協力を選ぶよりも非協力を選ぶことが優越しているという。囚人のジレンマを表す分かりやすい例として軍拡競争が良く取り挙げられている。これは相手が軍備を拡大すると、自国が負けないように軍備を拡張しなければならなくなる。また、相手が軍備を拡張しない場合でも、相手に対する優位を保つためには、もちろん軍備を拡張した方が有利となる。どちらにしても両国の不安が募り、お互いに軍備を拡張する必要がある状態となってしまう状況となってしまう。

     ただし、このような非協力選択の優越性は、同じ囚人のジレンマの状況が繰り返し継続する場合には必ず当てはまるとは限らない。お互いが優越選択である非協力行動をとり続ければ、軍事費が経済を圧迫するという双方にとって望ましくない事態が発生してしまう。この事態を回避するためには、相互非協力(軍拡)を相互協力(軍縮)に転換する必要がある。したがって、長い間囚人のジレンマの状況に置かれた者の多くは相互協力の必要性を認識し、その達成を目指した行動を取るようになると言う2)

     これらを表す過去の例として、第2次世界大戦後の米ソ冷戦がある。アメリカとソ連の両国は原子爆弾の開発競争を繰り広げていたが、原子爆弾よりも破壊力が大きい水素爆弾の製造に乗り出している。しかし、水素爆弾の製造は非常にコストが高く、国家財政にダメージを与え貧困をもたらすだけで、国民の不安だけが増してしまう。このように両国の利益はあまりなく、製造を保留しさえすれば互いに利益となる状況であるが、軍事的優位への誘惑や水素爆弾を保有できずに弱者になるという恐怖のため冷戦状態に突入した。このジレンマの核心は、誰も明らかに優位を占めることができない競争が続いていた。

     これらの解決方法として軍縮が行われた。1987年12月に成立した中距離核戦力(INF)全廃条約は続いていた冷戦に大きな転換を与えた。アメリカのレーガン大統領と当時ソ連のゴルバチョフ書記長がワシントンで調印したINF全廃条約は歴史上初めての核兵器の削減条約であり、これは核兵器の一つの分野を全廃するという軍縮史上特筆すべきものであった。冷戦により増加していた軍事費は両国ともに抑えられ、その後軍縮は進められていった。また、軍縮を促進させるために、取引相手が書いた同情を誘う手記を読ませ、その際に手記に書かれていることについて相手がどう感じているかを想像して読むように指示された条件で、1回限りの囚人のジレンマゲームでも、協力率が高かったという結果も報告されている。これらの研究では、支援を要する他者への情動的な喚起が向社会的行動を引き起こすと説明されている3)

     この報告から軍縮解決策として、1987年12月に成立した中距離核戦力(INF)全廃条約から現在まで行われた核軍縮の成功例とその経済効果について世界全体でさらに理解を広めることが重要であると考える。また、第2次世界大戦中にアメリカが日本の広島・長崎に落とした原子爆弾での被爆者の声や、当時の被害状況の写真など唯一の被爆国である日本から原子爆弾が落とされた場合にどうなってしまうのか、という具体的な例を核保有国中心とした世界各国に訴え続けることが重要である。これが軍拡や核保有に関する囚人のジレンマの解決方法の最も効果的な1つであると考える。

    参考文献

    [1]Pruitt and Kimmel主観的変換/目標期待理論 1977

    [2]masm.jp

    [3]Batson & Moran1999

  • 金融リスク管理の観点によるデリバティブ取引

    金融リスク管理の観点によるデリバティブ取引

    1. はじめに

     金融商品には株式、債券、預貯金・ローン、外国為替などがある。金融商品には次のようなリスクがある。価格変動リスク、信用リスク、金利変動リスク、為替リスク、カントリーリスクなどがある。これら金融商品のリスクを低下、またはリスクを覚悟して高い収益性を追及する手法として考案されたのがデリバティブである。デリバティブはそれぞれの元となっている金融商品と強い関係があるため、デリバティブ(derivative)という言葉は、日本語では一般に金融派生商品と訳される。金融商品のリスクに対応できる体制を取り備えるリスクヘッジ商品として生まれている。金融リスクを管理する観点からデリバティブ取引について下記のように述べる。

    1. デリバティブ取引とは

    リスク管理や収益追及を考えたデリバティブ取引にはその元となる金融商品について、「先物取引」と呼ぶ将来売買を行なうことを事前に約束する取引、「オプション取引」と呼ぶ将来売買する権利をあらかじめ売買する取引などがあり、さらにこれらを組み合わせた多種多様な取引がある。世界の金融取引において、デリバティブの歴史は意外と古く17世紀のオランダのチューリップ市場などが「オプション取引」の原型であり、18世紀の大阪堂島の米市場などが「先物取引」の原型であると言われている。また、「スワップ取引」を中心とする近代デリバティブについては、1981年の世界銀行とIBMとで行われた通貨スワップから大きく発展した[1]。対象となる商品によって、債券の価格と関係がある「債券デリバティブ」、金利の水準と関係がある「金利デリバティブ」など、オーソドックスな「金融デリバティブ」、不動産を対象とする「不動産デリバティブ」がある。また最近では、CO2排出量を対象とする「排出権デリバティブ」、気温や降雨量に関連付けた「天候デリバティブ」のような新しいデリバティブも開発されている。

    1. デリバティブのメリット・デメリット

     デリバティブのメリットとして1997年米国エンロン社にて開発された天候デリバティブを挙げる。例えば、夏に冷夏のため気温が上がらずに見込まれていた販売数のビールが売れない。そのようなときに天候デリバティブにより冷夏であれば補償金が支払われ、逆に猛暑であれば購入オプション料を払うようなリスク変動を抑える仕組みがある。また、冬暖かいと暖房器具の売れ行きが悪くなる企業の場合や降雪量が多い場合、除雪・融雪関連の商品・サービスなどが活発になる事例などが天候デリバティブ対象として考えられる。このように様々なデリバティブの対象があり、デリバティブの種類として先物取引やオプション取引などに代表されるデリバティブ取引は、多様に考案・形成され、リスクヘッジや効率的資産運用等の手段として幅広く活用されている[2]

     また、デメリットとしては2007年からの世界的な金融危機とそれに伴うリーマン・ショックがあった。これは店頭デリバティブ取引の危険性を顕在化させた。2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻などにより、金融機関同士で取引される店頭デリバティブ取引におけるリスクが顕在化した。そこでは店頭デリバティブの不透明性が大きな問題となった。店頭デリバティブは相対取引であることから当局もその全体像が把握できず、世界中で信用不安が加速した。特にやり玉として挙がったのがクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で、大量のCDSを保有していたAIGが経営危機に陥ると、AIG破綻による信用不安の一層の激化を防ぐために、アメリカ合衆国の中央銀行制度である連邦準備制度FRBはAIGの救済を行った。このようにして監視されない店頭デリバティブ取引の拡大がもたらすシステミック・リスクの増大効果が世界で広く認識されるようになった。

     2つめの例としてベアリングス銀行事件がある。1762年に初代準男爵サー・フランシス・ベアリング(1740-1810)によってロンドン・シティにおいて最古のマーチャント・バンクとして創設された。ベアリングス銀行は大英帝国拡張の時流に乗って貿易商人たちの手形の引受で業績を伸ばしていき、1793年にはロンドン最有力の引受業者に成長した。しかし、1995年シンガポール支店に勤務していたニック・リーソン(1967-)のデリバティブ取引の失敗で致命的打撃をこうむり、ベアリングス銀行は同年2月26日に破産。233年の歴史に幕を閉じた。 当時リーソンは、シンガポール国際金融取引所SIMEXおよび大阪証券取引所に上場される日経225先物取引を行っていたが、同年1月17日に阪神・淡路大震災が起き、日経株価指数が急落し損失が拡大した。損失を秘密口座に隠蔽すると同時に、先物オプションを買い支えるための更なる膨大なポジションを取った。最終的な損失は、ベアリングス銀行の自己資本(750億円)を遥かに超過する約8.6億ポンド(約1,380億円)に達した。

    1. 債権

     債権には国債や地方債、社債または事業債といったものが代表的だが、満期まで保有すれば発行体が破綻等していなければ元本が満額戻ってくるため、安全性は比較的高い場合が多い。この発行体リスクの大小によって利回りの高低が左右される。発行体リスクが大きいものは安全性が低いが、収益性が高い。また逆に発行体リスクが小さく、安全性が高いが、収益性が低いという関係性となる。また、金利変動リスクがあり、途中売却時、市場の金利が高ければ債券価格が下落しており、元本割れとなる可能性がある。株式のように証券取引所を通して不特定多数の市場参加者による売買がされているわけではなく、相対取引となる場合が多いため、相対的に流動性(換金性)はやや低めと言える。さらに預金と同様にインフレリスクを抱える。

    1. 外貨

     国内金融では考える必要はないが、国際金融となる場合外国為替取引を伴う。例えば、日本企業とアメリカの企業が国境を超え取引する場合、それぞれの企業は自国の通貨と他国の通貨を交換する必要がある。このような通貨の交換が外国為替取引である。国際金融では中央銀行がないため、国内金融のように監視し、必要に応じてコントロールする中央銀行がない。取引の際に資本が枯渇しても、世界全体をコントロールするような中央銀行がないので、それぞれの国や地域で対応しなければならない。

     外国為替証拠金取引(FX)におけるリスクヘッジ商品として限月を設定した取引。FXは「”将来”円高になるだろうから円買い」などの思惑・予測から売買されることが多いこともあって、先物取引であるとの誤解がしばしば見られるが、外国為替証拠金取引そのものは「直物為替先渡し取引」に相当する先渡し契約(forward)であり先物取引ではない。また、外貨取引に関して、1998年4月に、外国為替及び外国貿易法(新改正外為法)が施行された。海外の子会社を含めたグループ企業同士の「ネッティング取引」また、コストを外国為替取引やデリバティブ取引では企業間などで取引を行う場合、取引のたびに決済を行うのではなく、ある一定の期日に債券と債務をまとめて相殺し、差額分だけを決済することができる。取引のたびに決済を行うと為替手数料などが発生するが、ネッティングを行うことでコストを削減できる。 2者間での相殺をバイラテラル・ネッティング、3者以上に渡る相殺をマルチラテラル・ネッティングという[3]

    1. 証券

     証券は一般的に、株券、社債券、国債券、手形、小切手、船荷証券などの有価証券をいう。証券取引や証券市場でいう証券は、証券取引法によって、有価証券のうち株券、社債券、国債券など一定のものに限定されている。証券は有価証券のほかに、借用証書、契約書などの証拠証券(証書、証文)、さらに携帯品預り証、下足札、キャッシュカードなどの免責証券も含まれる。このほか、金券も広義の証券に含めることがある。なお、プラスチック製のカードに電磁的方法で権利内容が記録されたものは法律上、証票とよばれることもあるが、有価証券、免責証券など証券の一種であることが多い[4]

    1. まとめ

     本レポートでは金融リスク管理の観点から見たデリバティブ取引について述べた。デリバティブの元となる金融商品を守るために金融商品のリスクを低下させる、または元となる金融商品より高い収益性を追及する手法として考案されたのがデリバティブである。デリバティブに関する債権、外貨、証券のその用語説明、デリバティブのメリット・デメリットについて過去の事例として2007年のリーマン・ショック、1995年のベアリングス銀行事件を挙げた。メリットとして、近年のCO2排出権、気温や降雨量に関連付けた天候までもがデリバティブとして存在している。これの天候デリバティブは、様々な要因から生じる保険のような役割であると感じた。デリバティブの歴史は意外と古くから存在し17世紀のオランダのチューリップ市場、18世紀の大阪堂島の米市場が先物取引の原型であると知った。今後、様々なデリバティブ取引が開発されることを期待し、本レポートを締める。

    参考文献

    [1] 金融情報サイト https://www.ifinance.ne.jp/glossary/derivatives/

    [2] 知るポルト 金融広報中央委員会 https://www.shiruporuto.jp/public/data/encyclopedia/deriv/deriv101.html

    [3] コトバンクhttps://kotobank.jp/word/ネッティング-178926

    [4] 株式会社平凡社 世界大百科事典 第2版について

  • 労働者の選好は何で決まる?

    労働者の選好は何で決まる?

    はじめに

    マーシャルの派生需要の法則の4つの条件を挙げる。

    1. 他の生産要素(資本設備など)との代替困難
    2. 生産物需要が非弾力的
    3. 総費用の中で労働費用(人件費)割合が小さい
    4. 労働代替する他生産要素供給が非弾力的

    上記の4つの性質をもつ仕事ほど雇用は非弾力的であると言える。より簡単には同率の賃金変動に対して、雇用が安定的と考えられる。需要量は価格や所得に反応するが、価格や所得の変化に対して大きく反応を示すのが「弾力的」、あまり反応を示さないのが「非弾力的」となる。他の生産要素(資本設備など)との代替が困難。生産物の需要が非弾力的である。総費用の中で人件費の割合が小さい。労働を代替する他の生産要素の供給が非弾力的である。すなわち、高度な教育訓練を要し、単純ではない熟練度を要する作業であり、生み出される物やサービスの需要が非弾力的なものであることが生産物の需要が非弾力的である。

    労働者の選好はリスクと賃金の2つで決まるため、危険でも賃金が高ければ埋め合わせられるという性質をもつ。生産要素(労働と資本)の代替の難易が影響し、自動車工場の溶接工をロボットで置き換える場合は容易であり、旅客機のパイロットをロボットで置き換えるのは困難である。代替の難易は生産技術に依存し、産業・職種により多様ある仕事を機械(資本設備)で置き換える。そうすると、その仕事は失われる。(資本と代替する労働)一方、その機械を作る人、操作する人などの雇用はむしろ創出される。(資本と補完する労働)機械と代替的な労働もあれば、補完的な労働もある。Villanueva(2007)は、ドイツの転職者を含むパネルデータで、職場環境と賃金の関係を分析した。仕事量が悪化した転職では対数賃金が0.130増加、つまり賃金は13.0%増加したことになる。一部に理論と不整合な点もあるが、大部分で職場環境が悪化するほど、統計的に有意に賃金は上がることを示している。

     上に挙げた派生需要を踏まえ、関心のある職種として医師とパン工場での単純作業者の2つを選択し、その労働需要の賃金弾力性を検証する。まず、医師は患者の状態を自ら診察し、判断し、投薬や手術などの判断を行わなければいけないため、他の生産要素との代替が困難であると言える。医療ロボットやAIによる診断などの補助的な要素が報告されているが、最終的な判断は医師である。また、平成30年度の国民医療費は43兆3,949 億円、前年度の43兆710億円に比べ3,239 億円、0.8%の増加となっている[1]。病院にかかる患者の医療費は年々増え続けているため生産物(患者)の需要は非弾力的である。医師は免許が必要で免許を持たない人はその職に就くことができないため、労働を代替する他の生産要素の供給が非弾力的と言える。また、2019年度の医師の平均年収は1169万円とされ[2]、賃金を挙げないと人材を集められない。以上から医師は賃金弾力性が高いと考えられる。

     一方、パン工場での単純作業者について述べる。単純作業であればあるほど設備による自動化が可能で、他の生産要素との代替が容易である。また、競合他社が多い商品であるほど、市場が移り変わり、生産物の需要の変動が大きく非弾力的であると考えられる。単価の総費用の中で労働費用(人件費)の割合が小さい。労働を行うことができる年代、経験年数も制限が少ないと考えられ、状況にもよるがその人材募集も最低賃金での募集も見受けられるため、労働を代替する他の生産要素の供給があまり非弾力的ではないと考えられる。そのため、賃金弾力性はあまり高くはないと考えられる。

    参考文献

    [1]厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/18/dl/data.pdf (2022.02.06閲覧)

    [2]賃金構造基本統計調査 (2019年) 

  • 企業にとってより良い資本構成を考える

    企業にとってより良い資本構成を考える

    はじめに

     最適資本構成を決定する理論的な要因は、「資金調達方法」及び「資金調達の組み合わせの比率」である。また、最適資本構成において、企業が最大化することを想定しているのは「企業価値」である。完全競争の状態では取引費用、税金を無視できる。しかしながら、実際の市場においては税金や倒産などの不完全性が存在する。企業は負債利子による節税効果を求めて負債を増やそうとするモチベーションと負債比率の上昇に伴って倒産リスクが高まる危険性を考慮しつつ、企業価値を最大化する資本構成を目指すこととなる。

    資金調達方法

     企業の資金調達方法は「内部資金」と「外部資金」に分類することができる。外部資金の調達方法として銀行借入れ、社債発行、新株発行等があり、企業はこの調達方法の中からもっともコストが抑えられるように資金調達が選択される。

    企業が内部資金を使って資金を調達した場合

    自らが保有している自己資金を使用した場合、その企業は資本購入のための資金をほかで資産運用することで得られたであろう利子収入を失う。また、資本市場が完全競争で取引費用や税制の問題を取り除ける場合、内部資金と銀行借入れの資金調達コストも同様になる。したがって完全競争な資本市場の元では、有形固定資産や無形固定資産を外部の資金で購入しようと、自らの資金で購入しようと違いはないと言える。

    企業が外部資金を使って資金を調達する場合

    外部資金の内、銀行借入れと社債は負債であり、いずれも償還時には原本と利息を支払うこととなる。特に資本市場が完全競争であれば取引費用が無視され、社債と銀行借入れの資金調達コストは同様になる。新株発行の場合、株の購入者が企業の得た利益の一部を配当として受け取ると同時に株主として会社の経営に関わることができるという点で、銀行借入れや社債とは異なる性質があると言える。ただし、完全競争的な資本市場の場合、企業の調達可能額すなわち企業価値という観点から見ると新株発行による資金調達コストは負債による資金調達方法と同様となる。

    資金調達の組み合わせの比率

     企業が効率的に資金調達を行い、最適な資本構成となりうるのだろうか。この問に関して、モディリアーニとミラーの二人が言及している。彼らは「理想的な資本市場では、負債と株式の資本構成によって企業価値は変化しない」という「モディリアーニ=ミラーの定理(MM定理)」を明らかにした。自由な市場経済における一物一価の法則を資本市場に当てはめると、どのような証券であっても同じ価格がつけられるはずである。このことから完全競争的な資本市場であればMM定理は成立すると言える。

    しかし、実際の資本市場では様々な問題点があり不完全である。不完全市場の場合は節税効果の分、資金調達が負債であるほど企業価値が高くなる。しかし、負債が大きくなるほど債務不履行の可能性が高まり、倒産による権利の喪失や取引停止による売上減などの倒産コストが発生する。その負債の増加は節税効果の面では好ましいが、倒産コストの面では好ましくないというトレードオフの関係が発生する。この関係を図にすると、最適な負債は限界節税効果と限界倒産コストが等しくなる点Aに決まり、この点が企業価値を最大にできる最適資本構成であると言える。(図1)

    MM定理に法人税と倒産コストを加味した上記の考え方をトレードオフ理論と呼ぶ。この理論では安全性の高い資産を多く持ち、高収益で課税所得の大きい企業は倒産する確率が低いことから負債利用度を高めることが合理的である。一方、安全性の低い資産を持ち、収益性の低い企業は倒産する確率が上がるため、負債の利用を抑えて株式発行による資金調達が合理的であるとされる。また、最適資本構成の考え方の一つにエコノミックキャピタルがある。自社が急激な景気減退などで訪れる損失額及び株主に負担をかけない割合でこれを下回れば企業価値低下を始める。これが最適資本構成点であるとも考えられる。

    エコノミックキャピタル(円) = 現預金×0 + 売上債権×0.15+その他流動資産×0.4 +有形固定資産×0.6 +その他固定資産×1

    また、それは資産の比率だけではなく、財務の健全性は資産のリスクに見合う以上の自己資本額を持っているかどうかで示される[1]。

    ペッキングオーダー理論

     ペッキングオーダー理論とは、資金調達コストの大きさを表したものである。

    内部資金<銀行借入<社債<新株発行

    上記の階層構造順に資本調達コストが低いと考えられている。実際の資本市場では不完全性から調達コストに差が出る。内部資金が最も調達コストが低いと考えられているのは、貸し手と借り手が同一の経済主体であり、制約なしに調達することができるからである。一方、外部資金の場合、借り手の企業情報が不透明で貸し手は事前に借り手の情報を収集する必要があるほか、貸し出し後にもモニターする必要があり様々なコストが発生する。このように外部資金はより高い資金調達方法となる。

    おわりに

    現在においても完璧な最適資本構成の理論的な導出方法はない。企業の資本構成はそれぞれの企業の特色によって見合ったものが必ずある。トレードオフ理論やペッキングオーダー理論を念頭に置くことにより、企業にとってより良い資本構成は導けるのではないだろうか。資本構成を考えていない企業は資金調達方法を見直し、現在よりも良い資本構成へとターゲッティングしていく必要があると感じた。

    【参考文献】

    [1] 企業価値向上経営セミナー「企業価値向上経営の実践に向けて」講義録2016.9.12

    https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/award/nlsgeu000002dzl5-att/20160912_lecture_report.pdf

  • 事業セグメントを複数展開する会社 ソニー

    事業セグメントを複数展開する会社 ソニー

    <script async src=”https://pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js?client=ca-pub-8984570867040715″
    crossorigin=”anonymous”></script>

     日本の上場企業の中で事業を複数持つ企業としてソニーがある。2021年4月28日に発表されたソニーの2020年度の売上高は8兆9994億円であった。純利益は前年比でおよそ倍の1.1兆円。2020年度連結業績は、過去最高益という好業績で着地している。事業セグメント別に見ると、利益に大きく貢献し2019年度と比較して、圧倒的に大きく伸びたのは「ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)」と「金融」であった。純利益が1兆円を超えた。どのような事業群を持ち、どのような経営方針で1兆円もの利益を上げているのか。その企業戦略について理解を深める。

    ソニーの事業セグメントについて

    下記にソニーの事業セグメントを示した。ソニーのセグメントは大きく分けるとゲーム&ネットワークサービス(G&NS)、音楽、映画、エレクトロニクス・プロダクツ& ソリューション(EP&S)、イメージング& センシング・ソリューション(I&SS)、金融の6つから構成される。下記にソニーグループの概要図を示した。

    ソニーグループ概要図

    https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/Data/organization.html

       ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)事業

    ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)はプレイステーションなどのPS5を代表するゲーム事業である。新型コロナウィルスにおける巣ごもり需要と季節要因によるものと説明している。コロナ禍がスタートした第1四半期と第4四半期で、ソフト販売数量のうち、ネットワークからのダウンロード販売比率は70%を超えている。ゲームソフトウェアやネットワークサービスの増収があり、この分野で過去最高益を達成した[1]。ネットワークサービス化したことは、従来のプラットフォームのユーザーも引き継ぐことができ、PS4からPS5の移行も受け入れられた結果であると言える。

       音楽事業

    音楽事業ではコロナ禍で制作やライブ収益やストリーミングサービス、アニメ・モバイルゲームなどがある。アニメ・モバイルゲームは、具体的に言えば日本のIP(版権または知的財産)事業、大ヒットした『鬼滅の刃』を扱うアニプレックスなどのアニメ部門や、『Fate/Grand Order』、『UNCHARTED:Fortune Hunter』、PC版の『ホライゾン ゼロドーン』などのスマホゲームを多く抱える。これらはPlayStation Mobileより販売されている。

       映画事業

    映画事業は劇場公開、配信などのホームエンタテインメントから成る。映画の売上高は前年比25%減の7588億円、営業利益は123億円増の805億円。新型コロナの影響による劇場公開作品の大幅減や、テレビ番組の制作、納入の遅れなどが影響した。だが、映画製作におけるマーケティング費用の大幅減や映画作品のホームエンターテインメントやテレビ配信向けの売上げが好調であり、増益になっている。

    2021年度通期での見通しは売上高は50%増の1兆1400億円、営業利益は25億円増の830億円。劇場公開の再開に加えて、テレビ番組制作やメディアネットワークの回復などから、増収増益を見込むという。米国の大都市での劇場公開はすでに再開しており、ヒット作の続編の公開がプラスになると考えている。作品の販路を柔軟に選択し、作品ごとの長期的な価値を最大化したいと述べている。また、コンテンツ需要の高まりを背景に、映画やテレビ番組作品のライセンス取得は好調で、NetFlixとDisneyとも、2022年以降の配信に関して長期ライセンスを結んだと報告した。また、Sony Pictures Entertainment(SPE)は、2020年12月9日、アメリカのAT&Tより、アニメ配信サービス「クランチロール」(Crunchyroll)を運営するEllation Holdingsの完全子会社化に合意したと発表している。買収の主体となるのはソニー・ピクチャーズ傘下の米法人・Funimation Global Groupで、買収金額は11億7500万ドル(約1222億円)となる。クランチロールはアニメを中心とした映像配信事業者である。創業は2006年アメリカ・ヨーロッパを中心に200以上の国と地域で、広告ベースの無料配信と月額課金制の有料サービスの両方を展開している。ソニーのプレスリリースによると300万人以上であり、登録ユーザーは9000万人を超える[2]。現在は自社での配信だけでなく、ワーナーメディア傘下の月額課金制映像配信サービス「HBO Max」にもコンテンツを提供している。

       エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション事業

    エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)はテレビなどの家電、デジタルカメラ、放送用・業務用機器、オーディオビデオ、スマートフォンなどのコンシューマ事業に当たる。こちらは創業当時からのソニーをイメージする事業群である。売上高は2019年度比4%減の2兆0665億円、営業利益は519億円増の1341億円となっている。

    デジタルカメラの販売台数減や為替の影響により減収となったが、モバイルコミュニケーションを中心としたオペレーション費用の削減や、テレビなどでの製品ミックスの改善により、大幅な増益になった。一定の基準で同質的なものをまとめたものを製品ラインといい、そのラインへの新製品の追加や削除、あるいは拡大や縮小によって、最適な製品ミックスは行われる。この製品ミックスは価格設定においても考慮される。たとえばプライスライニングという価格設定では低価格から高価格まで種類が豊富な価格帯を形成する。2020年度は、部品供給などに制限がかかり、大きな影響を受けたが、変化に機敏に対応することで、高い収益性を確保できた。また、モバイルコミュニケーションも当初計画を上回る大幅な黒字を達成したと言う。

       イメージング& センシング・ソリューション(I&SS)

    ハイエンドスマホ向けのイメージセンサーがメインの事業である。売上高は2019年度比5%減の1兆0125億円、営業利益は897億円減の1459億円。モバイル機器向けイメージセンサーの販売減が影響したという。これは2020年度には米中貿易摩擦の影響で、ファーウェイ向けのモバイルイメージセンサーの出荷が一時的に停止したこと影響しているという。通期見通しは、売上高が2019年度比12%増の1兆1300億円、営業利益は59億円減の1400億円。これまで進めてきたモバイルセンサー事業の顧客基盤の拡大により、数量ベースでの市場シェアを、2019年度並みに戻すことを予定している。2021年度の数量回復は見込めており、2022年度に向けた商品タイプ数の拡大や、高付加価値モデルへの再シフトを進めるため、研究費は250億円程度増加させる。また、設備投資には2850億円を予定しており、積層技術を生かした高付加価値モデルへのシフトを進め、それに必要な生産設備の能力拡張に投資を振り向けるとしている。

       金融事業

    金融の売上高は前年比28%増の1兆6689億円、営業利益は350億円増の1646億円。通期見通しは、売上高は16%減の1兆4000億円、営業利益は54億円増の1700億円とした。一方、新たに開始する2023年度までの第4次中期経営計画経営の数値目標として、3年間累計の調整後EBITDAで4兆3000億円をあげた。(※EBITDAは、財務分析上の概念の一つ。税引前利益に、特別損益、支払利息、および減価償却費を加算した値である。)

     各事業の収益性の改善と強化を優先してきたが、売上げと利益のバランスが取れた成長を目指すという。EBITDAは、完全子会社化した金融事業を含むグループ全体で、投資とそのリターンの循環による中長期での事業拡大を確認でき、企業価値評価との親和性が高い指標と考えている。

    ソニーとパナソニック企業比較

    日本を代表する家電メーカーのソニーとパナソニックはよく比較される2019年度でソニーグループとパナソニックの時価総額を比較すると、2015年以前はほぼ同規模だったにもかかわらず、その後は徐々にソニーがパナソニックを引き離し、今や4倍以上の開き金額として10兆円もの開きがある。ソニーは過去最高益を出しているが、パナソニックは売り上げが30年前と変わっていない[3]。まず事業別売上高をみるとソニーはゲーム分野のほか音楽と映画などコンテンツ面が半分近く、利益では過半を占める。ソニーが事業の柱をそだて、結果として利益を出せる事業となった結果と言える。

    総括

    ソニーのセグメントは大きく分けるとゲーム&ネットワークサービス(G&NS)、音楽、映画、エレクトロニクス・プロダクツ& ソリューション(EP&S)、イメージング& センシング・ソリューション(I&SS)、金融の6つから構成される。ゲーム事業はPlayStation5は供給不足が直ちに解消される状態にないという。まだまだ市場が伸びる案件であるといえる。エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)では製品ミックスの文字が多く、利益が最大限出るようにソニーが持つ製品群を工夫している。注目はスマートフォン事業である。長年赤字に苦しめられ、2019年度も営業赤字だったが、営業利益が227億円と黒字になった。下記、ソニーの国内携帯電話市場シェアのグラフを見ると日本国内のシェアは決して高くない。1位はAPPLEであり、シャープ、SAMSUNGと続きソニーは4番手である。

    そのシェアの中でなおかつ、狭い日本の市場だけで黒字化に成功したのは非常に興味深い出来事である。その理由について1つは販売数を絞り込んだこと。現状、ターゲット市場は日本としており、営業経費を抑制できた。2つ目は高付加価値で単価の高いモデルに集約したことで、利益率が向上した。3つ目にコスト削減と設計最適化の結果、大幅な収益改善につながったという[4]。そのモバイルでも海外ゲーム情報サイト『Eurogamer』は、モバイル部門責任者を募集する求人広告にノーティードッグスUnchartedやグランツーリスモなどを持つSIEがPlayStation Studiosの今後3年から5年をかけて「PlayStationの人気フランチャイズをモバイル分野で成功させることに注力する」との計画も明かされている[5]。ソニーの事業は一見それぞれが独自に動いているように見えるかもしれない。しかし、創業時からの家電から事業の柱を増やして、それぞれが相互に機能していることが過去最高の営業利益を達成した結果であると考えられる。コロナ禍にて多くの企業が減収減益の中堅調な伸びを見せているのは強固な柱を育てることがこのソニーのような企業をつくる戦略となると考えられる。

    参考文献

    [1]SONY決算短信・業績説明会資料2020年度

    https://www.sony.com/ja/SonyInfo/IR/library/presen/er/archive.html

    [2]クランチロールとは~ https://www.businessinsider.jp/post-225974

    [3]東洋経済 パナソニックとソニー、10年で大差ついた稼ぎ方

    https://toyokeizai.net/articles/amp/438937?display=b&amp_event=read-body

    [4]国内携帯電話市場動向について 株式会社MM総研

    https://www.soumu.go.jp/main_content/000692932.pdf

    [5] Sony working on 25 games for PlayStation 5, half of which are new IP

    https://www.eurogamer.net/articles/2021-05-13-sony-working-on-25-games-for-playstation-5-half-of-which-are-new-ip

  • カンボジアの進むべき道〜更なる発展のために〜

    カンボジアの進むべき道〜更なる発展のために〜

    <script async src=”https://pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js?client=ca-pub-8984570867040715″
    crossorigin=”anonymous”></script>

    Ⅰ はじめに

     カンボジアは,インドシナ半島のメコン川下流域に所在する。面積は日本の約半分の181,000㎢で,国土の中心には湖と河川の複合体であるトンレサップ湖がある。その河川部分は国土の東部を縦貫するメコン川の支流となっている。国土うちの多くの面積を占める中南部は,メコン川の水の豊かさや氾濫により肥沃な土地を持つ。カンボジアはメコン川の恩恵を多大に受け水運と漁業・農業が支えている。カンボジアは度重なる内戦を経て、急速な経済成長を進めてきた。かつては共産主義を推し進めた政権の影響もあってアジア諸国と比較しても後れを取ったが、アジア開発銀行などの組織や各国から膨大な資金援助を享受し,国内状況の劇的な改善に努めた。また,1999年に東南アジア諸国連合(ASEAN),2004年に世界貿易機関(WTO)への加盟を達成し,国際社会にも認可されるまでに成長した。そして,1999年から2019年までに平均7.7%のGDP成長率を誇り,名実とともにアジア圏で最も成長著しい国家となった。

     しかし,カンボジアは世界でも最貧国のひとつというのが国際的な共通認識である。国連開発計画委員会が発表した2021年版の後発開発途上国のリストには世界の46か国が選出されており、カンボジアの名前も掲載されている。基準として,(1)過去3年の国民総所得が年平均で1,018米ドル以下であること,(2)国連開発計画委員会独自の基準であるHAI (Human Assets Index)により,人的資源開発の程度が低水準と判断される,(3)国連開発計画委員会独自の基準であるEVI(Economic Vulnerability Index)により,外的ショックへの耐性がないと判断されるというものがある。カンボジアは急激な成長を続ける国家ではあるが、世界基準では最貧国の枠から抜け出せずにいる。

     重田(2016)は,「グローバル化の時代に資本主義をすすめる国家は,国民や貧しい国民に対して本当の役割を果たしているのだろうか」と指摘する。カンボジアでは1970年代より内戦が発生している。わずか30年前まで共産主義を推進した国家が資本主義に急転換したため、国民に多大な労力と不安を強要する形となっている。したがって,本稿ではカンボジアという国家の地理的,歴史的,産業的及び経済的背景の観点より概観する。そして経済成長するうえでの課題を提示し,カンボジアが最貧国から脱出する具体的手法について検討する。

    Ⅱ カンボジアの地誌

    1. 地理的概観

     カンボジアの人口は,およそ1億5300万人(2019年カンボジア国勢調査時点)であるが,そのうちおよそ30%程度がこの河川をもととする平野部に居住している。後述するがカンボジアは農業が盛んであり,農業をすすめるうえで必要不可欠な水源に人口が固まるのは自然であるといえる。

     トンレサップ湖の北辺にはクメール王朝の遺跡として世界的に有名なアンコール・ワットやアンコール・トムといったアンコール遺跡(1992年,世界遺産登録)が存在する。国土の大部分は海抜100メートル以下であるが,東北部にアンナン山脈につながるモンドルキリ高原がある。北部には切り立ったダンレク山地,プノンペン西方にカルダモン山脈が連なり,その山系に最高峰アオラル山(1,813メートル)がある。

     その河川部分は国土の東部を縦貫するメコン川の支流となっている。国土うちの多くの面積を占める中南部は,メコン川の水の豊かさや氾濫により肥沃な土地を持つ。したがって,カンボジアはメコン川による水運と漁業・農業が支えているとも言え,農水産業に強みを持っている。カンボジアの農林水産業概況2019年によると主要農産物はキャッサバ,コメ,とうもろこし,大豆,天然ゴムである。また、キャッサバは主に北西部で栽培されており、多くが燃料用バイオマス原料としてタイやベトナムに輸出されている。

    画像1.png

    図2 カンボジア及び近隣諸国の地図

    (久保,南雲,2009より)

    1. 歴史的背景

    カンボジアは,古くは扶南,真臘という王国が統治していた。当時はインドと中国の狭間に位置しており,貿易の中間点として商業文化が発展した。時は進み9世紀あたりより,クメール王朝はインドシナ半島を統治し,アンコール朝を成立させるなど栄華を極めた。しかし19世紀中頃にはフランスによる植民地化がすすみ,第二次世界大戦後まで統治されることになる。シハヌーク王が1953年に独立を達成し,独立当時は中立的政策をとることで両陣営から支援を獲得した。この背景には,独立直後の1955年に勃発したベトナム戦争を回避する目的があったと考えられる。しかし、この独裁政権は1970年のロン=ノルによるクーデターで崩壊する。この親米政権も,3年後にはポル=ポトが首領を務めるクメール=ルージュと結託したシハヌークによって打倒されたが,この際権力を得たポル=ポトが自国民の大量虐殺を実行した。彼は原始的共産主義を基とした改革をすすめ,多くの自国民を処刑した。小暮・髙崎(2014)によると,改革開始の1975年4月から1979年1月までのわずか4年足らずで,およそ200万人が死亡した。この人数は,当時のカンボジアの人口の約25%にあたる。下記に示す統計グラフからも,ポル=ポトによる大虐殺の規模が伺える(図3)。

    画像2.png

    表1 カンボジアの人口変遷

    The World Bank,Data & Researchより

     国内政治が荒廃する中,カンボジアは国際的にも孤立した。ポル=ポトの社会改革が破綻してからも1990年後半になるまで政治情勢は不安定であった。現在でこそ人口は増え続け2020年には1600万人を超しているが,総じて苦難の歴史を経験したのがカンボジアという国であるといえる。

     政治的観点から検討すると、当時のカンボジアで強力に推進された原始共産主義は、現在における民主主義に通ずるものがあると考えられる。山内(2014)はジョージ=オーウェルの「動物農場」について検討したが、この結果は現代政治にも応用が可能である。オーウェルのこの作品は、理想的政治体制と過大な評価を受ける民主主義に一石を投じた作品である。山内は、ナポレオンなどと名付けられたずる賢い豚が、何を言っても賛同しかしない民衆たる羊を巧みに操作していると指摘する。彼の指摘を踏まえると、カンボジアの当時の政治状況は研究に値する。しかし本論文は、カンボジアの経済政策やその問題点、具体的解決策について述べるため、ここではこれ以上の言及を行わないこととする。

    1. 産業的概観

     秋山(2016)によると,2015年推定のデータによる産業構造は,農業が28%,工業が27.9%と同程度,そしてサービスが43.6%となっている。初鹿野(2012)はアメリカや中国などによる外資主導で進められてきた縫製業と,人口の80%以上が居住する農村地帯をメインに取り組まれる農業が主産業であると述べている。まず前者であるが,資本主義社会の進行に伴い,カンボジアは1995年にアメリカとの国交を回復した。資本主義のおおもとで,冷戦期に西側諸国を統括したアメリカの立場からすると,共産主義を掲げたカンボジアは敵側であった。国交回復に伴いアメリカによる最恵国待遇を獲得し,カンボジアは輸出量を制限することなく縫製業の発達を進行することに成功した。その過程で高水準の技術を獲得したカンボジアの労働者にポテンシャルを見出し,中国企業がカンボジアへの乗り込みを開始した。素材としては完成されている布などをカンボジアの工場に発送し,現地で裁断や縫製を行う。そしてカンボジア製としてラベリングされた各商品をアメリカに輸出するという一連のプロセスが,カンボジアの縫製業を支えるビジネスである。総人口の80%以上を占める農村地域の人口の主要な収入源である。農産物としてはコメが主要で,恵まれた土地状況を活かし更なる輸出拡大の可能性も指摘できる。他の主要生産物はゴム,トウモロコシ,カシューナッツ,マニオク,タピオカ,シルクなどである。耕地面積の約8割を占める稲作は雨水を利用した一期作を中心として,灌漑施設が機能している地域では二期作が行われている。農産物の主な向け先の1つは中国でコメ、バナナ、マンゴー、リュウガンなどを輸出した。ディット・ティナ農林水産相は先ごろ、中国の国営新華社通信のインタビューに答え、同国への農産物輸出について「さらに拡大できる可能性があると考えている」と話した。 同相はまた、「今年1月に発効した地域的な包括的経済連携(RCEP)協定や中国との自由貿易協定(FTA)が、カンボジアの農業部門の発展への追い風になっている」と述べた。

    1. 経済的概観

     本稿で最後に概観するものとしては,カンボジアの経済的状況である。政治体制として立憲君主制を施行するカンボジアは,現時点で政治的に安定している。政治と密接に関係する経済も成長を遂げており,1999年から2019年までの平均GDP成長率が7.7%と非常に高い水準で推移している。山内(2010)は,カンボジアは1993年に計画経済から市場経済に移行したと報告しており,これが功を奏した格好といえよう。2008年には世界的な恐慌が発生し世界中に影響が及んだが,カンボジアはその中でも成長を続けた点が評価に値する。ただし、奥田(2019)が検討するように、カンボジアのドル化が急激に進んでいる点は指摘する必要がある。国際的に流通する通貨を積極的に利用することによって、カンボジアの経済状況は大幅な改善を見せた。この点は、他のアジア諸国の経済政策とは大きく異なる点である。「高度にドル化した経済発展の経験は、東南アジア諸国においてカンボジアが初めてである」という文言が見受けられる通り、経済を通して国際社会に参画するミッションに成功した点で評価できる。

    Ⅲ カンボジアの更なる発展に向けて

     これまで述べてきたとおり,共産主義国として長きにわたる内戦に苦しんできたカンボジアは,資本主義国の力を借りつつ経済成長を続けてきた。また,国際的な協力体制を確立することで,平和的に国家運営する基盤をつくってきた。しかし初鹿野(2012)が指摘する通り,米国および他国の外資主導による産業発展は,のちに鈍化の様相を呈するようになる。縫製業におけるグローバルバリューチェーンの確立など,市場の多角化が進行していることは確かである。
     森田(2002)が指摘する通り,カンボジアにおける貧困の主原因として挙げられるのは,ポル=ポト,つまりクメール=ルージュによる支配と原始的共産主義の台頭である。「メガネをかけている人は殺された」との文言がある通り,ポル=ポトは知識人を大量虐殺することで共産主義の現出に注力した。この時代の影響は人口ピラミッド(図4)を見ると分かる通り,高齢者が非常に少ない点で現れている。これは先進国で見られる65歳以上の割合が低く、労働人口の割合が高いため、この先成長が見られるとGDPの底上げが期待できる。

    画像3.png

    図4カンボジアの人口ピラミッド(2020)

    PopulationPyramid.net 「カンボジア」より

     2015年時点でも識字率の低さは目立っており,特に成人女性の文盲率は66.8%と半分以上が文盲というデータが出ている。石黒(2015)は途上国では初等教育ですら満足に完了できない子供が非常に多いと指摘している。先進国に居住する人間には信じがたい話であるが,データとして事実が提出されている。

    画像4.png

    図5 初等教育において,最終学年に到達する割合(石黒,2015より)

     アジアの途上国において初等教育の最終学年に到達する割合がグラフで示されているが,カンボジアのそれはわずか61%しかないことがわかる。日本と違い学年が上がる際に進級試験が行われている。また、UNICEFのカンボジアと東南アジア諸国と日本における比較によると中等教育に移る時点では34%と他の東南アジア諸国と比べてかなり低い値となっている。


    表2 カンボジアと東南アジア諸国の就学率比較

    画像5.png

     これは世界的に見ても最低水準である。国連開発計画(UNDP)は貧困と教育の関係について「十分な教育を受けられないこと、またもっと深刻な場合、教育を受ける機会さえも与えられないことは、人の一生を限られたものにしてしまう最大の要因の1つである。」と述べており、就ける労働の範囲が制限され、仕事が与えられない可能性が高まると言える。高等教育が受けられる人の割合も同推移であり、カンボジアの教育不足が貧困に直結するという論理を補強している。

     続いて国民全体の貧困である。秋山(2016)が指摘するのは,カンボジアのつましい現状である。「カンボジアはアジアの最貧国の一つであり,長期的な経済発展は,困難な課題である」という文言は想像を上回るカンボジアの現状を端的に表現しているといえる。2012年時点で,約266万人が一日1.2ドル以下での生活を強いられており,また5歳以下の子供のうち実に37%が慢性的栄養失調になっている。山川(2015)は,カンボジアの経済格差を題材としたジニ係数を算出し,2011年時点で0.313という高い数字を算出している。ジニ係数とは0に近いほど平等が担保されていると解釈される,0から1の範囲で表される示準である。この数字を見る限り,カンボジアは格差が拡大しているという点を否定することはできない。

    1. 経済の発展に向けて

     前セクションにて,カンボジアが最貧国と評価されるに至った要因が教育の不足からなる貧困とした。前述の通り,カンボジアは教育のドロップアウト率が高い。そのため、初等教育の最終学年に到達する割合を上げるべく可能な限り早く、先進国に見られる義務教育化を推進すべきである。それには自国で維持できていない現状であるため、国際援助が必須であろう。カリキュラムを確立により,教育の効果が感じられにくいという懸念点はあるが,それでも助け合いによる教育機会の提供は必要であろう。また、カンボジアの主要農産物のキャッサバは燃料用バイオマス原料と輸出されている。バイオマス燃料はCO2排出を抑制し、近年見られる持続可能なSDGsエネルギーとして注目を浴びている。

    画像6.gif

    図6:バイオ燃料の生産量の推移と見通し

     人口ピラミッド(図4)を見ると分かる通り,高齢者が非常に少ない点で現れている。これは先進国で見られる65歳以上の割合が低く、労働人口の割合が高いため、この先成長が見られるとGDPの底上げが期待できる。本稿におけるここまでの議論を踏まえると,インフラの欠如などは教育機会の損失につながり,最終的に国民全体の貧困となるという因果関係が導出できよう。現在,政府予算の30%以上を二国間及び多国間援助で賄っているカンボジアには,その金銭援助によって国内施設の積極的整備が必要である。すべての国民が恩恵を享受できる,先進国レベルのインフラ整備が急務である。それにより生活水準や教育状況,治安などが急激に改善され,経済発展を継続するという目的に少なからず貢献を果たす。企業への支援が必要という意見もあるが,元々カンボジアは専門的知識を持つ労働力を比較的安価に活用できるとして,欧米諸国をはじめ多数の外国に活用されている。

    Ⅳ おわりに

     ここまでカンボジアという国家の歴史的,地理的,産業的及び経済的背景を概観し,カンボジアが最貧国から脱出する手法について検討した。近年,カンボジアは目を見張るような成長を遂げてきた。カンボジアの将来には最貧国扱いをされており、約266万人が一日1.2ドル以下での生活を行っているように賃金が低く, 労働人口の割合が高いため、この先成長が見られるとGDPの底上げが期待できる。今後インフラが整備され、輸出による外貨獲得のため、主産業の農業・工業が発展することで経済発展が進むだろう。今後のカンボジアでは,国民主体の成長を考慮し,国全体の生活水準を底上げが必須となる。

    参考文献

    重田康博(2016)『カンボジアの格差・貧困問題に関する考察―「新しい貧困の罠」からの脱出は可能かー』,宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター年報,第8巻,pp20-42

    小暮克夫,髙崎善人(2014)「カンボジア大虐殺の教育への長期的影響」,経済研究,65巻,pp42-55

    山内暁彦(2014)『ジョージ=オーウェル「動物農場」の豚と馬』、徳島大学、言語文学研究、第22巻、pp19-44

    久保純子,南雲直子(2009)「メコン川下流域におけるプレアンコール期の都城の立地環境に関する地理学的研究」,地学雑誌,第118号,pp1261-1264

    志間俊弘(2006)「カンボジアの違法伐採と土地問題」,熱帯林業,No.65,pp17-24

    初鹿野直美(2012)「カンボジア:高成長の持続可能性」,国際問題,No.615,pp7-16

    秋山憲治(2016)「カンボジアの経済発展:現状と課題」,商経論叢,第51巻,第4号,pp1-12

    奥田英信(2019)「カンボジアのドル化の全体像―ドル化に一体化した金融発」、アジア研究、No65、第1巻、pp96-111

    山内久幹(2010)「カンボジアの概況と投資動向」,香港駐在員事務所

    小林知(2007)「ポルポト時代以後のカンボジアにおける地域社会の復興:トンレサープ湖東岸地域の事例,京都大学学術情報レポジトリ

    森田康夫(2002)「カンボジアの数学教育について」,東北大学理学研究科

    石黒薫(2015)「カンボジアの初等教育問題と日本の国際協力」,Journal of International Center for Regional Studies,No.12,pp1-22

    山川貴裕(2015)「カンボジア農村部の貧困実態の検証:シェムリアップ州における農村調査の結果を軸に」,熊本学園大学機関レポジトリ

    東京海上日動(2016)「カンボジアの概況とビジネスリスク」、リスクマネジメント最前線、2016年度、第7号、pp1-13

    参考資料

    World Vision「カンボジアにおける貧困の原因と私たちにできること」

    https://www.worldvision.jp/children/poverty_02.html) (最終閲覧:2022年10月18日)

    外務省「後発開発途上国」

    https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ohrlls/ldc_teigi.html) (最終閲覧:2022年10月20日)

    Vivid Maps “Population Density of Egypt”

    (https://vividmaps.com/population-density-egypt/) (最終閲覧:2022年10月20日)

    The World Bank “Country Profile-Cambodia”(https://databank.worldbank.org/views/reports/reportwidget.aspx?Report_Name=CountryProfile&Id=b450fd57&tbar=y&dd=y&inf=n&zm=n&country=KHM)

    (最終閲覧:2022年10月22日)

    PopulationPyramid.net「世界の人口ピラミッド(1950~2100年),カンボジア」

    https://www.populationpyramid.net/ja/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%82%B8%E3%82%A2/2020/) (最終閲覧:2022年10月22日)

    林野庁「合法伐採木材等に関する情報:カンボジア」

    (https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/kunibetu/khm/info.html)

    (最終閲覧:2022年10月24日)

    農林水産省 カンボジアの農林水産業概況

    2021 年度更新

    https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/attach/pdf/index-36.pdf

    (最終閲覧:2023年01月16日)

  • 【経済】トヨタ生産方式ジャスト・イン・タイム

    【経済】トヨタ生産方式ジャスト・イン・タイム

    トヨタ生産方式(ジャスト・イン・タイム方式)

    はじめに

    東アジア(日本、中国、韓国の3カ国)の産業競争力の高さは良く知られている。戦後から安い人件費、労働力、低い物価、豊富な資源を理由に外資が投入、インフラが整備され、長きに渡る経済成長が示されている。従来型の製造業では造船、鉄鋼、自動車など、またIT関連分野では半導体、LCD(液晶表示)パネル、コンピュータ、携帯電話など東アジアが競争優位を誇る産業は数多く存在する。日本ではトヨタ、日産、ホンダなどの自動車・バイクで見られる輸出製品の高付加価値化が進んだことが主な理由であり、高い輸出額割合を持つ。また、韓国では現代(ヒョンデ)、起亜(キア)があり、中国では第2位の広州トヨタ、第一汽車、広州汽車がある。

    図表1は日本の輸出額の上位10品目の変遷を年代ごとに集計したものである。50、60年は綿織物、鋼板、船舶といった重厚長大産業や繊維産業が輸出の主力を占めた。70年に入ると輸出を牽引する新たな製品が登場する。日本では自動車が76年に輸出額トップに躍り出て以降、単品としては最大の輸出産業として今日まで続いている。自動車は、60年代には国内のモータリゼーション化が急速に進展して専ら国内市場をターゲットとしていたが、70年代に入り国内需要が鈍化するにつれて輸出の重要性が高まり、70年代後半には輸出台数が国内販売台数を上回り成長を輸出に依存するようになる1)。また、2020年7月1日、新NAFTA (USMCA : United States–Mexico–Canada Agreement)が発効された。特に域内生産の割合を高める新基準であり金額ベースで62.5%の「原産地比率」を75%に引き上げる必要がある2)。そのような情勢を踏まえ、日本の産業の主軸となっている自動車産業について取り上げる。

    図表1 日本の輸出上位10品目

    東アジアでの自動車生産台数を下記『図表2 自動車生産台数推移』に示した。これによると、2000年には日本国内の自動車生産は1,014万台と東アジアにおいて圧倒的な規模を誇っていた。2013年には日本国内の自動車生産は微減の963万台となっている。中国は2000年から10.69倍の2,212万台と急激に伸びている。タイも大きく数を伸ばしており、日本よりも大きく拡大している国が多い。

    図表2 自動車生産台数推移(単位:台、%)、日本を100として比較

    世界での生産台数の生産国基準では2005年ではアメリカが1,195万台(シェア17.7%)で第1位、日本が2位で1080万台(シェア16.0%)、ドイツが576万台(シェア6.3%)となっており、中国、台湾が続いていた。しかし、先に挙げた東アジアの自動車生産台数でも述べたが、2016年では中国が急激に生産台数を伸ばしている。中国が2,819万台と世界シェア29.4%と世界第1位となっている。アメリカが第2位で1220万台(シェア12.8%)、第3位が日本で920万台(シェア9.6%)となっている。これを見ると中国は大きく台数を伸ばしているが、アメリカ・日本での生産台数が変わっていない。

     メーカー基準では2005年の第1位は日本のメーカーで2,121万台(31.8%)、第2位はアメリカのメーカー1,587万台(23.8%)、第3位はドイツのメーカー1,152万台(17.3%)となっている。2016年となると日本のメーカーは2,803万台(29.7%)、ドイツ・アメリカ・中国の3国のメーカーが約1,500万台(約15%)と横並びとなっている。ここで、日本は2005年から2016年の国内生産が減っているのにもかかわらず日本メーカー基準では世界台1位となっており、生産拠点がコストや関税、輸送の観点から中国など東アジアやアメリカなど海外へシフトしていることが考えられる。また、2016年に中国が生産台数、メーカー基準でも大きく伸ばしているが、中国国内の需要が高まっているためであると考えられる。

    自動車産業のビジネスモデルとしては有名なトヨタのかんばん方式とも呼ばれるジャスト・イン・タイム方式を挙げた。かんばん方式のメリットとしては組み立て工場で必要な部品を必要な時間に、必要な数だけ手に入るようにすることにある。これにより、部品を作りすぎず、徹底した無駄な製品在庫・運搬・保管、手待ち動作を排除することができる。また、ジャスト・イン・タイム方式のデメリットとしては大量生産に向いていないため、コストダウンが図りにくい。必要なものを必要なときに生産するため、中小企業では生産量や規模の生産性を活かしにくく、コストダウンするためには部品は購入数量を増やし効率化を図る傾向にある。購入数量が増えにくいため、価格を下げることが困難である。それから、納期のかかる部品は予備の部品が用意されていないため、不測の事態が発生した場合後ろの工程がストップする可能性が出る懸念も考えられる。

    ③自動車産業についての今後の展望

    ※主要な生産国やメーカーは、どこに移転するか/移転しないか

    ※技術や市場の変化は、産業にどのような変化をもたらすか

    自動車産業において日本のメーカーは今後日本国内の自動車需要が現在500万台程度を上限とし大きく増えない4)ことを考えると、輸送コストがかかり、関税が国家間の協定で大きく変わる自動車という製品の性質から成長が期待できる中国を中心とした東アジアの販売へシフトしていくことが考えられる。中国やタイといった東アジアの国々は市場の成長が見込まれるため、内需を確保するべく生産拠点の移転は必要がないと考えられる。ヨーロッパ、北アメリカの需要も大きい成長は期待できないため、販売台数1位のメーカーフォルクスワーゲンなども引き続き中国の需要に頼らざるを得ない。また、北アメリカの販売目的においてはUSMCAが発行されたため、関税による価格増を考えると販売域内での付加価値比率を高めなければいけないため、生産拠点がさらに北アメリカにシフトしていくことが予想される。

    今後、自動車産業では日本は先日『2050年に温暖化ガス排出量ゼロとする』といった排気ガス規制により電気自動車や燃料電池といった次世代の技術にシフトする可能性が高い。また、自動運転といった技術が進んでいくと予想される。そう考えた場合、新技術に対する特許をどの国のメーカーが多く保有するか、法規制が寛容な国の状況により生産拠点が大きく変わる可能性がある。

    【参考文献】

    1)日本国際問題研究所 日本の産業構造変化と東アジア貿易の発展 日本の輸出上位10品目大木著

    http://www2.jiia.or.jp/pdf/asia_centre/h14_economy/03_oki.pdf

    2)日本貿易振興機構 USMCAの概要と自動車分野の原産地規則 中畑著

    https://www.jetro.go.jp/ext_images/biz/seminar/orb-200701/doc1.pdf

    3)東アジアの自動車産業と日本メーカーの課題 山上著

    https://www.jstage.jst.go.jp/article/sisj/2015/30/2015_1/_pdf

    4)AUTO Motive Jobs【2018年版】世界自動車メーカー販売台数ランキング

    https://automotive.ten-navi.com/article/29623

  • 【経済】スマート工場EXPO 第3回ネプコンジャパン秋 併設 2024年9月4日-9月6日幕張メッセ

    【経済】スマート工場EXPO 第3回ネプコンジャパン秋 併設 2024年9月4日-9月6日幕張メッセ

    CADDI Drawer

    図面がすぐに見つかる、すぐ使えるをキャッチフレーズにサービスを提供している。CADDIの2022年4月の調査、製造業の設計・調達担当者145名を対象とした「図面活用の実態調査」の結果では、63%が図面データが最も重要と回答している。2位以下は顧客情報16%、3位見積金額6%となっている。また、図面の検索体験で課題を感じている割合は72.8%である。図面を探す時間、その人件費は中規模の企業で年間2.1億円、大企業で8.6億円と試算されている。そこで、資産である図面をAI独自の画像解析アルゴリズムで、形状が類似する画像を検索、探す手間、記憶・経験の差が生む属人化の解消、新図作成の要否、類似図面の共通化提案、図面検索ができ、価格の決定時間が短縮できるを売りにしている。また、図面とサプライヤー情報、価格の情報、自動発注実績などが紐付けられている。

    新機能

    CADDI Quoteではメールにて複数の会社に見積もりを取ることができ、メールを受け取った相手側はURLリンクに入り、納期回答や価格を知らせることができる機能。

    導入実績

    日本精工株式会社、株式会社SUBARU

  • 【経済】第3回ネプコンジャパン秋2024年9月4日-9月6日幕張メッセ

    【経済】第3回ネプコンジャパン秋2024年9月4日-9月6日幕張メッセ

    <head><script async src=”https://pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js?client=ca-pub-8984570867040715″
    crossorigin=”anonymous”></script></head>

    ネプコンジャパンは毎年春、秋に電子機器・半導体の最新トレンドの流行やカンファレンス、講演を開催され、電子機器・半導体の設計課題解決・生産効率化・コストダウンを実現する製品が出展される展示会である。対象は実装製造装置、はんだやはんだ装置、検査、測定、試験装置、EMS、製造受託、電子部品・材料、プリント配線版、半導体パッケージ技術、パワーデバイス・モジュール技術、微細精密加工技術など多岐にわたる。

    第3回ネプコンジャパン2024年秋-エレクトロニクス開発・実装展-には同時開催展を含む約810製品が出展され、半導体の国家戦略、パワーデバイス、生成AIの最新技術などの最新トレンドがわかるカンファレンス、全60講演が開催された。また、大学・国公立研究所・材料メーカーが開発した次世代材料の効果・機能について発表された。パワーデバイス&モジュールEXPO[秋]も同時開催され、パワーデバイス向けの部品・材料・製造装置、パワーデバイス・モジュールが同会場にて出展された。自動車、ロボット、カーボンニュートラルに関する展示会オートモーティブワールドではクルマの電動化・電子化、自動運転、軽量化など自動車業界における先端技術が一堂に出展された。Factory Innovation Week[秋]2024では自動化・DX・脱炭素など製造のロボットやIoTが出展された。

    Nepcon Japan holds conferences and lectures on the latest trends in electronic devices and semiconductors every spring and fall, and exhibits products that solve design problems, improve production efficiency, and reduce costs in electronic devices and semiconductors. Our services span a wide range of areas, including mounting manufacturing equipment, soldering and soldering equipment, inspection, measurement, and testing equipment, EMS, contract manufacturing, electronic components and materials, printed circuit boards, semiconductor packaging technology, power device and module technology, and micro-precision processing technology.
    Approximately 810 products will be exhibited at the 3rd Nepcon Japan Autumn 2024 – Electronics Development and Implementation Exhibition – including those at concurrent exhibitions. It will be a conference where you can learn about the latest trends in national semiconductor strategies, power devices, the latest technology in generative AI, etc. A total of 60 lectures were held. In addition, the effects and functions of next-generation materials developed by universities, national and public research institutes, and material manufacturers were presented. Power Device & Module EXPO [Autumn] was also held at the same time, and parts, materials, manufacturing equipment, and power devices and modules for power devices were exhibited at the same venue. Automotive World, an exhibition on cars, robots, and carbon neutrality, showcased cutting-edge technologies in the automobile industry such as car electrification/electronization, self-driving, and weight reduction. At Factory Innovation Week [Autumn] 2024, robots and IoT for manufacturing such as automation, DX, and decarbonization were exhibited.

    主な製品と出展社

    ■高周波基板

     MEGTRON6(R-5775K)材の標準在庫化を始めとした低誘電率材の短納期対応(出展企業:松和産業)

    ■MCM(マルチチップモジュール)試作・量産

    MCMを中心としたカスタムICの試作・量産、チップレット、モジュールPKG化(出展企業:デンケン)

    ■ASPINA外観検査用ロボット

    ASPINAの外観検査用ロボットは部品や製品の外観検査を自動で行うためのロボット(出展企業:シナノケンシ)

    ■コンフォーカル顕微鏡自動検査/レビュー装置   OPTELICS AI2 3次元形状測定までシームレスに1台で実現(出展企業:レーザーテック)

    ■産業用加湿ソリューション

    電気ボイラーによる蒸気加湿と比べて消費エネルギーを約80%削減可能、ミストの気化冷却による空調負荷の軽減も期待(出展企業:パナソニック)

    以下会場Map

    クリックしてnepconjapan-autumn-map.pdfにアクセス

  • 【経済】IT導入補助金

    【経済】IT導入補助金

    2024より引き続き中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革、被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイスの導入等)等に対応するため、中小企業・小規模事業者等が生産性向上に資するITツール(ソフトウェア、サービス等)を導入するための事業費等の経費の一部を補助することにより、中小企業・小規模事業者等の生産性向上を実現することを目的とするとされている。(スキームは下図のとおり)

  • 【経済】ブルシット・ジョブ

    【経済】ブルシット・ジョブ

    「ブルシット・ジョブ」(Bullshit Jobs)は、デビッド・グレーバー(David Graeber)による本で、彼は現代社会における多くの仕事が「無意味で、不必要で、社会的に無価値な仕事」であると主張している。彼はこれらの仕事を「ブルシット・ジョブ」と呼び、これらの職種が個人の幸福感や社会全体に悪影響を及ぼしていると論じている。

    グレーバーは、ブルシット・ジョブをいくつかのカテゴリーに分類している。例えば、「ダクトテープ職」(問題の一時的な修正を行う職種)、「箱詰め職」(実際にはほとんど何もしない職種)、「タスクマスター職」(他人に無駄な仕事をさせる職種)などである。

    彼の主張は、これらの仕事が資本主義経済の中で生まれたものであり、経済の構造や社会的期待がこれらの職種を維持させていると考えている。結果として、これらの仕事に従事する人々は自己嫌悪や不満を感じることが多く、社会全体の生産性や幸福感にも悪影響を与えているとしている。

    「ブルシット・ジョブ」は、現代の働き方や経済システムに対する批判的な視点を提供しており、仕事の本質や意味について深く考えさせられる内容です。世の中には「ブルシット・ジョブ」が溢れている。歪であるはずが存在しているため、実際には個人の利権や既得権、組織の様相、様々な要因により必要となっている。