投稿者: uradaidai

  • 金融リスク管理の観点によるデリバティブ取引

    金融リスク管理の観点によるデリバティブ取引

    1. はじめに

     金融商品には株式、債券、預貯金・ローン、外国為替などがある。金融商品には次のようなリスクがある。価格変動リスク、信用リスク、金利変動リスク、為替リスク、カントリーリスクなどがある。これら金融商品のリスクを低下、またはリスクを覚悟して高い収益性を追及する手法として考案されたのがデリバティブである。デリバティブはそれぞれの元となっている金融商品と強い関係があるため、デリバティブ(derivative)という言葉は、日本語では一般に金融派生商品と訳される。金融商品のリスクに対応できる体制を取り備えるリスクヘッジ商品として生まれている。金融リスクを管理する観点からデリバティブ取引について下記のように述べる。

    1. デリバティブ取引とは

    リスク管理や収益追及を考えたデリバティブ取引にはその元となる金融商品について、「先物取引」と呼ぶ将来売買を行なうことを事前に約束する取引、「オプション取引」と呼ぶ将来売買する権利をあらかじめ売買する取引などがあり、さらにこれらを組み合わせた多種多様な取引がある。世界の金融取引において、デリバティブの歴史は意外と古く17世紀のオランダのチューリップ市場などが「オプション取引」の原型であり、18世紀の大阪堂島の米市場などが「先物取引」の原型であると言われている。また、「スワップ取引」を中心とする近代デリバティブについては、1981年の世界銀行とIBMとで行われた通貨スワップから大きく発展した[1]。対象となる商品によって、債券の価格と関係がある「債券デリバティブ」、金利の水準と関係がある「金利デリバティブ」など、オーソドックスな「金融デリバティブ」、不動産を対象とする「不動産デリバティブ」がある。また最近では、CO2排出量を対象とする「排出権デリバティブ」、気温や降雨量に関連付けた「天候デリバティブ」のような新しいデリバティブも開発されている。

    1. デリバティブのメリット・デメリット

     デリバティブのメリットとして1997年米国エンロン社にて開発された天候デリバティブを挙げる。例えば、夏に冷夏のため気温が上がらずに見込まれていた販売数のビールが売れない。そのようなときに天候デリバティブにより冷夏であれば補償金が支払われ、逆に猛暑であれば購入オプション料を払うようなリスク変動を抑える仕組みがある。また、冬暖かいと暖房器具の売れ行きが悪くなる企業の場合や降雪量が多い場合、除雪・融雪関連の商品・サービスなどが活発になる事例などが天候デリバティブ対象として考えられる。このように様々なデリバティブの対象があり、デリバティブの種類として先物取引やオプション取引などに代表されるデリバティブ取引は、多様に考案・形成され、リスクヘッジや効率的資産運用等の手段として幅広く活用されている[2]

     また、デメリットとしては2007年からの世界的な金融危機とそれに伴うリーマン・ショックがあった。これは店頭デリバティブ取引の危険性を顕在化させた。2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻などにより、金融機関同士で取引される店頭デリバティブ取引におけるリスクが顕在化した。そこでは店頭デリバティブの不透明性が大きな問題となった。店頭デリバティブは相対取引であることから当局もその全体像が把握できず、世界中で信用不安が加速した。特にやり玉として挙がったのがクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で、大量のCDSを保有していたAIGが経営危機に陥ると、AIG破綻による信用不安の一層の激化を防ぐために、アメリカ合衆国の中央銀行制度である連邦準備制度FRBはAIGの救済を行った。このようにして監視されない店頭デリバティブ取引の拡大がもたらすシステミック・リスクの増大効果が世界で広く認識されるようになった。

     2つめの例としてベアリングス銀行事件がある。1762年に初代準男爵サー・フランシス・ベアリング(1740-1810)によってロンドン・シティにおいて最古のマーチャント・バンクとして創設された。ベアリングス銀行は大英帝国拡張の時流に乗って貿易商人たちの手形の引受で業績を伸ばしていき、1793年にはロンドン最有力の引受業者に成長した。しかし、1995年シンガポール支店に勤務していたニック・リーソン(1967-)のデリバティブ取引の失敗で致命的打撃をこうむり、ベアリングス銀行は同年2月26日に破産。233年の歴史に幕を閉じた。 当時リーソンは、シンガポール国際金融取引所SIMEXおよび大阪証券取引所に上場される日経225先物取引を行っていたが、同年1月17日に阪神・淡路大震災が起き、日経株価指数が急落し損失が拡大した。損失を秘密口座に隠蔽すると同時に、先物オプションを買い支えるための更なる膨大なポジションを取った。最終的な損失は、ベアリングス銀行の自己資本(750億円)を遥かに超過する約8.6億ポンド(約1,380億円)に達した。

    1. 債権

     債権には国債や地方債、社債または事業債といったものが代表的だが、満期まで保有すれば発行体が破綻等していなければ元本が満額戻ってくるため、安全性は比較的高い場合が多い。この発行体リスクの大小によって利回りの高低が左右される。発行体リスクが大きいものは安全性が低いが、収益性が高い。また逆に発行体リスクが小さく、安全性が高いが、収益性が低いという関係性となる。また、金利変動リスクがあり、途中売却時、市場の金利が高ければ債券価格が下落しており、元本割れとなる可能性がある。株式のように証券取引所を通して不特定多数の市場参加者による売買がされているわけではなく、相対取引となる場合が多いため、相対的に流動性(換金性)はやや低めと言える。さらに預金と同様にインフレリスクを抱える。

    1. 外貨

     国内金融では考える必要はないが、国際金融となる場合外国為替取引を伴う。例えば、日本企業とアメリカの企業が国境を超え取引する場合、それぞれの企業は自国の通貨と他国の通貨を交換する必要がある。このような通貨の交換が外国為替取引である。国際金融では中央銀行がないため、国内金融のように監視し、必要に応じてコントロールする中央銀行がない。取引の際に資本が枯渇しても、世界全体をコントロールするような中央銀行がないので、それぞれの国や地域で対応しなければならない。

     外国為替証拠金取引(FX)におけるリスクヘッジ商品として限月を設定した取引。FXは「”将来”円高になるだろうから円買い」などの思惑・予測から売買されることが多いこともあって、先物取引であるとの誤解がしばしば見られるが、外国為替証拠金取引そのものは「直物為替先渡し取引」に相当する先渡し契約(forward)であり先物取引ではない。また、外貨取引に関して、1998年4月に、外国為替及び外国貿易法(新改正外為法)が施行された。海外の子会社を含めたグループ企業同士の「ネッティング取引」また、コストを外国為替取引やデリバティブ取引では企業間などで取引を行う場合、取引のたびに決済を行うのではなく、ある一定の期日に債券と債務をまとめて相殺し、差額分だけを決済することができる。取引のたびに決済を行うと為替手数料などが発生するが、ネッティングを行うことでコストを削減できる。 2者間での相殺をバイラテラル・ネッティング、3者以上に渡る相殺をマルチラテラル・ネッティングという[3]

    1. 証券

     証券は一般的に、株券、社債券、国債券、手形、小切手、船荷証券などの有価証券をいう。証券取引や証券市場でいう証券は、証券取引法によって、有価証券のうち株券、社債券、国債券など一定のものに限定されている。証券は有価証券のほかに、借用証書、契約書などの証拠証券(証書、証文)、さらに携帯品預り証、下足札、キャッシュカードなどの免責証券も含まれる。このほか、金券も広義の証券に含めることがある。なお、プラスチック製のカードに電磁的方法で権利内容が記録されたものは法律上、証票とよばれることもあるが、有価証券、免責証券など証券の一種であることが多い[4]

    1. まとめ

     本レポートでは金融リスク管理の観点から見たデリバティブ取引について述べた。デリバティブの元となる金融商品を守るために金融商品のリスクを低下させる、または元となる金融商品より高い収益性を追及する手法として考案されたのがデリバティブである。デリバティブに関する債権、外貨、証券のその用語説明、デリバティブのメリット・デメリットについて過去の事例として2007年のリーマン・ショック、1995年のベアリングス銀行事件を挙げた。メリットとして、近年のCO2排出権、気温や降雨量に関連付けた天候までもがデリバティブとして存在している。これの天候デリバティブは、様々な要因から生じる保険のような役割であると感じた。デリバティブの歴史は意外と古くから存在し17世紀のオランダのチューリップ市場、18世紀の大阪堂島の米市場が先物取引の原型であると知った。今後、様々なデリバティブ取引が開発されることを期待し、本レポートを締める。

    参考文献

    [1] 金融情報サイト https://www.ifinance.ne.jp/glossary/derivatives/

    [2] 知るポルト 金融広報中央委員会 https://www.shiruporuto.jp/public/data/encyclopedia/deriv/deriv101.html

    [3] コトバンクhttps://kotobank.jp/word/ネッティング-178926

    [4] 株式会社平凡社 世界大百科事典 第2版について

  • 情報化社会で生じる課題

    情報化社会で生じる課題

    はじめに

    近年、凄まじい勢いで高度情報化が進んでいる。インターネットの普及により電子メールやSNSなどが普及し、どこにいても人に連絡でき世界が非常に近くなっていると感じる。1990年代のインターネットや携帯電話の普及、情報技術の高度化に伴い、情報化社会という言葉が生まれた。インターネットは前身であるARPANET(アーパネット、Advanced Research Projects Agency NET work、高等研究計画局ネットワーク)は、世界で初めて運用されたパケット通信コンピュータネットワークであり、これがインターネットの起源である。1977年のことである。そこからxDSLや光ファイバ通信へと技術が進歩し、一般家庭においても短時間での大容量情報通信が可能となっている。今や半導体や通信技術の向上により、手のひらサイズのスマートフォン一つで高画質の動画を見ることができ、今やライブ配信まで可能になっていることが身近な例として挙げられる。将来、さらに細部までネットワークは普及し、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)について議論がされ、普及が進んでいる1)。IoTは家電がインターネットに繋がる例として、防犯のためスマートフォンで外にいながらカメラを通じて家の様子を確認できたり、家に着く前にエアコンの電源を入れ、事前に部屋を温めておいたりといったことが可能となる。更には外からお風呂のお湯を沸かしたり、冷蔵庫に入っているものが分かり、レシピまで提案したりする製品まである。インターネットが身近になり、時間や費用を大幅に削減できる非常に便利なモノであることは間違いないが、一方、すべてがオンラインで繋がっているからこそ個人情報流出などセキュリティ面でのデメリットもある。以下のように本レポートでは情報化社会になることにより生じる課題と解決策について述べる。

    1. 情報化社会が進むことによるメリット・デメリット

     情報化社会が進むと生活を営む人々には多くのメリットがある。パソコンから検索エンジンに知りたいキーワードを入力すればインターネットにより欲しい情報がその場ですぐに手に入る。わざわざその場所に行かなくても用事が済むようになっている。例えば、銀行窓口やATMに行かなくても離れた場所から残高確認や振り込みなどオンライン決済が可能である。ATMまでの移動にかかる費用や時間、銀行店舗にかかる人件費も節約が可能となる。また、ビッグデータの活用が可能である。ビッグデータとはデジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低コスト化によるIoTの進展により、スマートフォン等を通じた位置情報や行動履歴、インターネットやテレビでの視聴・消費行動等に関する情報、また小型化したセンサー等から得られる膨大なデータである2)。スマホをはじめとするデバイスの進歩で、あらゆる情報が瞬時に蓄積され、コンピュータの進化で、その大量の情報(ビッグデータ)を瞬時に処理することができ、ネットワークの進化でグローバルに、企業・個人の壁を越え、国境も越えて、瞬時に情報が飛び交う時代になった。今後はさらにコンピュータの処理能力は上がり、記憶媒体の大容量化と低価格化は止まらず、スマホのさらなる高度化とSNSの進化であらゆる情報はさらに蓄積される。企業の情報システムは、自社所有化からクラウド利用にシフトしていく過程で、ビジネスにおける情報利用のレベルも急激に広がり進化していくと思われる。情報があつまり、消費者に価値を生まない無駄は徹底的に排除される。この流れはさらに加速し、今後はこの大量の情報(ビッグデータ)を、会社経営に有効活用するために情報システムをはじめとしAIやロボット化にどんどん波及して、企業の優劣や業績への影響もますます大きくなると予想できる。一方、オンラインで繋がっているからこそコンピュータウイルスやフィッシングによる氏名、住所、電話番号、クレジットカード番号などの個人情報流出はセキュリティ面やプライバシーの侵害の可能性が出てくる。これは、むやみに個人情報を端末に入力せず、必要最低限とし自分を守る必要がある。また、コンピュータウイルスや停電によりサーバがダウンすると便利な媒体は全く使用できない状態となる可能性が考えられる。ウイルスはネットワークが感染しないように監視・ブロックを行い、感染してしまった場合、感染が広がらないように直ちにネットワークを遮断し、感染経路を断つ措置を講じる。停電した場合に備え、太陽光発電や予備バッテリーによる電源の確保をしておくなどの対策が必要となると考えられる。

    3. 情報化社会における有害情報

     情報化社会が進むと人が情報を容易に手に入れられるようになる。そのため、フィルタリングをかけなければ成人だけではなく、判断が未熟である未成年にも有害情報や違法な情報が届いてしまう恐れがある。有害情報とは児童ポルノ・わいせつ物、麻薬売買の広告、公序良俗に反する情報、死体画像などの人の尊厳を害する情報、自殺を誘引する書き込み、アダルト、出会い系サイト、暴力的な表現などがある。

    近年、未成年者の誘拐事件のニュースを目にすることが多い。スマートフォンからSNSを利用し、悩み事を持つ未成年者の相談にのり、良き理解者を演じ誘う。背景としてスマートフォンの個人保有率は多くの世代で増加傾向にある。SNSを良く利用し、情報リテラシーに疎いと考えられる13歳から19歳の未成年においても2017年で79.5%が所有しているという結果が報告されている2)。

    図1 スマートフォンの個人保有率の推移 2)

    4. 個人情報保護法

     個人情報保護法は正式には個人情報の保護に関する法律と言い、個人情報の取扱いに関連する日本の法律である。コンピュータの進歩やネットワークを用いた情報通信網の発達に伴って、大量で多様な個人情報を蓄積し利用できるようになったが、管理する側には情報流出を防ぐ必要がある。個人のプライバシーが侵害されるおそれがあるため、個人情報が適正に扱われることを目的として法が制定、施行された。2003年(平成15年)5月23日に成立し、2005年(平成17年)4月1日に全面施行した。 個人情報保護法および同施行令によって、取扱件数に関係なく個人情報を個人情報データベース等として所持し事業に用いている事業者は個人情報取扱事業者とされる。個人情報取扱事業者が主務大臣への報告や、それに伴う改善措置に従わない等の適切な対処を行わなかった場合は、事業者に対して刑事罰が科される。後に個人情報には個人識別符号の定義が設けられた。身体の一部の特徴を電子計算機のために変換した符号。DNA、顔、虹彩、声紋、歩行の態様、手指の静脈、指紋、掌紋などがある。サービス利用や書類において対象者ごとに割り振られるものとしてはパスポート番号、基礎年金番号、免許証番号、住民票コード、マイナンバー、各種保険証等がある3)。

    5. まとめと私見

     情報化社会が進むと生活する人の利便性が増すが、そこに様々な問題が生じている。インターネットが生まれ情報化社会が進むと人が情報を容易に手に入るようになる。そのため、制限をかけなければ成人だけではなく、判断が未熟である未成年にも有害情報や違法な情報が届いてしまう恐れがあり、スマートフォン一つで気軽に行えるSNSなどでは情報リテラシーに乏しく、犯罪に巻き込まれる恐れさえある。だから、保護者は未成年に情報をそのまま与えるのではなく、ある種のフィルターをかけて与えるべきである。また、ビッグデータやAIは個人がネットサーフィンを行い、オンラインショップなどでモノを購入した情報などを集めた膨大なデータから得ている。気をつけなければ、個人のあらゆる情報が筒抜けとなりプライバシー侵害となる可能性がある。そのため、個人情報を守るために個人情報保護法が制定されている。個人情報保護法はコンピュータの進歩やネットワークを用いた情報通信網の発達に伴って、大量で多様な個人情報を蓄積し利用できるようになり、管理する側に情報流出を防ぐ責任を持たせる役割を持つ。また、リスクとしてはコンピュータウイルスや停電によりサーバがダウンすると便利な媒体は全く使用できない状態となる可能性が上げられ、備えとして太陽光発電や予備バッテリー等による十分な電源の確保をしておくなどの対策が必要となると考えられる。世の中を便利にするためにIoTや情報化が進み、情報と上手く共存するより良い世の中になっていくことを望む。

    参考文献

    1) 2時間でわかる 図解「IoT」ビジネス入門 小泉耕司

    2) 総務省 平成30年版 情報通信白書

    http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd142110.html

    3) 個人情報保護委員会事務局

    https://www.ppc.go.jp/files/pdf/28_setsumeikai_siryou.pdf

  • 日本人消滅の危機とは?1億人割れも…

    日本人消滅の危機とは?1億人割れも…

    はじめに

     令和2年(西暦2020年)における合計特殊出生率の全国平均は1.34である。県別にみると最も高いのは沖縄県の1.86、最も低い東京1.13に次いで低いのが北海道で1.21、全国平均1.34となるのは栃木県である。そして、日本全国の2045年までの推計を含めた人口の推移を見ると平成27年(西暦2015年)の1億2700万人をピークに減少しており、令和27年(西暦2045年)では1億600万人まで減少すると見られている。合計特殊出生率を日本の中でも県別に見てみる。なぜ、このように差が出てくるのか。また、人口減少が地方経済にどのような影響を及ぼすのか。以下、3県、北海道・栃木県・沖縄県について取り上げた。人口変動の要因や経済成長との関係を検討して、将来の成長に関する政策課題の説明や必要な政策の提言について考察する。

    合計特殊出生率について

     令和2年(2020)における合計特殊出生率の全国平均は1.34である。ここで言う「期間」合計特殊出生率は1年間の出生状況に着目したもので、その年における15~49歳の女性の出生率を合計したものである[1]。県別にみると最も高いのは沖縄県で1.86、最も低い東京1.13に次ぐ北海道は1.21、全国平均1.34と一致している栃木県である。県別に見ると合計特殊出生率に差が出ている[2]

    過去の人口と2045年までの将来推計人口予測推移について

     平成22年(西暦2010年)から令和27年(西暦2045年)までの日本の人口推移を下記『表 全国総人口および県別総人口』には、選択した3つの県および全人口と東京都の人口を示した。始めに全国の人口推移を見てみると平成27年(西暦2015年)の1億2700万人をピークに減少しており、令和27年(西暦2045年)では1億600万人まで減少すると見られている[4]。この全国の人口減のように今回取り上げた3県の内、北海道・栃木県の2県では人口が減少している。

    表 全国総人口および県別総人口[3][4]

    平成22年度は参考文献[2]、それ以降は[3]を参照。点線の令和7年以降は予測値

     北海道の人口は2021年6月1日公表の令和2年(西暦2020年)国勢調査速報によると2015年の調査よりも2.8%減となっている。これは自然減に加え、道外への転出が進んだ結果と言える。また、札幌市では1.2%増の197万5065人であるが、その他の地方の函館市25万1271人と1万4708人減(5.5%減)、小樽市の1万502人減(8.4%減)、旭川市の1万92人減(3.0%減)となっている。進学や就職のため都市部の札幌市への一極集中型が進んでいる[5]

     栃木県の人口については令和2年(西暦2020年)で193万人、前回平成27年(西暦2015年)では197.4万人と4.4万人が減少している。出生児数の減少に比べ死亡者が上回ることに加え、首都圏1都3県への転出が増えたことによる。予測では令和7年(西暦2025年)には187.3万人と減少し、令和27年(西暦2045年)で156.1万人まで減少すると見られている。自然減と首都圏への転出が進むことが予想されている。下記に総務省統計局の『国勢調査 都道府県・市区町村別特性図 昼夜間人口比率』を示した[6]。この都道府県別の昼夜人口比を見ても東京に人が集中し、首都圏の栃木県を含めた東京以外の首都圏の千葉県、埼玉県、神奈川県、茨城県は減少が起こっている。これは労働のために人が転出されていることが言え、東京に近い場所へ転居・転出が進むと言える。

    図 国勢調査 都道府県・市区町村別特性図 昼夜間人口比率[12]より

     一方、東京都と沖縄県はほぼ横ばいである。東京都は平成 27(2015)年国勢調査による人口を基準に、2060 年までの東京の人口を推計すると今後もしばらく増加を続け、2025 年の1,398 万人をピークに減少に転じるものと見込まれている。このような背景として区部を中心とした社会増と、それに伴う出生率の上昇による出生数の減少緩和がしばらく続くと見込まれる。一方で高齢化が進行する中、いわゆる団塊の世代が全て75 歳以上の後期高齢者となる 2025 年以降に自然減の影響が相対的に強まることが想定される。その結果、2025 年が東京の人口の転換点になると見込まれる[7]

     沖縄県は2021年7月1日現在の国勢調査確報に基づく推計人口に公表した国勢調査結果によると145.9万人である。2015年の調査人口143.4万人と比較すると25,648人で1.8%増えている。これは都道府県の中で最も高い。この人口増加の要因としては沖縄県の高い合計特殊出生率が挙げられる。「平成25年~29年人口動態保健所・市町村別統計」(厚生労働省)によると、沖縄県の2013年~2017年における赤ちゃんの出生数は、年平均で16,672人。人口千人当たりでは11.7人(全国平均7.9人)となり、47都道府県中1番目である。同期間の1人の女性が生涯に産む平均子供数を推計した合計特殊出生率では1.93で1番目である。2020年でも合計特殊出生率は1.86人で全国1位となっている。この要因として他の都道府県と比較し、親族や近所付き合いが多いこと、男系の子孫を重んじ、男児が生まれるまで出産を制限せず子の人数が増える傾向にあることが挙げられる。

     また、沖縄県は長寿の県としても知られている。2017年12月13日に厚生労働省が公表した「平成27年都道府県別生命表 都道府県別にみた平均寿命の推移」によれば、2015年の沖縄県の0歳児の平均余命としての平均寿命は、全国平均より高い。男性が全国平均よりも0.50歳短い80.27歳、女性は全国平均より0.43歳長い87.44歳となっている[8]

    表 沖縄県の人口の推移

    [9]厚生労働省「平成27年都道府県別生命表 都道府県別にみた平均寿命の推移」2017年参照

    人口減少と地方創生

     これまでの3県北海道・栃木・沖縄県の人口について結果を以下にまとめる。北海道の人口は2021年国勢調査速報によると2015年の調査よりも2.8%減となっている。要因として札幌市では1.2%増の197万5065人であるが、進学や就職のため都市部の札幌市への一極集中型が進んだ結果と考えられる。栃木県の例については令和2年で人口193万人、前回平成27年(西暦2015年)では197.4万人と4.4万人が減少している。沖縄県の人口は2021年の国勢調査結果によると145.9万人である。2015年は143.4万人と25,648人割合で1.8%増えている。要因として合計特殊出生率が1.86人と都道府県別で1位となっており、他の都道府県と比較し、特殊な例だと言えるが男児出産まで制限がなく、子の人数が増える傾向にあるという。

     一方、都市部では東京の例のように合計特殊出生率は1.13であり、埼玉・千葉・神奈川の首都圏は1.2台である。大阪は1.3で京都・兵庫・奈良も低い。都市部へ集中すると子供を育てる環境が悪くなる傾向があり、合計特殊出生率は下がる傾向にある。これまで述べたように地方で十分な生活ができる状況にないことも原因であると言える。人口減少が起こると労働を主に行う生産年齢人口が減り、総生産・所得も減少が起こる。下記に内閣府の子供子育て本部による日本の人口構造を示した[9]。これによると現在3.47人に1人が65歳以上の高齢者で2045年では人口減少が進み、2.7人に1人が高齢者となる。

    内閣府 子供子育て本部

    https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taikou_4th/k_1/pdf/ref1.pdf[9]

     これらを防ぐためには、①出生児数の減少を防ぎ、子育てのために必要な所得を上げ、②働いている間に安心して子供を預けられるような保育園・幼稚園や学童など子育てがしやすい、働きやすい環境を整え、③首都圏への転出防止のため県内での雇用を創出することなどが必要であると考えられる。

     政府は人口減・少子化対策のために2021年10月より幼稚園、保育所、認定こども園等を利用する3歳から5歳までの子供たちおよび住民税非課税世帯の0歳から2歳児クラスまでの子供たちの利用料を無償化とすることを決定している[10]

     また、政府は県別の経済指標を示し、県経済の実態を明らかにするために県民経済計算を報告している。県内、あるいは県民の経済の循環と構造を生産、分配、支出等各方面にわたり、計量把握することにより県の行財政・経済政策に資することを目的としている。それによると北海道は274.2万円、栃木県は347.9万円、全国1位の東京都は541.4万円である[11]。沖縄県は県民経済計算により234.9万円である[12]。収入が少なくなるほど子を育てる家庭を築く機会が少ないため、子を育てる余裕はなくなり、仕事があり、収入が期待できる県内都市部や他県への転出超過が進むと予想される。地方でも安定して人が住み続け、子育てができる環境づくりが人口減・少子化対策に必要と考えられる。最近の新型コロナウィルスの影響でも景気不安が見られ、人が集まる飲食店やライブ・コンサートを筆頭に地域社会への影響も広がる可能性がある。そこで、近年、政府は地域活性化の例として令和3年6月、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の内閣府地方創生推進事務局より新型コロナウィルス感染症による意識・行動変容とひと・しごとの流れの創出や各地域の特色を踏まえた自主的・主体的な取組の促進について提言もされている[13]。今後、様々な提案・提言が現れ、より地方を活性化させ、都市部に頼らない地方での生活を創出し、結果的に近隣住民が支え子供を育てやすい地域環境を生むことが重要と考えられる。

    【参考文献】

    [1] 厚生労働省 期間合計特殊出生率とコーホート合計特殊出生率

    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/sankou01.html (2021.08.06)

    [2] 厚生労働省 直近の合計特殊出生率「人口動態統計月報年計(概数)」令和2(2020)

    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/ index.html (2021.08.06)

    [3] 人口動態統計月報年計(概数)の概況 平成22

    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei10/index.html (2021.08.06)

    [4] 社会保障・人口問題研究所 「地域別将来推計人口」平成30(2018)年推計

    http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/t-page.asp (2021.08.06)

    [5] 日本経済新聞社 北海道の人口2.2%減の538万人 札幌の一極集中進む

    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC015NH0R00C21A6000000/ (2021.08.06)

    [6] 総務省統計局 国勢調査 都道府県・市区町村別特性図 昼夜間人口比率

    https://www.stat.go.jp/data/chiri/map/c_koku/tyuhiri/index.html (2021.08.06)

    [7] 東京都政策企画局 2060 年までの東京の⼈⼝

    https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/actionplan-for-2020/plan/pdf/honbun4_1.pdf (2021.08.06)

    [8] 厚生労働省「平成27年都道府県別生命表 都道府県別にみた平均寿命の推移」

    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/tdfk15/dl/tdfk15-03.pdf  (2021.08.06)

    [9] 内閣府 子供子育て本部

    https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taikou_4th/k_1/pdf/ref1.pdf (2021.08.06)

    [10] 内閣府 幼児教育・保育の無償化について

    https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/musyouka/index.html (2021.08.06)

    [11] 内閣府 経済社会総合研究所県民経済計算

    https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/sonota/kenmin/contents/mokuteki.html (2021.08.06)

    [12] 沖縄県 県民経済計算

    https://www.pref.okinawa.jp/toukeika/accounts/accounts_index.html (2021.08.06)

    [13] まち・ひと・しごと創生基本方針2021について

    令和3年6 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 内閣府地方創生推進事務局

    https://www.chisou.go.jp/sousei/info/pdf/r03-6-18-kihonhousin2021gaiyou.pdf (2021.08.06)

  • 東日本大震災の今

    東日本大震災の今

    はじめに

    2011年3月、日本に岩手県沖から茨城県沖までの本州太平洋側広域に発生したマグニチュードMw9.0、最大震度7の巨大地震や津波による重大な災害をもたらした東日本大震災が起こった。死者と行方不明者の合計は2万5,949人。また、津波により冠水した面積は宮城県、福島県など6県で561km2(山手線の内側面積の約9倍)におよぶ。多くの尊い命とともに家屋や産業に大きな傷跡を残した東日本大震災の被害規模は、16兆~25兆円にのぼると政府は試算している[1]

    地震と津波によって福島第一原子力発電所が外部電源、自家発電ともに消失、停電し、核燃料に冷却水を供給できなくなった。その結果、原子力発電に使用されていた核燃料が炉心溶融(メルトダウン)を起こした。それによって、大量に発生した水素が爆発して建屋は大破し、放射性物質が空気中に放出された。特に福島第一原子力発電所が位置する福島県双葉町、大熊町、浪江町など周辺町民は8年たった今でも避難を強いられている。2019年(平成31年)3月11日現在、避難者は全国47都道府県1001の市区町村にわたり、いまだ約5万1千人存在する[2]。その震災における避難者を助けるために震災の発生直後「大学東日本大震災復興支援法務プロジェクト」が立ち上がり、被災地に対する法的支援がなされているという。そして、震災の1年後である2012年3月から現在に至るまで東京電力福島第一原子力発電所の至近距離にある福島県浪江町に対して法的支援を継続している。その法的支援とは予防原則の研究を通じ、原発事故によって生じた放射能汚染災害への行政の対応のあり方、原発再稼動に関しての問題などの検討支援とされている。被災者の生活再建を支える基本的な法律として、被災者生活再建支援法がある。しかし、支給金額が生活の再建には十分とはいえず、生業を継続できなくなった者が存在する。また、非居住の住宅所有者などは支援の対象とはならず、家族が分散して避難生活を送っている場合などでは支援金が行き渡らないことがあるという問題点もある[3]

    他に原発事故によって生じた種々の損害賠償問題の支援。法律相談支援NPOなどとの連携を通じた被災地が抱えている法律問題の調査支援などを行っているという。以下、東日本大震災後に行われた法による支援の例を挙げ、復興がより進むための方法を考察する。

    地域の復興とは何を指すか

    震災後の地域の復興としては地元の人間特に労働人口に含まれる若者の定着、地方への新たな人の流れの創出、地域産業の振興の3点が必須であると考える。まず、地元の人がそこへ帰還・定着し、生活をし、労働により税収がなければ、市や町のサービスもままならない。そして、観光客や働きに来る新たな人の流れがなければ地域が潤わない。原発事故によって1度止まってしまった人の動きに手を差し伸べ被災地支援を行い、地域復興を促進する必要があると言える。地域の特色ともいえる産業がなければ経済が回らず人も定着しない。人が定着し、経済を回すことがその地域発展に重要である。そのため、震災後の地域の復興とは人が戻り、これまでの生活を取り戻すことにあると考える。

    原発被災地復興のための政策はどうあるべきか

    原発事故によって生じた放射能汚染災害への被災地支援を行わなければ、地域復興はやってこない。支援のために、例えば、被災者の生活再建を支える基本的な法律として被災者生活再建支援法がある。しかし、同法に基づく生活再建支援制度は住宅被害を基礎に世帯ごとに最大300万円の金銭給付を行う制度となっている。支給金額が生活の再建には十分とはいえず、生業を継続できなくなった者が存在する。また、非居住の住宅所有者などは支援の対象とはならず、家族が分散して避難生活を送っている場合などでは支援金が行き渡らないことがあるという問題点もある[3]。そのため、この法律だけでは被災地復興支援としては十分とは言えない。

    福島第一原発事故によって、いまだ約5万1千人に及ぶ住民が避難を余儀なくされている。また、放射性物質に対する不安や風評被害も解消されず、精神的にも経済的にも多大な苦しみを負い続けている。長期にわたる避難生活や生業に回復できる見通しを得られないことから新たな問題も生まれ、将来の展望を抱けていない住民も少なくなく、自ら命を落とす者の数はなお減少を見ていないという。

    東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針が避難指示区域からの避難を慰謝料算定の基礎としているところ、当該中間指針の画一的・形式的運用によって住民間に分断や軋轢が生じた。さらに、除染が完了したとはいえない中避難指示の解除がなされ、避難指示の解除時期にかかわらず賠償期限を2018年3月とする方針が打ち出されたところである。こうした中で、既に帰還した者、今後、帰還しようとしている者、そして帰還を選択しない者も、様々な生活の困難や不安を抱えている。

    そのような状況の中で日本におけるエネルギー政策・原発に対する法規制は大きく見直される。平成29年4月14日に公布された原子力利用における安全対策の強化のための核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律等の一部を改正する法律第3条では、主に以下の事項に関する規定を整備し、公布の日より3年を超えない範囲内において政令で定める日に施行することとされている。

    また、東京電力福島第一原子力発電所における規制は以下のように他の原子力発電所とは別枠にて見直しされる方向であるとの案が示されている。福島第一原子力発電所では施設全体のリスク低減に必要な措置が求められる。発電所全体に対し実施計画を中心とした一体的な規制を実施する。施設の内包するリスク及び使用期間に応じて重点的に規制。リスクを早期に除去するための設備には、画一的な規制要件は適用せず、合理的・効率的な規制を実施する。通常の原子力施設と同等の保安水準を網羅的には求めないとの方針が示されている[4]

    まとめ

    東日本大震災は巨大地震や津波により日本にこれまでにない重大な災害をもたらした。その被害規模は大きく、9年が経とうとしているが、いまだ被害者は仮設住宅に住んでいる人が多く存在する。その被災者を救うための法律である被災者生活再建支援法があるが、住宅被害を基礎に世帯ごとの金銭給付のみであり、これだけでは不十分であると考えられる。追加の法的支援が行われ、福島原発周辺の除染が完了し、元々住んでいた人が戻って定着するまでを保証する制度を期待する。

    また、福島の原発事故のようなことが二度と起こらないようにするため、日本におけるエネルギー政策・原発に対する法規制は大きく見直される予定である。特に福島原発においては他の原子力発電所とは別枠にて見直しされる方向であるとの案が示されている。リスクを早期に除去するための設備には、枠ではまった規制ではなく、合理的・効率的な規制が実施される。通常の原子力施設と同等の保安水準を求めないとの方針が示されている。今後、この法改正により二度と東日本大震災と同様の事案が起こらないことを願う。

    参考文献

    [1] 農林水産省 東日本大震災 地震と津波の影響 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1105/spe1_01.html

    [2] 復興庁 全国の避難者数http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-1/20190329_hinansha.pdf

    [3]日本弁護士連合会https://www.nichibenren.or.jp/document/assembly_resolution/year/2016/2016_2.html

    [4]新たな検査制度(原子力規制検査)の実施に向けた法令類の整備(第一段階)及び意見募集の実施等について

    In March 2011, the Great East Japan Earthquake occurred in Japan, causing serious disasters due to a massive earthquake with a magnitude of Mw 9.0 and a maximum seismic intensity of 7, and a tsunami that occurred across a wide area on the Pacific coast of Honshu from the coast of Iwate Prefecture to the coast of Ibaraki Prefecture. The total number of dead and missing is 25,949. The area flooded by the tsunami was 561 km2 (approximately nine times the area inside the Yamanote Line) in six prefectures, including Miyagi and Fukushima. The government estimates that the damage caused by the Great East Japan Earthquake, which left a huge scar on homes and industries as well as many precious lives, is 16 trillion to 25 trillion yen [1].

    Due to the earthquake and tsunami, the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant lost both external power and in-house power generation, resulting in a power outage and the inability to supply cooling water to the nuclear fuel.As a result, the nuclear fuel used for nuclear power generation suffered a core meltdown. I woke you up. As a result, a large amount of hydrogen was generated, which exploded, causing major damage to the building and releasing radioactive materials into the air. In particular, residents of surrounding towns such as Futaba, Okuma, and Namie towns in Fukushima Prefecture, where the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant is located, are still being forced to evacuate eight years later. As of March 11, 2019, there are still approximately 51,000 evacuees in 1,001 municipalities in 47 prefectures nationwide [2].

    Immediately after the earthquake, the “University East Japan Earthquake Reconstruction Support Legal Project” was launched to help evacuees, and legal support is being provided to the affected areas. Since March 2012, one year after the earthquake, we have continued to provide legal support to Namie Town, Fukushima Prefecture, which is located in close proximity to the TEPCO Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. Through research on the precautionary principle, this legal support is intended to support consideration of issues such as how the government should respond to radioactive contamination disasters caused by nuclear power plant accidents, and issues related to restarting nuclear power plants. The Disaster Victims’ Livelihood Reconstruction Support Act is a fundamental law that supports the rebuilding of disaster victims’ lives.However, the livelihood reconstruction support system based on this law provides monetary benefits of up to 3 million yen to each household based on the damage to their home. There are some people who are unable to continue their livelihoods because the amount they receive is not enough to rebuild their lives. In addition, non-resident homeowners are not eligible for support, and there is the problem that support funds may not be distributed in cases where families are scattered and living as evacuation centers [3]. Therefore, this law alone cannot be said to be sufficient to support the reconstruction of disaster-stricken areas.

    What does regional revitalization mean?

    We believe that three points are essential for regional reconstruction after the earthquake: retaining local people, especially young people in the workforce, creating a new flow of people to rural areas, and promoting local industry. First, unless local people return and settle there, live there, and earn tax revenue from their labor, city and town services will not be available. And without the flow of tourists and new people coming to work, the region will not be enriched. It can be said that there is a need to reach out to people whose movements have been halted due to the nuclear power plant accident, provide support to the disaster-stricken areas, and promote regional reconstruction. Without industries that can be considered regional characteristics, the economy would not be able to function and people would not be able to settle there.

  • 労働者の選好は何で決まる?

    労働者の選好は何で決まる?

    はじめに

    マーシャルの派生需要の法則の4つの条件を挙げる。

    1. 他の生産要素(資本設備など)との代替困難
    2. 生産物需要が非弾力的
    3. 総費用の中で労働費用(人件費)割合が小さい
    4. 労働代替する他生産要素供給が非弾力的

    上記の4つの性質をもつ仕事ほど雇用は非弾力的であると言える。より簡単には同率の賃金変動に対して、雇用が安定的と考えられる。需要量は価格や所得に反応するが、価格や所得の変化に対して大きく反応を示すのが「弾力的」、あまり反応を示さないのが「非弾力的」となる。他の生産要素(資本設備など)との代替が困難。生産物の需要が非弾力的である。総費用の中で人件費の割合が小さい。労働を代替する他の生産要素の供給が非弾力的である。すなわち、高度な教育訓練を要し、単純ではない熟練度を要する作業であり、生み出される物やサービスの需要が非弾力的なものであることが生産物の需要が非弾力的である。

    労働者の選好はリスクと賃金の2つで決まるため、危険でも賃金が高ければ埋め合わせられるという性質をもつ。生産要素(労働と資本)の代替の難易が影響し、自動車工場の溶接工をロボットで置き換える場合は容易であり、旅客機のパイロットをロボットで置き換えるのは困難である。代替の難易は生産技術に依存し、産業・職種により多様ある仕事を機械(資本設備)で置き換える。そうすると、その仕事は失われる。(資本と代替する労働)一方、その機械を作る人、操作する人などの雇用はむしろ創出される。(資本と補完する労働)機械と代替的な労働もあれば、補完的な労働もある。Villanueva(2007)は、ドイツの転職者を含むパネルデータで、職場環境と賃金の関係を分析した。仕事量が悪化した転職では対数賃金が0.130増加、つまり賃金は13.0%増加したことになる。一部に理論と不整合な点もあるが、大部分で職場環境が悪化するほど、統計的に有意に賃金は上がることを示している。

     上に挙げた派生需要を踏まえ、関心のある職種として医師とパン工場での単純作業者の2つを選択し、その労働需要の賃金弾力性を検証する。まず、医師は患者の状態を自ら診察し、判断し、投薬や手術などの判断を行わなければいけないため、他の生産要素との代替が困難であると言える。医療ロボットやAIによる診断などの補助的な要素が報告されているが、最終的な判断は医師である。また、平成30年度の国民医療費は43兆3,949 億円、前年度の43兆710億円に比べ3,239 億円、0.8%の増加となっている[1]。病院にかかる患者の医療費は年々増え続けているため生産物(患者)の需要は非弾力的である。医師は免許が必要で免許を持たない人はその職に就くことができないため、労働を代替する他の生産要素の供給が非弾力的と言える。また、2019年度の医師の平均年収は1169万円とされ[2]、賃金を挙げないと人材を集められない。以上から医師は賃金弾力性が高いと考えられる。

     一方、パン工場での単純作業者について述べる。単純作業であればあるほど設備による自動化が可能で、他の生産要素との代替が容易である。また、競合他社が多い商品であるほど、市場が移り変わり、生産物の需要の変動が大きく非弾力的であると考えられる。単価の総費用の中で労働費用(人件費)の割合が小さい。労働を行うことができる年代、経験年数も制限が少ないと考えられ、状況にもよるがその人材募集も最低賃金での募集も見受けられるため、労働を代替する他の生産要素の供給があまり非弾力的ではないと考えられる。そのため、賃金弾力性はあまり高くはないと考えられる。

    参考文献

    [1]厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/18/dl/data.pdf (2022.02.06閲覧)

    [2]賃金構造基本統計調査 (2019年) 

  • 住宅購入時に気を付けるべきことは?

    住宅購入時に気を付けるべきことは?

    住まい手への構造、構法・工法の知識は経済性、安全性、住み心地の良い生活を提供し、生活者の快適性を追求しようとするのが構造安全の目標である。構造種別を選択する場合、住環境を見極め、使用した材料やどのような構造、構法・工法にするべきかを判断することとなる。また、建築基準法、都市計画法、消防法などの社会的環境規制にも従う必要がある。また、構造の決定は住まい勝手に影響を与えることが多くあり、構造の検討時に何を重要視して選ぶか、その条件に優先順位を付け、それにふさわしい構造を選ぶ必要がある。これから住まいの建築や購入を検討中のAさん(30歳)も家族構成や地域環境、高齢化に伴う将来のライフプラン、各種情報や知識を習得する必要がある。

     2000年には建築主や購入者の保護を推進するための住宅品質確保促進法が制定され、ユーザーも自己責任の下に住宅の質に直接かかわる時代になってきている。この法律は新築住宅の『瑕疵保障保証制度の充実』・『住宅性能表示制度の新設』・『紛争処理機関の新設』の3つが大きな柱となっている。『瑕疵保障保証制度の充実』とは新築住宅における住宅の構造部、雨漏りによる不具合は、竣工引き渡し後10年間に渡って無償の修理が義務付けられている。次に『住宅性能表示制度の新設』とは新築住宅における9分類21項目の住宅性能を共通の基準により、各項目で等級分けして表示する制度である。ユーザーは値段や間取り以外にも、住宅の持つ大切な機能を容易に把握でき、各社比較も可能であるがこれはあくまでも任意の性能表示である。

    Aさんは30歳で家族がいるか、若しくはこれから家族を持つことになるだろう。家族を持つと外観、間取りは重要であるが何より安全にかかわる構造はより重要となる。構造設計は「住まう人の命及び財産の確保」を指名の第一としている。「建築基準法」の条文に従えば、建物の強度面での安全は保障されることになる。それなのになぜ欠陥住宅が生まれるのであろうか。主体構造となる柱や梁、壁・床など荷重・外力に対して主に抵抗しているものの断面や大きさや量が多くなれば、材料費が大きくなり、建築単価が高くなる。反対に建築単価を下げようとすると柱や梁などを細くすると、荷重・外力に対して主に抵抗しているものが弱くなり、強度あるいは建物の寿命に支障を生じることもあるためである。制度の下で管理された状態を維持され、ユーザーも知識を身に付け適切な判断を下す必要がある。

     また、ユーザーが住宅の構造安全性をどのようにとらえているか調査した結果を示す。「住宅にどの程度の安全レベルを期待するか」という質問を行った結果がある。結果では「震度6の地震で被害を受けることは許容できない」という質問に東京-九州間で地域環境差が生じ、東京8割に対して、大きな地震の経験がない九州では震度5-6の間となっている。また、「住宅が地震に対して安全だと思う人」について年代ごとにプロットすると阪神淡路大震災以前は60%以上が安全としていたが、震災後では20%と急激に下がり、また時間の経過とともに徐々に安全だと思う人の割合が増加している。絶対値で考えると耐震性の人による判断は注意が必要である。

     一見同じように見える住まいも、実際の作り方は様々であるため、注意が必要である。それぞれの条件に最適な構造を選ぶには、構造・工法の特徴や持ち味を知る必要がある。住まいの計画として具体像を明らかにした時点で、その住まいを実現できる構造はどれに当たるのかといった検討が不可欠である。近年の技術革新は住宅建築一般に渡っており、よほどの安全面や耐久性の差は少なくなってきたと言える。構造が住まい勝手にどのように影響するかという全体設計に関わるソフト面からの検討が重要である。例を挙げると平面設計の上では鉄筋コンクリート造りや鉄骨造りは木造と比べて、その強度から一般的に大きな空間を作ることが可能であるが、柱が大きく壁が厚くなる。一方、木造や軽量鉄骨造りは施工が容易でフレキシブルな空間が作りやすい。木造では、構造的な特質から開口部の位置や大きさに制限があり、増改築の際に開口部を変更する際に制限を受ける場合もある。

     住宅安全レベルは阪神・淡路大震災や欠陥住宅事情をきっかけとして、ユーザー自ら確かな目で各種性能レベルを選択し、確認することが求められる時代になってきた。つまり、今後建築主やユーザーが目標とする性能レベルを決定し、建築技術者がそれを実現、別の機関で確認する図式となる。例えば、自分の住宅の耐震性レベルなどを決定する際には、設計者や技術者から耐震メニューなどが提示され、建築主やユーザーが確認するといった決定権を持つようになる。確認した上で購入したことで自己責任となってしまうことに注意が必要である。今後は消費者の責任範疇も理解した上で住宅の購入時や使用時には性能比較および選択の判断などができるような住まいに関する知識が必要となる。

  • 高分子(ポリマー)の色々

    高分子(ポリマー)の色々

    ポリエチレン・ポリプロピレンについて

    ポリエチレンには低密度ポリエチレン(LDPE)と高密度(HDPE)、そして直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)があり、耐熱温度、比重、耐薬品性、分子構造などがそれぞれ異なる。その重合方法はLDPEでは高圧下でラジカル重合にて得られる。LLDPEは中圧下でラジカル重合にて分岐を持たせた構造の素材が得られる。HDPEはチーグラー・ナッタ触媒を用いたチーグラー法にて得られる。

    側鎖分岐が長いLLDPEは強度が高く、また、分子量が大きいものほど引張衝撃強さは大きくなる。LLDPEはLDPEに比べて同一MFRでの引張衝撃強さが大きい。重合法の違いにより軟化点や比重などが異なる理由としては、LDPEでは分岐が多く、分岐部分は密度が低いため比重が小さくなる。一方、HDPEは分岐をほとんど持たない長鎖で構成され、密度が高い。3つの内、HDPEは密度が高く、熱を加えられても分子運動が抑えられるため、比較的軟化点が高い。LDPEとLLDPEは比重が同じであるが、軟化点と耐薬品性に違いがある。これは分子同士で架橋を作り、立体の網目構造の超高分子を成すためである。下の表『ポリエチレンの種類と物性』にまとめた。

     ポリプロピレンはポリエチレンより耐熱温度が高く100~140℃で、プラスチックの中では最も比重が小さく、0.9~0.91となっている。機械的強度にも優れた素材である。また表面に艶があり、光沢がある素材である。生産量も多い高分子材料で、ポリエチレンに次ぐ量が生産されていると言われている。

    ガラス転移点について

    ガラス転移点Tgと融点Tmの違いについて述べる。まず融点は固体と液体間で相転移が起こる。対してガラス転移点は高分子自体が過冷却状態の液体であり、相は液体で変わらない。融点では固体から液体に変わるため、そこで大きく弾性率が変化する。一方、ガラス転移点ではその分子鎖自身の重心が変わらないため、弾性率は徐々に変化が起こる。また、高分子では非晶性と結晶性で違いがあり、非晶性ポリマーは明確な融点を持たない。温度を上げTgを超え、さらに上げていくと徐々に溶融粘度の低下が進む。結晶性のポリマーではガラス転移点Tgと融点Tmの2つが存在する。

    ガラス転移点の測定方法には示差走査熱量計DSC、動的粘弾性測定DMA (Dynamic Mechanical Analysis) と熱機械分析TMA(Thermal Mechanical Analysis)などがある。示差走査熱量計DSCの中でも熱流束DSCでは、温度制御されたヒートシンクを持ち、試料、基準物質と、ヒートシンクの間に熱抵抗体を設け、この熱抵抗体の定まった場所で温度差を検知する。 熱流のフィードバックは熱抵抗体を介してヒートシンクとの熱交換で行われる。基準試料としてアルミナなどが用いられ、温度差を温度-電圧変換素子(熱電対等)で検知することにより、DSC信号として出力する。熱流束DSCではヒートシンクにより試料部周辺全体が温度制御されるため、ベースラインの安定性が良いとされる1)

    示差走査熱量計DSCの模式図

    動的粘弾性測定DMAは試料に時間によって変化(振動)する歪みまたは応力を与え、発生する値を測定することによって、試料の力学的な性質を測定する方法である。温度分散測定によるガラス転移点や弾性率の温度依存性の分析のみならず、温度分散・周波数分散同時測定を行うことにより、ガラス転移を含む各種の緩和現象を観測でき、高分子の分子構造や分子運動に関する情報も得ることができる。試料は、測定ヘッドに取り付けられ、ヒーターにより加熱されるとともに、荷重発生部からプローブを介して試料に応力が与えられる。試料に与えた応力と検出した歪から温度または時間の関数として出力される。ヒーター内に試料用、基準物質用それぞれの天秤ビームを対称に配置し、サンプル、リファレンス独立に感度調整された駆動コイルにて重量を計測し、その差がTG信号として出力される2)

    動的粘弾性測定DMAの模式図

     熱機械分析TMAは資料の温度を一定のプログラムによって変化させながら、圧縮、引っ張り、曲げなどの一定の荷重を加えてその物質の変形を温度または時間の関数として測定する方法。温度変化に対応して試料の熱膨張や軟化等、試料の変形が起こると、変形に伴う変位量がプローブの位置変化量として、変位検出部で計測される。熱膨張、熱収縮、軟化点などが主な測定対象となる3)

    3.Gauss鎖の関係

    3-1一本鎖が末端間で引き伸ばされたときに生じる力―変位距離の関係 

    3-2力―絶対温度の関係

     f = (kBT/Na2)・A

     S = kB・ln(W)S
      = kB・ln{W(r・N)}P(r)
      =―3/2・exp(-)S
      = kB ln {A×()―3/2×exp(-)}   
      = 定数(A’)+kB ln{exp(-)}    = 定数- =  – SdV = 0=-T S 

    上記式より力は一本鎖が末端間で引き伸ばされたときに生じる力は変位距離rに比例し、力は絶対温度Tに比例する。

    4.熱硬化性ポリマーについて

    熱硬化性ポリマーの例としてフェノール樹脂(ベークライト)を挙げる。フェノール樹脂はフェノールとホルムアルデヒドをモノマーとして縮合重合される。フェノール樹脂は正式名称ポリオキシベンジルメチレングリコールアンハイドライドである。中間生成物の違いから酸触媒下ではノボラック式、塩基触媒下でのレゾール式が存在する。硬化剤としてヘキサミンを加え、さらに充填剤や強化材を添加して加熱すると架橋が起こり、優れた物性を持つ硬化物となる。このノボラックを用いた樹脂製造法を二段法あるいは乾式法と呼ぶ。一方、塩基性触媒下では縮合反応より付加反応の方が速いので、ホルムアルデヒド過剰の条件で反応させるとフェノール核にメチロール基の多く付いたポリメチロールフェノール混合物ができる4)。これをレゾールと呼ぶ。下記にフェノール樹脂の化学構造式を示した。

    フェノール樹脂の化学反応5

    5.金属などの剛体粘性の内部摩擦測定方法

    内部摩擦とは固体に外から力を加えたときに,弾性変形が伝わる過程で各部分間の運動摩擦によって,外から加えた力学的エネルギーの一部が熱エネルギーに変化する現象である。固体による音波の吸収と関係がある6)。したがって超音波により結晶が歪むと,結晶内に圧電分極を発生し,これを打ち消すようにキャリアが移動する。キャリアの移動によりジュール熱が発生するのでこれが内部摩擦となって現われる。外力を加え発生するジュール熱により内部摩擦を測定できる。下記にMaxwell (マクスウェル)模型、Voigt(フォークト)模型、粘弾性体で拘束した質量片の強制振動の模式図とそれを表す式を示した。

    Maxwell模型は、材料が弾む性質と粘る性質の両方を合わせて示す物性である粘弾性を説明するためにバネとダッシュポット(ピストン)を組み合わせたモデルである。物質が受ける応力と歪の関係を示している。Maxwell模型での物質が受ける応力と歪の関係は下記のような式となる。弾性率 (バネ定数) を E、バネのひずみを γ1、ダッシュポットの粘度を η、歪をγ2とする。

    γは歪でσは応力である。時間で微分すると

    Maxwell模型での物質が受ける応力と歪の関係は以上のような関係となる7)

    Voigt模型は粘弾性を説明するためにバネとダッシュポット(ピストン)を並列に繋いだモデルである。フォークト模型の場合には, バネとピストンの歪が等しい。このひずみをγとする。バネの応力をσ1, ピストンの応力をσ2とする。バネの応力がひずみに比例すると、

    7)

    粘弾性体で拘束した質量片の強制振動の模式図を示した。これは、質量Mの鉄片を粘弾性体で挟み込み、加速度と歪速度、歪量との和が最大荷重と振動数と位相を示すものである。

    6.複合材料の5つの弾性率 含める語:テンソル

    複合材料の弾性率はヤング率E 、ポアソン比ν、体積弾性率K 、剛性率G 、ラメの第一定数λの5つである。弾性率Dは4階のテンソル量で表すことができる。下記一軸直交性体のテンソルから独立な弾性率は5個となる。

    σ = D ϵ , {\displaystyle {\boldsymbol {\sigma }}={\boldsymbol {D}}{\boldsymbol {\epsilon }},} σ i j = D i j k l ϵ k l ( i , j , k , l = 1 ∼ 3 ) {\displaystyle \sigma _{ij}=D_{ijkl}\epsilon _{kl}\quad (i,j,k,l=1\sim 3)}弾性率テンソルは81(= 34)個の成分を持つが、応力テンソルσとひずみテンソルεは対称性、すなわちσ i j = σ j i , ϵ i j = ϵ j i {\displaystyle \sigma _{ij}=\sigma _{ji},\quad \epsilon _{ij}=\epsilon _{ji}} よりそれぞれ独立な6成分を持つので、弾性率テンソルDもD i j k l = D j i l k {\displaystyle D_{ijkl}=D_{jilk}} の性質を持ち、独立な成分は36(= 62)個となる。

     さらに単位体積あたりの弾性ひずみエネルギーd W ≡ σ i j d ϵ i j {\displaystyle dW\equiv \sigma _{ij}\,d\epsilon _{ij}} を用いて弾性率D i j k l = ∂ 2 W ∂ ϵ i j ∂ ϵ k l {\displaystyle D_{ijkl}={\frac {\partial ^{2}W}{\partial \epsilon _{ij}\partial \epsilon _{kl}}}} が表せるため、最終的に弾性率テンソルDの独立な成分は21(= 6×(6+1)/2)個となる。その中でも独立な弾性率は5個となる。

    参考文献

    • 株式会社日立ハイテクサイエンスweb ページ https://www.hitachi-hightech.com/hhs/products/tech/ana/thermal/descriptions/dsc.html
    • 株式会社日立ハイテクサイエンスweb ページ https://www.hitachi-hightech.com/hhs/products/tech/ana/thermal/descriptions/dma.html
    • 株式会社日立ハイテクサイエンスweb ページ https://www.hitachi-hightech.com/hhs/products/tech/ana/thermal/descriptions/tma.html
    • 波華合成株式会社 用語辞典http://www.naniwagousei.com/dictionary/フェノール樹脂/
    • 合成樹脂 https://pigboat-don-guri131.ssl-lolipop.jp/732%20Synthetic%20resin.html
    • ブリタニカ国際大百科事典 https://kotobank.jp/word/内部摩擦-107428
    • マクスウェル(Maxwell)模型とフォークト(Voigt)模型 http://cisweb.yz.yamagata-u.ac.jp/~escargot/index.php?plugin=attach&refer=%B9%E2%CA%AC%BB%D2%B9%A9%B3%D8&openfile=VEModel.pdf
  • 原子力発電の危険性と地球温暖化現象のジレンマ

    原子力発電の危険性と地球温暖化現象のジレンマ

    はじめに

    社会学とは今起こりえる人間社会を科学的方法にて普遍的法則の解明を目指ざす学問であると考える。その名はフランスのオーギュ・コントにより生み出された。19世紀当時自然科学が物質的世界の物理法則を説明するように、形成する人間の社会も同じように説明ができるはずだと言う考えの元に成り立っている[1]。社会学にこれまで関わってきている多くの人々の考えを理解し、それを踏まえて現代社会における事態的な事象を挙げ、社会学の理解を深める。本論ではアンソニー・ギデンズ第5版の中からp949 問4にある考察を深めるための問い『温室効果を考えあわせたとき、原子力への移行は、とるに値する賢明なリスクだろうか』を考察した。

    未曽有の大災害東日本大震災

    我が国日本では2011年3月、未曽有の大災害東日本大震災が起こった。岩手県沖から茨城県沖までの本州太平洋側広域に発生、マグニチュードMw9.0、最大震度7の巨大地震や津波による重大な災害をもたらした。死者と行方不明者の合計は2万5,949人。多くの尊い命とともに家屋や産業に大きな傷跡を残した東日本大震災の被害規模は、16兆~25兆円にのぼると日本政府は試算している。地震と津波によって福島第一原子力発電所が外部電源、自家発電ともに消失、停電し、核燃料に冷却水を供給できなくなり、その結果、原子力発電に使用されていた核燃料が炉心溶融(メルトダウン)を起こした。それによって、大量に発生した水素が爆発して建屋は大破し、放射性物質が空気中に放出された。特に福島第一原子力発電所が位置する福島県双葉町、大熊町、浪江町など周辺町民は8年たった今でも避難を強いられている。2019年(平成31年)3月11日現在、避難者は全国47都道府県1001の市区町村に渡り、いまだ約5万1千人存在する[2]。結果として原子力は日本と言う1つの国家に大きなダメージを与えた。

    エコロジーとテクノロジーの共存

    そのようなことが起こったのになぜ原子力は必要なのか。原子力の危険性は過去のソビエトのチェルノブイリ原発のような事故で目にしていたはずであるのに事故は起こってしまった。今後起こり得る天災・人災のリスクを防げるのか?原子力以外の他の方法に代替できないのか?など疑問が生まれる。人の生活、科学技術の発展にはエネルギーは必要不可欠であるが、化石燃料による火力発電では温室効果ガスを発生させ、世界各地に異常気象をもたらす。これから述べるが、温室効果ガス抑制を考えるエコロジーと科学技術・近代化を支えるテクノロジーの共存は必須である。今後の温暖化現象を抑えるための原子力の必要性、移行した場合のメリット・デメリット、原子力のリスク回避策について事例をいくつか挙げた。

    温暖化現象が人類に与えるリスク

    温暖化現象は地球に様々な影響をもたらす。よく言われているのが北極・南極の氷が解け、海面上昇が起こりツバルを始めとする島国が海の中に沈んでしまう事象。また、熱波などの異常気象を頻発させ、それにより干ばつや山火事が起こり、砂漠の拡大につながる。これは世界の作物収穫量を減少させ、食糧安全保障に悪影響を及ぼす恐れもある。温暖化により太陽から降り注ぐ赤外線が地球の地表に当たり温められるが、通常その一部は地球の外に排出される。しかし、温室効果ガスが増えると赤外放射が滞り、地球の温度が下がりづらくなってしまう。温室効果があるガスとしては二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなどがある。例えば、二酸化炭素は発電の際に石油、原油といった化石燃料の燃焼とセメント生産及び森林伐採などの土地利用の変化により増加が起こっている。図に大気中における二酸化炭素の世界平均濃度を示した。

    図 大気中における二酸化炭素の世界平均濃度

    気象庁HPよりhttps://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/tour/tour_a2.html

     図を見ると世界平均の二酸化炭素濃度は年々増加しているのが分かる。1985年の二酸化炭素濃度は345ppmであるが、2019年11月では410ppmに迫っている。世界の人口は2015年で72億人、2050年では97億人に迫るという[3]。そうなると必然的に人口増に対応した食料の確保が必要となる。FAO国連食糧農業機関によると2050年には、この97億人の人口の食料を賄うには現在の食料生産量を170%にしなければいけないという[4]。温暖化の影響で2020年までにアフリカの一部の地域の灌漑などで水の制御ができない降雨依存型農業での農作物収穫量が50%程度減少するという予測もある[5]。そうなると食糧難による飢餓が発生する。また、世界的な食糧難に陥れば巡って我が国においても食糧コストが増加する懸念がある。国連が2019年8月8日に発表した「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の気候変動が土地利用にもたらす影響に関する報告書では地球の平均気温が、今後2℃以上の幅で上昇すれば肥沃だった土地は砂漠となり、永久凍土地域に構築されたインフラも破壊されて、干ばつや洪水などによって食料の栽培と生産を脅かすと警告している。その上で、2050年までに世界の穀物価格は最大23%(中央値は7.6%)上がる可能性を指摘している[6]。温暖化現象が起こると食料生産量が減少、価格も上昇し、世界的な食糧難の懸念がある。温暖化現象は地球に様々な影響をもたらすと予測されている。

    原子力発電のメリット・デメリット

    原子力発電は日本では2011年の事故以来リ一時非稼働となったが、温室効果ガスを発生が少ないクリーンなエネルギーだと言われている。日本は世界の主要国と比べエネルギー自給率が低く9.7%となっている。その発電に必要なエネルギー資源(石油、石炭、天然ガス、ウランなど)のほとんどを海外からの輸入に頼っている。人が生活するためにエネルギーが必要であるが、現在主な発電方法の火力発電で使用されている石油・石炭は2018年時点での世界の埋蔵量を考えると今後50年ほどで枯渇すると言われている。そのため、代替エネルギーの取得が不可欠となる。安全でクリーンな代替エネルギーを考えると水力・地熱・風力・太陽光発電があるが、合わせても全発電力量のわずか1割ほどに留まっている。水力・地熱発電は新規開発の場所や発電に適しているかどうかの調査に長期間を有し、風力・太陽光発電は気候や自然環境に左右されやすいデメリットがある[7]。そのため、現時点ではエネルギー自給率とクリーンな代替エネルギー双方を考えると原子力発電は選択肢から外せない状況であると言える。下記に日本の電源構成別の発電電力量の推移を示した。

    原子力発電所稼働への影響

    グラフを見ると2011年の東日本大震災により原子力発電は減少し、2014年に一次ゼロとなっているが、2017年には再稼働している。再稼働には重大事故の防止策としてのチェック機能が働いている。例として、九州電力は特定重大事故等対処施設(特重施設)の完成が設置期限に間に合わないため、川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)を停止すると正式発表。原子力規制委員会は電力会社に対し、「原発本体の工事計画の認可から5年」の完成期限の延長を認めないことを決めている[8]。特重施設は原発に航空機を衝突させるなどのテロ行為が発生した場合に、遠隔操作で原子炉の冷却を続けられる設備である。これにより今後は条件をクリアしなければ運用できない原子力発電の稼働が厳しい状況となっている。また、福島第一原子力発電所では、特に施設全体のリスク低減に必要な措置が求められる。発電所全体に対し実施計画を中心とした一体的な規制を実施する。通常の原子力施設と同等の保安水準を網羅的には求めないとの方針が示されている[9]

    今後に残された課題

    温暖化現象は海面上昇が起こりツバルを始めとする島国が海の中に沈み、干ばつや山火事が起こり、砂漠の拡大が世界の作物収穫量を減少させ、これから訪れる人口増に対応できず食糧安全保障に悪影響を及ぼす。温暖化を防ぐには温室効果ガスの発生を押さえなければならない。そこで、2015年フランス・パリで開催されたCOP21において採択された「パリ協定」がある。パリ協定は、歴史上初めて先進国・開発途上国の区別なく気候変動対策の行動をとることを義務づけた歴史的な合意協定である。そこで、日本は2030年度に2013年度比26.0%減の水準(約10億4,200万t-CO2)を守ると表明している[10]。日本だけではなく、これを各国が守ることでパリ協定の目標である世界の平均気温上昇を2.0度未満に(好ましくは1.5度以下)抑えることを達成することができる。その達成には様々な取り組みが必要であると考えられるが、効果的なのが化石燃料使用量を減らすことである。安全でクリーンな代替エネルギーである水力・地熱・風力・太陽光発電をできるだけ活用し、その割合を可能な限り上げることが必要である。また、地震や津波の自然災害に負けない、そしてテロ対策の特定重大事故等対処施設を備え、十分に安全であると判断された場合にのみ原子力発電を活用する。後に安全でクリーンなエネルギーで満たされ、温暖化が抑えられる世界を目指すための議論が進むことを望む。

    Sociology is considered to be a discipline that aims to elucidate the universal laws of human society that are occurring today using scientific methods. The name was coined by Auguste Comte of France. It is based on the idea that, just as natural science explained the physical laws of the physical world in the 19th century, it should be possible to explain the human society that forms it in the same way [1]. Students will understand the ideas of many people who have been involved in sociology, and based on that understanding, will identify current events in modern society and deepen their understanding of sociology.

    In March 2011, Japan experienced an unprecedented disaster, the Great East Japan Earthquake. The earthquake occurred in a wide area on the Pacific coast of Honshu, from the coast of Iwate Prefecture to the coast of Ibaraki Prefecture, and caused serious disasters due to a gigantic earthquake with a magnitude of Mw 9.0 and a maximum seismic intensity of 7, as well as a tsunami. The total number of dead and missing is 25,949. The Japanese government estimates that the damage caused by the Great East Japan Earthquake, which killed many precious lives and left a huge scar on homes and industries, is between 16 trillion and 25 trillion yen. Due to the earthquake and tsunami, the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant lost both external power and in-house power generation, resulting in a power outage and the inability to supply cooling water to the nuclear fuel.As a result, the nuclear fuel used for nuclear power generation suffered a core meltdown. I woke you up.

    参考文献

    [1] アンソニー・ギデンズ 社会学 第5版 而立書房 2015年 1. p.31 p.979

    [2] 農林水産省 東日本大震災 地震と津波の影響 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1105/spe1_01.html

    [3] ナショナルジオグラフィック2100年の世界人口は112億人、国連予測 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/080600214/

    [4] 国際連合広報センター https://www.unic.or.jp/news_press/info/33789/

    [5] 農林水産省 地球温暖化による食糧生産への影響 https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h19_h/trend/1/t1_1_2_01.html

    [6] 東洋経済 日本人は温暖化に伴う食料危機をわかってないhttps://toyokeizai.net/articles/-/298862

    [7] 東北電力HP https://www.tohoku-epco.co.jp/electr/genshi/safety/qa/q1.html

    [8] 福井新聞ONLINE 2019年4月24日 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/842004

    [9] 新たな検査制度(原子力規制検査)の実施に向けた法令類の整備等についてhttps://www2.nsr.go.jp/data/000279077.pdf

    [10] 外務省HP パリ協定 https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol150/index.html

    参考文献中の[2]~[10]は2020年5月6~8日にWeb上にて検索した閲覧結果を示した。

  • E・デュルケムとイスラム教の供犠のあり方

    E・デュルケムとイスラム教の供犠のあり方

    供犠についてのE・デュルケムによる宗教学上の位置付け

     デュルケムの考えでは、「聖俗理論」という聖なる領と俗なる領域を分けるカテゴリーの考えを用い儀礼はその二つの領域を繋ぐ行為として表現した。このカテゴリーは『社会分業論』から始まり、功利主義的個人主義への批判からである。労働が俗的活動の顕著な形態で…反して祭日には、宗教生活が異常な強度で現れる[1]。例えば、動物の供犠は日常生活のこの世と超自然的な存在のいるあの世とを結ぶ行為と解釈している。また、デュルケムによると聖なるものとのかかわりが禁じられる消極的儀礼(タブーなど)と、聖なるものとの交流がなされる積極的儀礼(供犠など)の区別がある[2]。すなわち、供犠は神との交流を図るための式事の1つであると考えられる。

    イスラム教の供犠のあり方

     イスラム教は唯一絶対の神アッラーを信仰し、神が最後の預言者を通じて人々に下したとされるクルアーン(コーラン)の教えを信じ、従う一神教である。特徴として偶像崇拝を徹底的に排除し神への奉仕を重んじる。信徒同士の相互扶助関係や一体感を重んじる点に大きな特色があるとされる。アッラーとはもともとアラビアの多神教の神々の中の一柱であったが、ムハンマドがメッカを占領した際、カーバ神殿に存在した全ての神々の像を破壊し、多神教及び偶像崇拝を戒めアッラーのみを崇拝するようになった。クルアーンは神がムハンマドを通じて、アラブ人にアラビア語で伝えた神の言葉そのものであるとされ、聖典としての内容・意味・葉そのものも全てが神に由来する。クルアーンを記した文字や本、クルアーンを人間が読誦したときにあらわれる音は、被造物である人間があらわしているので被造物の一部であるが、その本質である言葉そのものは、本来被造物の世界に存在しない神の言葉である。イスラム教ではラクダも供物にする。クルアーンはアッラーに「大きなラクダ」を屠って捧げることを命じている。今日でもラクダは食肉として用いられている。イスラム教にとってもっとも神聖だとされているメッカのカーバ神殿でも羊を屠って、供犠として捧げられる。全世界から集まったイスラムの巡礼者のために、大量の羊が売られて屠られている。

    参考文献

    [1] Émile Durkheim, Lesforms élémentaires de la vie religieuse: le systéme totemique enAustralie, FelixAlcan

    1912吉野清人訳『宗教生活の原初 形態上下』岩波書店,1942 下・p126

    [2]コトバンク 儀礼

    https://kotobank.jp/word/%E5%84%80%E7%A4%BC(%E3%81%8E%E3%82%8C%E3%81%84)-1526471

  • ルターの行った功績 宗教改革

    ルターの行った功績 宗教改革

    はじめに

     1517年にキリスト教のカトリック改革運動として始まる宗教改革は、なぜ世界的な出来事とみなされているのか?それは、マルティン・ルターが当時カトリック教会にとっての重要な収入源であった贖宥状を廃止し、聖書の教えに戻るべきだと訴えたことが一番の根底にあると考えられる。初め、マルティン・ルターの宗教改革は単なるドイツの局地的現象に過ぎなく、マルティン・ルター以前にもカトリック教会のあり方に対して大きな疑問をもつ人々がいた。ルターは以前から続くカトリック批判を展開した。ルター自身は、何もカトリック教会と異なる新しい宗派を立ち上げようとしていたのではなく、結果としてプロテスタント派を生むことにはなったが、当時はあくまでも教会内部の改革を進めようと考えていた。

    贖宥符の真の意味

     マルティン・ルターによる批判の矛先は、カトリックによる「贖宥符(しょくゆうふ)」の販売に向けられていた。贖宥符とは、日本では「免罪符」とも呼ばれるもので、金銭と引き換えに教会が発行してくれる。これを手に入れれば、それまでの罪が赦され、死んだ後には天国に行けるとされる証書である。かつては、ローマまで巡礼できないものに巡礼したと同様の効果を与えるとして発行されていた。しかし、その後聖ピエトロ大聖堂の建築の資金など様々な理由をつけて贖宥符を販売していた。もちろん、聖書にそのような仕組みについて書かれた箇所はなく、カトリックが独自に生み出したシステムである。

     マルティン・ルターは信仰とは教会の教えではなく、聖書の教えに基づくべきだと考えた。そこで、ルターは1517年書簡を送りかつヴィテンベルク大学の聖堂の扉に贖宥の効力を明らかにするための討論〔九五箇条の提題〕を呼びかける掲示を行った。その内容としては『煉獄にある魂が自らの救いについて確信し、また安心しているなどということは証明されていない。そのため、教皇はすべての罰についての完全な赦しを与えることで、それによって単純にすべての罰が赦されると理解するのではなく、それはただ自らが科した罰の赦しだけだと理解しているのである。

     それゆえ、教皇の贖宥によって人間はすべての罰から解放され、救われる、と説明する贖宥の説教者は誤っている。(一部抜粋)』1とルターは述べている。これは免罪符によって教皇が赦しているのは教皇が科した罰だけであり、煉獄に向かう魂が免罪符によって許されるということは証明されていない。すべての罪が許されると謳って免罪符を販売することは疑問を抱くとルターは指摘し、善い行いによってのみ罪は軽減されると説いている。この九五箇条の提題からなる当時のカトリック批判によりルターは教皇から怒りを買い、破門されながらも、後に1524年夏南ドイツから全ドイツに渡った農民戦争を経て、新教であるプロテスタントを確立したのである。もちろん、「信仰によってのみ人は義である」をルターは貫き通した結果がこの形となったものと感じる。

    宗教改革後の変化

     また、宗教改革以前の礼拝堂では「礼拝やミサが執りおこなわれる間、礼拝もミサもすべてラテン語。その時々に何が行われているのか、神父は何を唱えているのか、その意味を理の時々に何が行われているのか、神父は何を唱えているのか、その意味を理解する必要はなかったのである。」2とある。マルティン・ルターの宗教改革の成果の1つに、宗教行事を市民の多くが理解できなかったであろうラテン語をドイツ語にて行ったことにある。宗教改革後には『「悔悛の秘跡」と呼ばれる懺悔聴聞は、民衆のためのキリスト教のひとつの顕著な姿である。民衆は自分の犯した罪を個別に神父に懺悔し、神父から「私はあなたの罪を赦す」と赦免を受けるとともに、断食や徹夜の祈りといった償いの行いを課せられる。そうした個別の儀式、秘跡が懺悔聴聞である。これはラテン語ではなく、ドイツ語のような民衆の言葉によって行われた。』3とあり、ただ訳もわからず宗教行事に参加していた民衆は自分たちの理解できる言葉によって行われ、参加する意味をようやく理解できるようになったと考えられる。また、懺悔聴聞によって侵してしまった罪の償いが出来、理解できる言葉で神父から赦免を受けることが出来るようになり、キリスト教徒である意味が宗教改革以前よりも増していると感じられただろう。

    参考文献

    [1]宗教改革三大文書 付「九五箇条の提題」 (講談社学術文庫) p.146-156

    [2]マルティン・ルター ことばに生きた改革者 徳善義和 岩波書店 2015 第四刷p104-105

    [3]マルティン・ルター ことばに生きた改革者 徳善義和 岩波書店 2015 第四刷p115

  • 宗教はなぜ存在するのか?

    宗教はなぜ存在するのか?

    宗教の起源

     宗教は自然災害など人には理解できない状況が起きたとき、それを説明するため生まれたものとも言える。豪雨、火山の噴火、干ばつによる農作物の不作など何故起こるのか理解できない古代の人間にはこれらが起こっている原因が分からない。これは、きっと神が人々の行いに怒っているのだろうと考える。また、ペストなど流行性の病気で次々に人が倒れる奇妙な現象や飢饉による例年にない作物の不作が起こると、神の怒りではないかと言い出す人が出てくる。理由が説明出来ないため、みんなきっとそうだと信じ込む。そのため、儀式を行い、神への捧げ物をして豊作を願ったり、病気治しを祈ったり願ったりする。これが宗教の元になっている。

     人は何か大いなる力に祈り、自分ではどうにもならない欲望を満たして欲しいと考える。他にも、なぜ地球があるのかとか、人間はどうやって生まれたのか、などの疑問も神が創ったということで、明確な理由がないためなんとなくみんな納得する。現代では科学が発展し、神が行ったことであった事象の多くが解明されてきているにも関わらず宗教は未だに存在する。

    宗教信仰の入り口

     まず、宗教信仰の初めは生まれながらに決められる人も多い。両親が特定の宗教を信じていて、小さい頃から宗教の催しなどにも自然と参加していたような人達はその宗教を生活の一部として捉える。例えば、無宗教だという1人の日本人の人生を振り返ってみた場合、高校入試の合格祈願だと神道の考えを持つ神社で参拝を行い、キリスト教様式の教会で結婚式を挙げ、葬式は仏教で数珠を付け南無阿弥陀仏と念仏を唱える。むしろ、それが普段の生活であるため宗教的な活動と気づかず、その生まれた家や地域で宗教が精神に根付いているという場合がある。そのような生活をしていながら、中には人生を終えるまで宗教を信じていないという人もいるだろう。

    宗教を信仰する人

     宗教を信仰する人はどのような人なのか。なぜ人々は宗教を信仰するのか?その一つの答えにすべての人が直面する人生最大の問題に死がある。死は、どんな人も避けることのできない事象である。ところが、不治の病にかかって余命を宣告されるなど、死に直面すると、普段死を忘れて生きている時と、人生観が変わってしまう。今までの悩みの種であったどうしたらお金が儲かるだろうかとか、人から褒められるか、ばかにされないか、愛情に包まれるかということ一切が光を失いもはやそのようなものは関係なくなる。

     お金や財産、地位、名誉、妻子、才能といったものは、死ぬと意味はない。線香花火のような儚い幸せだったことが知らされる。そんなものを必死でかき集めてきた自分の人生は一体何だったのだろうと疑問が起きて、目前に迫る死があり死んだらどうなるかが大問題となる。しかし、科学や医学で、死ぬことを止めるとこはできず、死の問題に対しては何の力にもならないと言える。これは、誰も死んだ後どうなるかは死んだ人しかわからず証明ができないため不安を覚え、何かにすがる。これが宗教である。

    宗教信仰の目的

     また、人は皆自らの意志で生まれてきたわけではない。夢を持って生きている人も多くいるが、ただ漠然と生きている人も中にはいる。そうすると何故私は生きているのか。生きている意味は何か。なんのために生きなければいけないのかと疑問が湧いてくる。これも明確な答えがないため、人は不安を覚える。例えば、キリスト教ではイエスに弟子として従い、彼から彼の言葉(聖書)と読み、祈りによって彼と交わり、彼の命令に従う時に本当の人生の意味を見出すとある1)。キリスト教はイエスと共に生き、その中で生きる目的を見つけることにある。仏教においては、仏教の教えを聞いて、人間に生まれた目的を解決し、未来永劫の幸せを手に入れることにある。今生に人間に生まれることは大変難しいことであり、戒律を守らなければ来生に生まれたときに幸せはやってこないとされる。

     これらの「幸せ」「人生の目的」「死」の3つの問題は、科学や医学では解決が難しく、宗教に頼ることになる。いずれの宗教でもこの3つの問題についての解釈があり、見えない不安を取り除き人生を幸せに生きたい。なぜ生きているのかと考える人がいる限り、宗教が必要とされる。また、その信仰レベルには①地域社会の無意識的な習慣となっているレベルのものと②神仏について自覚的に問う、教理を勉強したり修行したり教団に入会したり、とにかく意識的に振舞うようなレベルのもの2)がある。事実、人の多くはなんらかの宗教を信仰している。

    参考文献

    1)‘GotQuestion人生の意味は何ですか?’. https://www.gotquestions.org/Japanese/Japanese-meaning-life.html

    2021-05-08

    2) 岡田、小澤ら はじめて学ぶ宗教~自分で考えない人のために~ 2011.p8

  • 世界の宗教の特徴とは?

    世界の宗教の特徴とは?

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     世界の宗教にはキリスト教、イスラム教、ヒンズー教、仏教、ユダヤ教などがある。世界の人口の約77%がこの世界5大宗教のいずれかを信仰している1)。その他、内訳としてはキリスト教が33%、次にイスラム教で20%、ヒンズー教は13%、仏教が6%、その他合わせて28%となる2)。例として日本では7割の人が無宗教・無信仰を自認していると言われる。生まれてから死ぬまでに成長の節目に合わせて通過儀礼を行う。結婚までは神のいる神社でお宮参り、結婚式は神前・仏前・キリスト教式、お葬式でも神前・仏前・キリスト教式・友人葬となにかしらの宗教と繋がりがある3)と言える。以下に宗教の理解のためキリスト教、イスラム教、仏教についてまとめ、中でも私たち日本人になじみ深い先祖供養についても述べる。

    キリスト教の考え方

     世界で最も信仰する人口が多いキリスト教では、人間を造ったのは神であり、神である私を信じなさいという考えを持つ。イエスを救世主と受け入れ、死後この世が終わるときの審判で神の国へ入れてもらえる。現世では、自分の限られた人生を大切にし、神の使命を探りつつ、自己の能力を生かし、親、親族、友人を愛し、幸福な時間で満たして生きること。死後の世界では、天国で栄光の姿に変えられ、涙も憂いもない、真の愛と幸福に満たされ、この世でいったん別れた人たちと再会し、永遠に生きることとなる4)。これがキリスト教の基本的な考え方である。

    仏教の考え方

     また、仏教は「解脱」して「涅槃」に入ることを目指した教えである。何からの解脱(解放)かといえば、「輪廻」からの解脱である。輪廻説によると、世界は限りない大昔から存在していたとされている。たとえば『法華経』によると、シャカは人間界に初めて現れた仏ではなく、第七番目の仏とされている。仏教の求めたものは輪廻の生存からの脱却であり、シャカは「もはや生まれ変わらない者」になったと信じられている。仏教では、執着心・欲望・煩悩という”紐”を断ち切れば、生死輪廻の世界から解脱して、いわゆる「涅槃」に入れると説く。「涅槃」とは、解脱した状態である5)。これは己の内にある仏を修行により引き出しなさいという考え方である。「涅槃」は二つの解釈があるという。一つは、喜びも悲しみもない絶対的静寂(絶対の無の状態)という解釈。二つ目の解釈として、輪廻の生存の外側へ脱することなのだから、通常の”有無”の次元で「涅槃に入った人は存在するか、しないか」などと問うことはできないとしている。「涅槃」とは、輪廻から脱して、生命に関するすべての事柄が絶やされてしまった状態。しかし、涅槃に「何もない」では味気ないということで、後世になると涅槃には喜びがあるという解釈も生まれている。

    イスラム教の考え方

     イスラム教は、唯一絶対の神アッラーを信仰し、神が最後の預言者を通じて人々に下したとされるクルアーン(コーラン)の教えを信じ、従う一神教である。特徴として偶像崇拝を徹底的に排除し、神への奉仕を重んじる。信徒同士の相互扶助関係や一体感を重んじる点に大きな特色があるとされる。アッラーとは、もともとアラビアの多神教の神々の中の一柱であったが、ムハンマドがメッカを占領した際、カーバ神殿に存在した全ての神々の像を破壊し、多神教及び偶像崇拝を戒め、アッラーのみを崇拝するようになった。クルアーンは神がムハンマドを通じて、アラブ人にアラビア語で伝えた神の言葉そのものであるとされ、聖典としての内容、意味も、言葉そのものも全てが神に由来する。クルアーンを記した文字や本、クルアーンを人間が読誦したときにあらわれる音は、被造物である人間があらわしているので被造物の一部であるが、その本質である言葉そのものは、本来被造物の世界に存在しない神の言葉である。

    仏教の正しい先祖供養 功徳はなぜ廻向できるのか?

     筆者は良い行いも悪い行いもどちらも自分に返ってくると繰り返し述べている。『功徳は自分の心に生まれる。廻向される功徳が物質とちがって心のエネルギーだから、話が見えにくくなっているだけです。因果法則に例外はありません。すべて、厳密に、自業自得です。6)』私たちの言葉、行動、もの、様々な動きで自らのエネルギーを誰かに与えている。これは、釈迦が例外なしと看破した因果法則であると言う。功徳は良い行いを行うと生まれるエネルギーであり、すぐに結果を出してくれるものではない。そして、このエネルギーは「カルマ」と呼び、自分の心に刻まれる。このカルマは他者の幸せを願う心は自分の心に功徳を生む。また、カルマは誰か与えたい特定の人に与えられるものではない。廻り巡って自分に返ってくる。どこで行った行為が返ってきたのかは誰にもわからない7)。霊が出てくるときの例を用いて、どんなときも廻向する心を持つことが重要だと考えられる。

    参考文献

    1) 中村圭志図解世界5大宗教全史

    2) ブリタニカ国際年鑑 2004

    3はじめて学ぶ宗教 –自分で考えたい人のために 岡田、小澤

    4)聖書創世記 新改訳2017 1章26節

    5)キリスト教読み物サイトhttp://www2.biglobe.ne.jp/~remnant/bukkyokirisuto04.htm 2021.05

    6) 仏教の正しい先祖供養功徳はなぜ廻向できるの? サンガ出版 2008 p.497

    7)パーリ四ニカーヤに説かれる先祖・施餓鬼供養『家族のあり方と仏教』日本仏教学会編(平楽寺書店)2004

  • 仏教の正しい先祖供養功徳はなぜ廻向できるの?藤本晃 (サンガ出版)

    仏教の正しい先祖供養功徳はなぜ廻向できるの?藤本晃 (サンガ出版)

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     筆者、藤本氏は本書の中で例を交えながら、良い行いも悪い行いもどちらも自分に返ってくると繰り返し述べている。『功徳は自分の心に生まれる。廻向される功徳が物質とちがって心のエネルギーだから、話が見えにくくなっているだけです。因果法則に例外はありません。すべて、厳密に、自業自得です。(p.497)1』筆者は私たちは言葉、行動、もの、様々な動きで自らのエネルギーを誰かに与えている。これは、釈迦が例外なしと看破した因果法則であると言う。功徳は良い行いを行うと生まれるエネルギーであり、すぐに結果を出してくれるものではない。そして、このエネルギーは「カルマ」と呼び、自分の心に刻まれる。このカルマは他者の幸せを願う心は自分の心に功徳を生む。また、カルマは誰か与えたい特定の人に与えられるものではない。廻り巡って自分に返ってくる。どこで行った行為が返ってきたのかは誰にもわからない。

     また、筆者は『自分も他人も、善行為や善い心の共有によって、得(徳)がますます増えるのです。…やっている行為自体が善行為なら、堂々と乗っかって、「すばらしい。よくやりました」と誉めて、いっしょに喜べばいいのです。他人の善行為を喜んだわたしの心にも、功徳がしっかり生まれます。1(一部抜粋)』と述べている。善い行いは一人で行うものではなく、出来るだけ多くの人と一緒に行うことで、行為者と同じ功徳を手に入れられると言う。

     『たまには悪意のある餓鬼・霊もいるかもしれませんが、人間のような身体もありませんし、なにも悪さはできませんから、放っておくか、「(霊も含めて)みんなが幸せでありますように」と、わたしたちだけはいつも廻向する心、慈しみの心でいればいいのです。12』霊が出てくるときの例を用いて、どんなときも廻向する心を持つことが重要だと述べている。

    参考文献

    1. 藤本晃 仏教の正しい先祖供養功徳はなぜ廻向できるの?(サンガ出版)2008年10月
    2. 日本仏教学会・編「パーリ四ニカーヤに説かれる先祖・施餓鬼供養」『家族のあり方と仏教』(平楽寺書店)、2004
  • 19世紀半ばから20世紀末の冷戦終結前後までのアジア

    19世紀半ばから20世紀末の冷戦終結前後までのアジア

    19世紀半ばから20世紀末の冷戦終結前後までアジア政治史について、どのように時代区分ができるか。またそれぞれの時代の特徴は何か。それぞれの時代が始まりと終わり、時代の特徴について記述する。

    19世紀半ばから20世紀末の冷戦終結前後までアジア政治史を以下の4つに分ける。

    列強諸国のアジアへの進出 19世紀半ば~

     この時代は列強諸国がアジアへ植民地を求めての進出であり、始まりと言えるのはアヘン戦争である。清はイギリスに敗れ、1842年にイギリスとの間で不平等条約と言える南京条約を結ぶ。日本でも1853年にアメリカ合衆国艦隊が開国を求めて来航し、日米和親条約を結び、1858年日米修好通商条約が結ばれ、その後日本は鎖国が解かれている。これらは東アジア秩序の変容と主権国家体制の需要を急がせた。

    アジアの近代化 19世紀後半~

     日本では明治維新が起こり、西欧諸国の文明を取り入れた。1871 年には日清修好条規を結んだ。朝鮮半島をめぐっても、1894年に日清戦争が始まる。敗れた清は朝鮮の独立を認め、多額の賠償金を支払うことが定められた。日本はその賠償金で産業革命を推し進め列強への仲間入りを目指ざすことになる。北京条約後、列国との差を目の当たりにし「洋務運動」が始まり、日清戦争後には、その動きがさらに加速した。中国は1911 年これまで長年続いた清王朝が辛亥革命により倒れたが、大きな社会変革は伴わなかった[1]

    帝国主義と世界戦争への道のり 20世紀初頭~

     1914年に第一次世界大戦が勃発した。この機に乗じて、大日本帝国は極東地域のドイツ租界や島嶼地域を占領した。また、日本は中華民国に対華21ヶ条要求を行った。中国では1919年のヴェルサイユ条約に反対するデモ・暴動として五四運動が起こった。軍国主義は1945年の第2次世界大戦の日本敗戦まで続くこととなった。

    国際化と世界協調 20世紀半ば~

     1945年に国際連合が設立された。第2次世界大戦を止められなかった教訓からである。憲章第1章第2条で国際関係における武力行使を原則として禁止し、この規範は大戦後の世界平和における基軸となった。中国では経済と政治システムの近代化、この二つが「中国近代史の主題」となった。中国共産党に主導権が移り、1949 年の新中国(中華人民共和国)の建国に結びついていくことになる[2]。日本は戦前の失敗から学び、日本国憲法による平和・法の支配・自由民主主義・人権尊重、自由貿易体制、民族自決、途上国の経済発展への支援といった近代の普遍的な諸原則の上に立ち、戦後構築された国際的な政治経済システムの中で、経済復興と繁栄の道を歩んだ[3]

    参考文献

    [1]竹下 關西大學經済論集 東アジアの地域秩序と社会経済システム中華文明の観点から ―2018

    [2]竹下 關西大學經済論集 東アジアの地域秩序と社会経済システム中華文明の観点から ―2018

    [3]20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と 日本の役割を構想するための有識者懇談会

    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/21c_koso/pdf/report.pdf

  • 我が国日本の課題とは?

    我が国日本の課題とは?

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    国民代表

     議会議員は特定の選挙区・身分・利益の代表ではなく、全国民の代表として行動すべきであるという考えのこと。日本国憲法第43条では「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」とある。

    政教分離

     国家と宗教は別々で国家の宗教的中立を示している。日本国憲法第20条1項では信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならないとある。

    社会契約

     国家は人々の契約の元にあるという市民の同意に求める理論。労働組合が労働条件の改善要求をしない見返りとして、政府が労働者の生活改善に努めるような社会・経済政策の実施を約束する政府と労働組合間の協定。

    ナショナリズム

     国家主義・民族主義・国民主義などと訳され、人が政治団体・特に国家への帰属意識を感じて、帰属しようと志向する感情または人が帰属する対象として他のものより国家を優先させるイデオロギーや運動のこと。

    法の支配

     国の統治が議会の制定した法律に基づいて行わなければいけないという原理。また、国家すべての人が裁判所の適用する法以外のものには支配されないとする思想。対義は君主や皇帝による絶対支配。

    国民国家に対する定義と内在する問題点

     国民国家は所属する国民がベクトルを同じ方向を向く構成員として統合することによって成り立つ国家を意味する。近代以降に民主主義が広まり国民主体の政治が普及した際にこの考えが生まれた。問題点としてこの国民国家は、国民の意思を反映させる制度であるが、経済が良くなるための政策や医療制度の改革など民に支持されるため、私利私欲を満たすための政治家が支持されるようになっている傾向がある。

    権力分立

     三権分立とも言い立法・行政・司法の3部門を定めて、それぞれ独立の機関である議会・政府・裁判所に決定権を持たせて、権力の一極集中を防ぐという考えである。日本においてはアメリカ型の明確な権力分立とイギリス型の立法権と行政権が合わさった議員内閣制の下で国会が最高機関である考えのハイブリッド型の体系となっている。モンテスキューが『法の精神』(1748)にて初めて説いたものが今日の近代国家の国の機関の主流である。

    有権者による指導者選択の観点からの民主政治維持上の『知る権利』の重要性

     日本国憲法21条では『表現の自由』を保障している。この表現の自由は人間の根本的自由の中心の1つであり、国民主権の下に民主主義を掲げている。また、表現の自由は政府による隠ぺいや改ざんなどで政治に対する意見が誤って国民に伝わることを防ぐため『知る権利』を含んでおり、政府から独立されたマスコミにより国民に伝えられなければならない。

    わが国の民主主義の課題

     日本の民主主義の課題として考えられるものを2つ挙げる。まず、日本の衆議院選挙の投票率が低く、政治に無関心な層があること。次に、女性の国会議員が少ないことが挙げられる。1つ目の衆議院議員は任期が4年と短く、参議院に比べ優越的権限を持つより民意を反映しやすい特徴を持つ。その衆議院選挙ですら平成29年全体の投票率で、53.68%と選挙権を持つ国民の半分しか投票を行っていない1)。これは政治に対する無関心を示していると言える。誰が国会議員になっても日本の政治、経済は大きく変化しないだろう。自分の1票を投じても国はどうせ変わらないと言った考えである。世界を見てみるとベトナム、シンガポール、オーストラリアといった国々で軒並み90%を超えている。例えばベトナムはこの背景に、地域の投票率が地区の「成果」とみなされることがあるという。地区選挙管理委員会の人たちは投票率を限りなく100%に近づけるため、投票に来ていない人を家まで呼びに行き、代理投票をも促す。法律では有権者本人が投票をするべきだが、実際には家族などによる代理も存在する。また、投票に行かない人はシンガポールでは選挙権の剥奪。オーストラリアでは1600円ほどの罰金がある2)。このような理由から高い投票率を実現している国も存在する。

     2つ目の女性の国会議員が男性に比べて少ない。少ないことが意味していることは女性特有の出産・子育て問題などの民意が通り辛い状況になっている。出産後に受け入れてもらえる保育園がなく社会復帰がしづらい。このような問題を解決していくには女性の声を大きくする必要がある。しかし、日本の2019年の女性議員の割合は13.8%である。世界を見るとアメリカで23.8%、多いところではルワンダ55.7%やキューバ53.2%といった女性のほうが高い割合の国も存在する3)。解決策としてフランスではパリテ法という男女の国会議員立候補を同数とすることを法律で定めている。その結果、2018年では40%近い女性比率を生み出している4)

    参考文献

    • 総務省webサイト https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/
    • ベトナムの選挙制度 https://life.viet-jo.com/howto/basic/357
    • Global Notehttps://www.globalnote.jp/post-3877.html
    • com https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00409/
  • 「強い首相」と「弱い首相」

    「強い首相」と「弱い首相」

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     「強い首相」の例として、日本の憲政史上最も任期の長い安倍元首相について挙げる。2020年9月16日に辞任した安倍晋三前首相の通算在任日数は3188日、第2次政権発足以降の連続在任日数は2822日で、いずれも憲政史上最長を記録。自民党は2012年衆院選から2019年参院選と国政選挙で6連勝している。安倍内閣第2次政権以降、大胆な金融緩和と財政出動、成長戦略を打ち出した「アベノミクス」が自民支持層の結束を固めていると分析する識者もいる1。安倍政権が誕生した2012年12月26日時点で、1万円を少しだけ上回っていた日経平均株価は、その後の急上昇により、2013年5月23日には1万6千円付近をつけた。2015年6月24日の東京株式市場で、日経平均株価は一時2万0952円71銭まで上昇し、2000年4月12日終値で付けたITバブル期の高値2万0833円21銭を超えた2。2016年7月のアベノミクスについての調査で「期待する」と答えた人は46%だったが、自民支持層では76%と高かった。

     一方、「弱い首相」の象徴となってしまった菅義偉元首相は2021年10月9日、首相官邸での記者会見にて自民党総裁選に立候補しないことを表明した。任期は約1年であった。「新型コロナウイルス対策と多くの公務を抱えながら、総裁選を戦うことはとてつもないエネルギーが必要だ。12 日の緊急事態宣言解除は難しいと覚悟するにつれて、コロナ対策に専念すべきだと思い、出馬しない判断をした」と説明した。首相はワクチン接種の加速や東京オリンピック・パラリンピックの成功で政権浮揚を図り、総裁選を無風で乗り切る戦略を描いてきた。しかし、感染拡大に歯止めはかからず、与党は4月の衆参3選挙で不戦敗を含む全敗を喫し、8月の横浜市長選でも首相が支援した候補が大敗。自民党内で交代論が高まった。首相周辺は「最後に解散権を封じられて政局を主導できなくなり、首相の気力が一気に萎えてしまった」と振り返った3

     日本は「官僚内閣制」であり、大きな舵を切って違う方向に向けるときには違う方向に向けるという決定を一度行い、それに従って機敏に小さな決定をしていくことが難しいと言える。内閣総理大臣が方針を決めたら、それを関係各省庁で落とし込んで各大臣がやっていくという協力関係を作る。そのためには、きちんとした政党政治があってマニフェストにて有権者の信任を得るという手順を踏まえないといけない。これでは非常に時間がかかる。

     もう1つの例として以前の小泉元総理は改革を進めるに際して、改革という言葉がひとり歩きして、いつまで経っても改革の中味が明確にならないという問題点があった。細目について詰めることはなく、ただただインパクトで改革と言う。みんなで細目を詰めろというのだけれども、下の人たちは目的を共有していないので非常に混乱が生じている。だから、改革という言葉だけを出しているが、改革という政策が構造になっているというイメージが湧かない。「構造改革」という言葉は出てきたが、その中味が伝わっていない。それに大きな決定ができないから、改革しなければいけないという意識だけは高まっていって、言葉だけは非常に過激化していく。それが、ますます実態と遠くなるので、実現不可能な政策が唱えられるという病気をもたらしてしまった。

     日本における与党のあり方に関連する「官僚内閣制」だから、政治家は何もしていないのかというとそうではない。政治家と官僚はどちらが優位かというと、政治家だと答える人が多いのは自由民主党が中心となって、与党政治家がさまざまな活動をしているためである。議院内閣制の建前からいうと与党が内閣をコントロールするため、内閣と政権をとった政党は一体になっているはずである。ところが、日本では内閣に入った人はまた与党のことには口出しをせず、与党は内閣と別に政策を扱うことになり違う動きをするようになる。そうすると法律を決めるのでも何でも官庁間の官僚が調整する仕組み、官僚が政治家に説明する仕組みが二重になり、両方整わないと法律はできない仕組みになっている。目的がはっきりしないのだけれども、小さな決定はどんどんやるということを与党でもしている。そうなると、政治家が大きな方針を決めて官僚がそれに従うという関係ではなくて、政治家も積み上げするため、政治家も細かなことに関心があるという状態になる。そうすると、政治家たちも非常に細かな利益をたくさん持つようになってきて、全体的に改革を進めるというときに意見の一致が難しくなると言える4

    参考文献

    1.安倍前首相は通算在任日数3188日 : トップ4は“長州閥”が独占 nippon.com

    https://www.nippon.com/ja/features/h00296(2022.01.20閲覧)

    2.Stock Guide http://stockguide.biz/abenomikusu-315.html(2022.01.20閲覧)

    3.政治学原論2021(第15回授業)

    4.独立行政法人経済産業研究所 https://www.rieti.go.jp/jp/special/af/s08.html(2022.01.20閲覧)

  • メディアが世論に与える影響は?

    メディアが世論に与える影響は?

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     テレビが一般家庭に普及した1960年代以降には、マスメディアは人びとに強い効果を与えるという強力効果論(Powerful Effects Theory)が現れた。この強力効果論は現在でも効果論研究の主流であるとされている1。強力効果説とも。マスメディアの影響は大きく、受け手に対して、直接的、即効的な影響を及ぼすという考え方の総称。「弾丸理論」、「皮下注射論」などとも呼ばれている。20世紀になって、大衆化した新聞・雑誌・ラジオなどの、暴力的なメディアや、性的なメディアが、受け手を暴力的にしたり性的にしたりするという「強力効果説」の発想が、大衆的な通念として流通してきた[2]。しかし過去の実証的研究で裏付けが取れたことはない。

     1973年にElisabeth Noelle-Neumannの沈黙の螺旋理論は世論と人びとの意見表明についての理論である。見かけ上の多数派意見とは異なる意見を持つ者は、周囲の人びとから孤立することを恐れて発言することを避ける。実際には「少数派意見」を持つ者が多く、「多数派意見」を持つ者が少なかったとしても、少数が声を大きくして「多数派意見」を述べる。見かけ上は「多数派意見」が多いように見え、「少数派意見」を持つものは沈黙しているために人数が少ないように見える。結果、「少数派意見」を持つ者はサイレント・マジョリティとなる。サイレント・マジョリティの意見である「少数派意見」が表立って明らかにされないために、これと異なる意見である「多数派意見」の世論はますます増大し、サイレント・マジョリティはますます孤立を恐れ、沈黙を続けていく。サイレント・マジョリティの沈黙がさらに続くと、また「多数派意見」の世論が増大し、サイレント・マジョリティは真の少数派へとなっていくというモデルである。この世論とはマスメディアによって公開された意見(public made by opinions)を指す。人々が「多数派意見」を世論であると認識する指標は、マスメディアが報じているか否かで決定されるものである。以上が沈黙の螺旋理論の概要である。

     中央の螺旋のように「少数派意見」を持つ者が沈黙することと、「多数派意見」を持つ者が意見表明すること、それぞれが増大していくのには2つの背景がある。1つはマスメディアが「多数派意見」を長期間にわたり取り上げること、つまりマスメディアによる「多数派意見」の持続的提示であり、もう1つは周囲の人びとに「少数派意見」支持と表明する者が減少することである。これら2つの背景により、世論は「多数派意見」であると次第に人びとに認知されていくようになる。つまり、世論と反対の意見を持つ人たちは沈黙してしまうので、世論と同じ意見を持つ人と、反対の意見を持つ人が実際には同じ数だけ存在あるいは、たとえ反対の意見を持つ人がより多くいたとしても、見かけ上は世論と同じ意見を持つ人たちのほうが反対の意見を持つ人たちよりも多く存在するように見えてしまうのである。

     主にテレビの影響力に注目し、「テレビ視聴の反復性や非選択性により、テレビは社会において何が現実であるかという共有された現実感覚を『培養』していく」(培養効果)と考え、現実認識への影響を明らかにするための分析。ガーブナーにより提唱され、実証的研究がすすめられた。例えば、テレビでは現実社会に比して多くの暴力シーンが描かれているが、視聴者の現実認識について分析してみると、テレビの視聴時間が長い人は「暴力に巻き込まれる頻度」について、より高く見積もる傾向があると指摘されている3

     立憲民主党は2021年10月の第49回衆議院選挙で改選前の109議席を96議席へと13議席減らした「敗北」をうけて、枝野幸男代表が辞意を表明、福山幹事長も辞意を表している。他方、対照的に改選前276議席を261議席へと15議席を減らした自民党はまるで「勝利」したかのごとき扱いである。開票速報、そして翌、翌々日の大新聞、テレビ局の報じ方に、疑問を感じる方は少なくなかったのではないだろうか。衆議院選挙後、またしてもマスメディアによって、「自公勝利、維新躍進、立憲民主党大敗、野党共闘失敗」といったマス・イメージが形成されたようであるが、それはこの総選挙の実態を本当にきちんと表しているといえるのだろうか4。確かに野党ではなく、与党が議席を伸ばしたわけでもなく、減らしたにもかかわらずこの結果でメディアが報じているのは違和感があると言える。この世論とはマスメディアによって公開された意見により、人びとが「多数派意見」を世論であると認識している例であると言える。

    参考文献
    1.
    効果論研究史における限定効果論と強力効果論の関係の在り方
     ―パーソナル・コミュニケーションの扱われ方の違いに着目して― 中林
     https://digital-narcis.org/information_society/vol12/vol_12_04_pp_33-nakabayashi.pdf

    2.Noelle-Neumann, Elisabeth, 1973, Return to the Concept of Powerful Mass Media, Studies of Broadcasting, No.9, pp.67-112. 情報社会試論 Vol. 12 (2011) 38

    3.中村功「テレビが視聴者の現実認識に与える影響 : ワイドショー等,番組タイプ別の培養分析」『松山大学論集』第10巻第3号、松山大学学術研究会、1998年8月、 133-162(p.144)

    .マスコミの情報操作にだまされるな!「与党危機」の事前予想との落差がつくった自民党勝利ムード!第49回衆議院選挙・自民は15議席減でも「勝利」なのか!?マスメディアは選挙中・選挙後何を報じていたのか!? 2021.11.5

  • 民主主義の移り変わり

    民主主義の移り変わり

    はじめに

     民主主義とは国民が主権を持つ国家体制である。国民が重要な決定権を持ち、国民が選挙権を持って代表を選び、憲法改正・重要な法改正などでは国民投票も行われる。民主主義の考え方は古代より存在し、古代ギリシアの自由民による政治参加が認められていた。近世ヨーロッパを始めとする国家では絶対君主を中心とする体制(君主制)が敷かれていた。そこで、彼らは自ら被支配者たる地位を脱して、政治的自由の獲得を望むようになる。この傾向は17世紀のイギリス革命、また18世紀のアメリカ合衆国建国として現われた。1789年に起ったフランス革命はその最も強力表現である。歴史の新しい方向を決定させ、これは近世後期の転換点と言える。近代まで選挙権は一定の税金を納めている者、貴族など特権階級に与えられていた。現代では民主主義制を取る多くの国である年齢に達すれば選挙権が与えられる普通選挙が普及している。

    近世の民主主義について

     近世初期はいわゆる絶対主義の時代であった。すでに15・6世紀以来人々の間に自由の意識がめざめていたが、18世紀末まではなお旧時代の遺制が種々の面に残っていて人間の生活をしばっていた。政治の上では絶対君主を中心としてそれと結託した貴族・僧侶を支柱とする体制が厳存し、一般庶民はなんら政治上の発言権がなかった。しかるに近代産業のめざましい発達は次第に富裕で教養の高い市民階級を生み出し、彼らは自ら被支配者たる地位を脱して、政治的自由の獲得を望むようになった。この傾向は17世紀のイギリス革命として、また18世紀のアメリカ合衆国建国として現われた。しかも1789年に起ったフランス革命こそは,その最も強力かつ徹底的な現われであって,歴史の新しい方向を決定したものであるから、これを近世後期の出発点に置くことは至当である。

     フランス革命によってアンシャン・レジームという言葉が創出された。1788年、貴族身分の1パンフレット作者によって用いられたのが初出とされる。1789年の春の選挙は、フランス国内の3つの身分の代表者が議論をする場として、全国三部会を中心とした新体制が樹立された。新たな夜明けが始まり、これ以前の体制を「以前の体制」として言及するものが現れたのである。この旧来の統治が崩壊するにあたって、1788年夏に頂点に達した政治的抗争と論争の渦中で人々は、これらすべて恒久的な基盤に立って律するためには憲法が必要だと語り始め、結果として国民議会が1791年9月に憲法を生み出した。その憲法はアンシャン・レジーム下にあったすべての事柄に対する逆を体現すべく意図されたものとなる。それは、国民主権、法の支配、権力分立、選挙による代議制政府、広範に保障された個人の諸権利を高々と掲げるものとなった。

     フランス憲法前文の宣言では、『自由および権利の平等を害していた諸制度を最終的に廃止する。貴族身分、世襲的差別、封建体制、家産的な裁判、それらから由来するいかなる爵位称号も特権、そしていかなる騎士身分、あるいは、貴族の証明の必要、生まれの差別を含むようないかなる社団や勲位などもはや存在しない。フランス人に共通な法に対する特権も例外も存在しない。法は、自然権や憲法に反するような宗教的誓約も他のいかなる契約も承認することはない』とされる。

     これまでのアンシャン・レジームの下では聖職者や貴族という特権身分が存在し、多くの共同負担は免除されていた上に、すべての公的な権力と利益とが独占されていたが、歴史的な客観性は全く考慮されていない。そのため、基盤となるものが何もないのである。そのため、アンシャン・レジームに対する最初にして最大の擁護者としてエドマンド・バークがいる。彼の『フランス革命に関する省察』は、主にイギリスの自由とフランス革命によって宣言されたものと2つの自由は全く異なるという考えであった。イギリス人は過去から継承されてきた制度を信頼しているが、フランス人は継承してきたものを改革によってすべて捨ててしまっている。アンシャン・レジームに手を加えて改善していけばよかったのではなかったのか。また、彼は特に教会に対する攻撃に憤りを感じていた。バークは、教会は調和がとれた社会基盤の1つであり、革命は市民社会の基盤、1つの国家、宗教的権威を革命は破壊したのだという主張をする。アンシャン・レジームの時代は秩序と従順、所有の尊重、そして宗教への敬意の時代であった。

     アンシャン・レジームについて知識を深めるために本格的な学問的研究は1856年に開始された。アレクシス・ド・トクヴィルの『アンシャン・レジームとフランス革命』が創刊された年である。彼にとって革命とは、フランス社会に長いこと以前から伏在していたものが、ただ大きくなり完結させたものであると考えている。近代社会の流れは不可避的に平等へと向かう。危険なのはそれによって専制政治への道や自由の破壊への道が開かれてしまう点である。かつて中世では自由であったが、アンシャン・レジーム下では一部の特権階級への特権や免除が発生。それを水平にする革命が歴史そのものの推進力に他ならないという。また、トクヴィルは述べる。アンシャン・レジームがヨーロッパの大半が同一の諸制度を持ち、フランス特有というわけではない。ではなぜ、フランスで最初に起こったのか。彼によれば、特にフランスでは中央集権的統治によって、公的な発言権も義務という感覚も人々から奪われていた。盲目のその中で非現実な啓蒙思想の夢に魅了され既存の諸制度への軽蔑へと駆り立てられた結果であると述べている1)

    現代の民主主義について

     現代の民主主義の課題として日本の例について挙げる。日本は立憲民主主義であり、憲法の元に平等な普通選挙制であるため年齢に到達すると国民皆に選挙権が与えられる。それゆえに問題点も生まれている。1つ目に、まず、日本の衆議院選挙の投票率が低く、政治に無関心な層があること。次に、女性の国会議員が少ないことが挙げられる。

     1つ目の衆議院議員は任期が4年と短く、参議院に比べ優越的権限を持つより民意を反映しやすい特徴を持つ。その衆議院選挙ですら平成29年全体の投票率で、53.68%と選挙権を持つ国民の半分しか投票を行っていない2)。これは政治に対する無関心を示していると言える。誰が国会議員になっても日本の政治、経済は大きく変化しないだろう。自分の1票を投じても国はどうせ変わらないと言った考えである。世界を見てみるとベトナム、シンガポール、オーストラリアといった国々で軒並み90%を超えている。例えばベトナムはこの背景に、地域の投票率が地区の「成果」とみなされることがあるという。地区選挙管理委員会の人たちは投票率を限りなく100%に近づけるため、投票に来ていない人を家まで呼びに行き、代理投票をも促す。法律では有権者本人が投票をするべきだが、実際には家族などによる代理も存在する。また、投票に行かない人はシンガポールでは選挙権の剥奪。オーストラリアでは1600円ほどの罰金がある3)。このような理由から高い投票率を実現している国も存在する。

     2つ目の女性の国会議員が男性に比べて少ない。少ないことが意味していることは女性特有の出産・子育て問題などの民意が通り辛い状況になっている。出産後に受け入れてもらえる保育園がなく社会復帰がし辛い。このような問題を解決していくには女性の声を大きくする必要がある。しかし、日本の2019年の女性議員の割合は13.8%である。世界を見るとアメリカで23.8%、多いところではルワンダ55.7%やキューバ53.2%といった女性のほうが高い割合の国も存在する4)。解決策としてフランスではパリテ法という男女の国会議員立候補を同数とすることを法律で定めている。その結果、2018年では40%近い女性比率を生み出している5)。近代の民主主義を勝ち取ろうと団結した時代の波は現代社会ではもはや存在しないとも言えるのではないか。国民は普通選挙を獲得すると、人々はその年齢になれば選挙権を与えられることが当たり前になり、今では政治に関心を持たせようとするジレンマも生まれている。例えば、昨今のイギリスのEU離脱の国民投票のように、民主主義では一時の流れだとしても国民の過半数が手を上げればその道を選ぶことになる。この状況が民主主義を見直す大きな波となる可能性も捨てきれないと言えるのではないか。

    参考文献

    [1] ウィリアム・ドイル著/福井憲彦訳「アンシャン・レジーム」(岩波書店、2004年)

    [2] 総務省webサイト https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/

    [3] ベトナムの選挙制度 https://life.viet-jo.com/howto/basic/357

    [4] Global Note https://www.globalnote.jp/post-3877.html

    [5] Nippon.com https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00409/

  • 生命の階層構造とは?

    生命の階層構造とは?

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     1.はじめに

    生命は階層構造をなしている。分子 (H2O,O2),生体分子 (DNA,RNA, 蛋白質),細胞内小器官 (ミトコンドリア),細胞 (赤血球),組織 (上皮組織),器官 (肺,胃),個体 (ヒト),集団 (人類集団),生態系 (環境) のように生物界を階層的にみることができる。生命はこうした階層を通して進化し,より複雑な生命が生まれてきたと考えられている1)。

    生体内に備わっている仕組み 免疫

     免疫は病原体が宿主に侵入しても、発病しないように働く生体の防御機構のこと。免疫反応を起こさせる抗原がある。抗原は外来性抗原と生体内抗原がある。外来性抗原には病原細菌、ウイルス、移植組織、異型輸血、毒素、タンパク、花粉などがある。生体内抗原には腫瘍細胞、感染細胞、老廃組織、自己免疫疾患などがある。抗原に対する免疫反応が生じないように許容される免疫寛容があり、この寛容が弱いとアレルギーや自己免疫疾患を生じる。Treg細胞などが関わる。生体防御機構の分類としては非特異的免疫と特異的免疫がある。非特異的免疫は生まれつき持っている免疫系であり、一次防衛線には皮膚、粘膜、分泌物、 抗菌タンパクがある。一次防衛線を突破した場合に働く二次防衛線では、マクロファージ、好中球 肥満細胞、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞などが存在する。

     特異的免疫は三次防衛線と呼ばれT細胞 (キラー細胞)、抗体(γ-グロブリン)がある。非特異的免疫の一次防衛線の皮膚は重層扁平上皮、脂肪酸での細菌増殖抑制する脂線、汗腺により防御されている。粘膜上皮は粘液(分泌型 IgA)、線毛による排除、リゾチーム(鼻汁、涙、唾液)、乳汁(ラクトフェリン(鉄結合タンパク))からなる。その他、発熱により微生物の増殖を防ぎ、嘔吐、鼻水によりウィルスを排出する。二次防衛線の食細胞である好中菌は過酸化水素やリゾチームなどによって殺菌溶菌する。マクロファージは病原微生物を貪食し、その抗原情報をT細胞に知らせ、オプソニン効果により細胞活性が亢進する。NK細胞は特殊リンパ球が癌特異抗原、ウイルスに感染した細胞を認識し、攻撃する。マクロファージやヘルパーT細胞から分泌される活性物質(IL-2、IFN-γ)によって活性化される。組織中の肥満細胞や血液中にある好塩基球はヒスタミン、好中球遊走因子、ロイコトリエン LT などを分泌 し、アレルギー反応を起こす。即時型アレルギーに関わる。

     非特異的免疫の三次防衛線では獲得免疫は病原細菌に感染することで抗原情報が記憶される仕組み。リンパ球の細胞性免疫であるT細胞や液性免疫であるB細胞がある。また、マクロファージは抗原提示細胞で組織に定着している1)。以上により免疫はウィルスなどの感染を3段階の防御を備え、生体防御システムとして機能している。

    2.生命の階層構造について

    下記に生命の階層構造を示した。一般的に9区分に分けられる。

    個体:存在するそのもの

    器官系:共通の働きを持つ器官の集まり

    器官:肉眼で見えるような形を持つ構造

    組織:器官をつくる素材で、細胞の集まり

    細胞:顕微鏡で見えるサイズで生命の最小単位

    細胞小器官:細胞の中で一定のはたらきを持つ構造

    巨大分子:分子の中でも大きなかたまりを示す

    分子:複数の原子からなり、人体のはたらきにおける最小単位

    原子:原子核とそれを取り巻く電子からなる、物質の基本的な構成要素

    3.階層構造の例

    一つ目にヒトの心臓を挙げる。心臓は単核でミトコンドリアが数多く存在し、

    自らの意識下では動かない不随意運動をする。

    個体ではヒト

    器官系の階層では心臓が血液を体の中で回している循環器

    器官の階層では心臓

    組織の階層では心筋組織

    細胞の階層では心筋細胞

    細胞小器官の階層では細胞内細胞質基質中に核、リボソーム、小胞体、ミトコンドリア、

    葉緑体(色素体)、ゴルジ体、中心体、リソゾーム、液胞が存在する。

    以上よりヒトの心臓は階層構造を成しているといえる。

    二つ目にヒトの小腸を挙げる。

    個体の階層ではヒト

    器官系の階層では消化器。胃や大腸と同じ位置

    器官の階層では小腸

    組織の階層では腸鞭毛、粘膜下組織など

    細胞の階層では腸上皮中の杯細胞、食物消化物が通る内腔の表面の上皮細胞

    細胞小器官の階層では細胞内細胞質基質中に各種存在する核からなるもの

    以上により、ヒトの小腸は階層構造を成しているといえる。

    三つ目にヒトの血管

    個体ではヒト

    器官系の階層では血液を体の中で回している循環系

    器官の階層では血管

    組織の階層では動静脈血管壁 内膜、中膜、外膜から構成

    細胞の階層では内皮細胞、平滑筋細胞などから構成

    細胞小器官の階層では細胞内細胞質基質中に各種存在する核からなるもの

    以上により、ヒトの血管は階層構造を成しているといえる。

    参考文献

    [1] 免疫のしくみと働き http://plaza.umin.ac.jp/~histsite/3immuntxt.pdf

    [2] 要素多様性に基づく生命の階層構造の進化に関する抽象モデル https://www.ai-gakkai.or.jp/jsai2007/data/pdf/100170.pdf

  • 企業にとってより良い資本構成を考える

    企業にとってより良い資本構成を考える

    はじめに

     最適資本構成を決定する理論的な要因は、「資金調達方法」及び「資金調達の組み合わせの比率」である。また、最適資本構成において、企業が最大化することを想定しているのは「企業価値」である。完全競争の状態では取引費用、税金を無視できる。しかしながら、実際の市場においては税金や倒産などの不完全性が存在する。企業は負債利子による節税効果を求めて負債を増やそうとするモチベーションと負債比率の上昇に伴って倒産リスクが高まる危険性を考慮しつつ、企業価値を最大化する資本構成を目指すこととなる。

    資金調達方法

     企業の資金調達方法は「内部資金」と「外部資金」に分類することができる。外部資金の調達方法として銀行借入れ、社債発行、新株発行等があり、企業はこの調達方法の中からもっともコストが抑えられるように資金調達が選択される。

    企業が内部資金を使って資金を調達した場合

    自らが保有している自己資金を使用した場合、その企業は資本購入のための資金をほかで資産運用することで得られたであろう利子収入を失う。また、資本市場が完全競争で取引費用や税制の問題を取り除ける場合、内部資金と銀行借入れの資金調達コストも同様になる。したがって完全競争な資本市場の元では、有形固定資産や無形固定資産を外部の資金で購入しようと、自らの資金で購入しようと違いはないと言える。

    企業が外部資金を使って資金を調達する場合

    外部資金の内、銀行借入れと社債は負債であり、いずれも償還時には原本と利息を支払うこととなる。特に資本市場が完全競争であれば取引費用が無視され、社債と銀行借入れの資金調達コストは同様になる。新株発行の場合、株の購入者が企業の得た利益の一部を配当として受け取ると同時に株主として会社の経営に関わることができるという点で、銀行借入れや社債とは異なる性質があると言える。ただし、完全競争的な資本市場の場合、企業の調達可能額すなわち企業価値という観点から見ると新株発行による資金調達コストは負債による資金調達方法と同様となる。

    資金調達の組み合わせの比率

     企業が効率的に資金調達を行い、最適な資本構成となりうるのだろうか。この問に関して、モディリアーニとミラーの二人が言及している。彼らは「理想的な資本市場では、負債と株式の資本構成によって企業価値は変化しない」という「モディリアーニ=ミラーの定理(MM定理)」を明らかにした。自由な市場経済における一物一価の法則を資本市場に当てはめると、どのような証券であっても同じ価格がつけられるはずである。このことから完全競争的な資本市場であればMM定理は成立すると言える。

    しかし、実際の資本市場では様々な問題点があり不完全である。不完全市場の場合は節税効果の分、資金調達が負債であるほど企業価値が高くなる。しかし、負債が大きくなるほど債務不履行の可能性が高まり、倒産による権利の喪失や取引停止による売上減などの倒産コストが発生する。その負債の増加は節税効果の面では好ましいが、倒産コストの面では好ましくないというトレードオフの関係が発生する。この関係を図にすると、最適な負債は限界節税効果と限界倒産コストが等しくなる点Aに決まり、この点が企業価値を最大にできる最適資本構成であると言える。(図1)

    MM定理に法人税と倒産コストを加味した上記の考え方をトレードオフ理論と呼ぶ。この理論では安全性の高い資産を多く持ち、高収益で課税所得の大きい企業は倒産する確率が低いことから負債利用度を高めることが合理的である。一方、安全性の低い資産を持ち、収益性の低い企業は倒産する確率が上がるため、負債の利用を抑えて株式発行による資金調達が合理的であるとされる。また、最適資本構成の考え方の一つにエコノミックキャピタルがある。自社が急激な景気減退などで訪れる損失額及び株主に負担をかけない割合でこれを下回れば企業価値低下を始める。これが最適資本構成点であるとも考えられる。

    エコノミックキャピタル(円) = 現預金×0 + 売上債権×0.15+その他流動資産×0.4 +有形固定資産×0.6 +その他固定資産×1

    また、それは資産の比率だけではなく、財務の健全性は資産のリスクに見合う以上の自己資本額を持っているかどうかで示される[1]。

    ペッキングオーダー理論

     ペッキングオーダー理論とは、資金調達コストの大きさを表したものである。

    内部資金<銀行借入<社債<新株発行

    上記の階層構造順に資本調達コストが低いと考えられている。実際の資本市場では不完全性から調達コストに差が出る。内部資金が最も調達コストが低いと考えられているのは、貸し手と借り手が同一の経済主体であり、制約なしに調達することができるからである。一方、外部資金の場合、借り手の企業情報が不透明で貸し手は事前に借り手の情報を収集する必要があるほか、貸し出し後にもモニターする必要があり様々なコストが発生する。このように外部資金はより高い資金調達方法となる。

    おわりに

    現在においても完璧な最適資本構成の理論的な導出方法はない。企業の資本構成はそれぞれの企業の特色によって見合ったものが必ずある。トレードオフ理論やペッキングオーダー理論を念頭に置くことにより、企業にとってより良い資本構成は導けるのではないだろうか。資本構成を考えていない企業は資金調達方法を見直し、現在よりも良い資本構成へとターゲッティングしていく必要があると感じた。

    【参考文献】

    [1] 企業価値向上経営セミナー「企業価値向上経営の実践に向けて」講義録2016.9.12

    https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/award/nlsgeu000002dzl5-att/20160912_lecture_report.pdf